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私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第五章 セレナーデ 〜巡る季節と紡いだ絆〜
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67話 スコールドトラウマ

和訳『心に残る火傷』

「大丈夫ですか、直樹さん」

「あっ、亜紀さん。お見苦しいところを……」


 肩を叩いて来たのは、なんと亜紀だった。


 恥ずかしい所を見られた僕は少しバツが悪くなり、すぐにでもこの場から立ち去りたかったのだが……


「足、見させて貰っても良いですか?」

「えっ……あっ、すみません」


 ズボンを捲り、僕が膝を擦り剥いているのに気付いた亜紀は、近くのベンチに誘導すると、鞄の中からペットボトルの水とハンカチを取り出して、擦り剥いた場所を洗い流してくれた。


「ありがとうございます」

「いえいえ、どういたしまして……後でちゃんと消毒してくださいね」


 僕が頭を下げると亜紀は温かな笑顔で返してくれたのだが、少しだけ顔を曇らせると……


「そう言えば、晴希ちゃんとは会えましたか? 私も連絡はしてるんですけど、繋がらないから心配で……」


「…………」


 亜紀の問い掛けに対して、視線を落とした僕は、フゥーっと息吐くと、全てを打ち明ける事にしたのだが……


「晴希は、記憶を失っていて、僕の事も……」

「あの時と同じみたいですね」


「?」


 どうやら亜紀の話では、以前にも晴希は記憶を失った事があるらしい。それは、晴希がまだ小学生の頃……両親を火事で亡くした時からの症状だと言う。


 間近で両親の死を目の当たりにしてしまった晴希は、トラウマを抱え、焚き火以上の炎を見ているとパニック障害を引き起こす様になってしまったんだとか……


「一度、パニック障害が起こると、数日間の記憶が消えてしまって……」


「晴希に、そんな事が……あっ!!」


 僕は新年会で起きた火災の事を思い出していた。もしかしたら、あの灼熱の部屋の中で晴希はパニック障害を引き起こして、記憶を無くしてしまったのかも知れない。


「晴希の記憶は、もう戻らないのかな」


「心の奥底にか閉じ込めてしまっているんじゃないかと、お医者さんは言っていたそうですが……本当の所は、分かりません」


 ――僕との思い出は、今も眠ったままなのだろうか?


 とは言えトラウマと一緒に封じ込められた記憶を呼び覚ますのは、簡単な事では無いらしい。


 それでも僕は……


「僕……頑張ってみます」

「はい、私も応援してますね」


 亜紀と分かれた僕の顔は、やる気に満ちていた。少なからず、晴希の記憶に残っている可能性がある事が分かったからだ。


 とは言え、何か策がある訳でも無く、途方に暮れていると……


 ピビピッ……ピビピッ……


 沈黙を破る様に、スマホが鳴った。

 どうやら夏稀からの電話の様だ。


「もしもし、草原さん。今度の週末、予定空いてたりするか?」


「特に予定は無いけど、何かあるのか?」


 話を伺うと、どうやらスノーボードへの誘いらしい。何でも、ご近所さんからスキー場のペアーチケットを2組貰った様で、勿体無いから一緒に行かないかと誘われたのだが……


「でも、僕はスキーもスノボーもやった事無いしな……」


「じゃあ、行かないのか。折角、ハルも誘ったのにな」


 ――えっ!?


 困惑しつつも、晴希に会いたかった僕は夏稀からの誘いを受ける事にしてしまったのだった。



 ― 土曜日 ―


 早朝5時、待合せ場所であるスーパーの駐車場に着くと、既に晴希と夏稀が待機していた。


「草原さん、1分遅刻だぞ」


「遅れてごめん……それと()()()さん、この前は急に手を握ったりしてごめん。驚いたよね」


「いえ、私の方こそ、気が動転していたみたいで、すみませんでした」


 どこか余所余所しい僕を見て、何かを言いたそうな夏稀だったが、記憶喪失の晴希を想っての事だと察したのか、口に出す事は無かった。


 それから20分ほど経った頃、戦車の様にゴツゴツとした車が入って来て……


「ふははは……遅くなった」

「遅ぇよ、政斗。20分も遅刻だぞ、どんだけ待たせんだよ」


 車に乗っていたのは、なんと政斗だった。一抹の不満はあったが車に乗り込むと……


「ふははは……じゃあ遅れた分は、飛ばして行くか」

「いや、そこは安全運転で頼む」


 何はともあれ、4人でゲレンデへと向かう事になった。後部座席には僕と晴希が座ったのだが当然、会話は無い。夏稀も寝ている様で、車内には政斗の高笑いだけが響き渡っていた。



 ― ゲレンデ ―


 到着後は男女分かれて着替えをする事になったが、一緒にいた政斗が服を脱ぎ始めると……


 ――なっ、何て体だよ。


 そのあまりにも大きく、逞しい体に暫く見とれていた僕だが、腕から手に掛けて巻かれた包帯に気が付くと……


「もう手は、大丈夫なの?」


 すると僕の言葉に気付いた政斗は、急に近寄って来ると……


「ふははは……痺れが残っててのぉ、まだ林檎ぐらいしか握り潰せんのだ」


 ――いや、十分に化物だよ。


 僕は若干、引いていたが、政斗は本調子には程遠いと嘆いていた。とは言え、もう日常生活には支障は無いらしく、今回も気分転換で来たらしい。


 着替えを済ませた僕達が更衣室から出ると、目の前には既に着替えを済ませた晴希達がいた。晴希は白のシャボン玉柄、夏稀は青い炎柄のウェアに着替えていたのだが……


 ――やっぱ、可愛いな。


 晴希のウェア姿があまりにも新鮮で、眩しくて……僕が浮かれていると、横にいた政斗が二枚の板を差し出して来た。


「オッサンも男なら嬢ちゃんの板ぐらい、持ってやんな」


「あっ……ありがとう」


 政斗は、僕に板を渡すと皆を集め……


「じゃあ、12時にココ集合な。よしっ、夏稀……早速、頂上から攻めるぞ」


「いや待てよ。俺はスノボー初心者って言っとい……ちょっと!!」


 すると政斗は、夏稀を抱き抱えながらリフトへと走って行ってしまった。すっかり取り残されてしまった僕達は……


「草原さんも、スノボー初めて何ですか? 私、学校で少し習ってたので、良かったら教えますよ」


 まさかの申し入れに内心、喜ぶ僕だったが、これが新たなる波乱の幕開けだとは、知るよしも無かった。

※ゲレンデでは、可愛さが3割増しになるそうです。

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