No.10 マイナーではない
「おはよーなのにゃ。ヨウは冷蔵庫の中身を知らないかにゃ? 昨日補充したばかりなのに空っぽなのにゃ」
「お主、本気で言っておるのかぇ? ほれ、坪庭の隅を見やれ」
妾が指差した方をあっち向いてほいの要領でカルカンが向く。
「何にも無いのにゃ」
「マジで眼科に通院した方がええぞ? 積み上がっている空き瓶と空き缶があるじゃろうに」
「私が求めているのは中身が入った缶と瓶にゃ! 一体どこにいったのにゃー……」
光の神は頭がパアだからパァっと明るいのだろうか。
「おい、こらヨウ、失礼なことを考えるにゃなのにゃ!」
何やらバタバタと抗議をしているが、妾の朝食に埃が入るから止めて欲しい。あと、流石に酒臭くて敵わん。少しは控えて貰うとするか。
考えを纏めていたら、カルカンは物凄い勢いで首を何度も振っている。
「な、なななな、なんて恐ろしいことを考えるのにゃ。私は何も悪くないにゃ」
「ふむ、心を覗かれるのは厄介なのじゃ」
「にゃーーー!? 何の呪文にゃこれ? 謎の記号がいっぱいで眠くなるのにゃー!」
幾つか数式を頭の中に思い浮かべてやったら、カルカンは呪文だなんだと騒ぎ出したが、過去の数学者全員に土下座してこいと思ってしまうな。
「カルカンよ。心を覗いてないでちゃんと対話で意思疎通をしようぞ。妾も流石に、こんな残念な神のせいで世界が滅ぶのをよしとせんぞぇ?」
すかさず両腕を上げて万歳ポーズを取るカルカン。
「つまり、封印されてくれるのにゃ?」
「そうはゆうておらん。法則の男神の堪忍袋が切れるリミットを教えんか。話はそれからじゃ」
カルカンは腕を組んで明後日の方を見上げている。
妾も煎茶を啜って人心地つけた。暫くそうしていたら、ふと目と目が合う。
「で、リミットは?」
「知らないのにゃ」
「は? 何をゆうておるのじゃ?」
妾が食べようと手を伸ばした栗饅頭をカルカンが奪って匂いを嗅ぎだす。
「そもそも私はこれが下界での初任務だから、勝手が全く分からないのにゃ。んにゃ? この栗饅頭旨いのにゃ。飲み物にミルクスタウトが欲しいにゃ」
「またマイナーなビールを所望しおってからに……。お主、あんなに偉そうにしておって初任務だったのかぇ?」
「ミルクスタウトはマイナーではない黒ビールなのにゃ。仕方が無いから説明するにゃー!」




