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私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第五章 セレナーデ 〜巡る季節と紡いだ絆〜
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66話 ワームホール

和訳『虫食い穴』

 御守りを握り締め、緊張した面持ちで再び病院を訪ねる僕だったが、そこに……晴希はいなかった。


「春日野さんなら先日、退院しましたけど」


「えっ?」


 退院したのであれば、どうして連絡をして来ないのか。例えスマホが壊れていたとしても、電話番号のメモは渡してはあるし、ゲームのメッセージ機能だって使える……連絡手段はあるはずなのだ。


 少し違和感のあった僕は、不安な気持ちを抑えながら晴希の家に向う事にしたのだが……


「あれっ……いないのかな?」


 インターホンを押しても、晴希が出てくる気配は無かった。それどころか夕方なっても、部屋の照明は点いておらず、郵便受けにも広告などでパンパンの状態だった。


 ――やっと、一緒になれると思ったのに……


 もしかしたら晴希は、実家で療養しているのでは無いかと憶測を立ててみるが、場所を知らない僕は、どうする事も出来ず、肩を落としながら帰宅せざる得なかった。


 夏稀や亜紀にも聞いてみたが、やっぱり実家の場所は分からず、夏稀が晴希の通う高校へと探りに向かってくれる事となった。



 ― 聖典女子高等学校 ―


 正門で夏稀が聞き込みをしていると……なんと校舎から晴希本人が出て来たのである。


 恐る恐る近付くと……


「もしかしてナツなの? ()()()()だよね。もう会えないと思ってたのに……いつ、こっちに戻って来たの?」


「ハル?」


 何やら様子の可笑しい晴希に戸惑いを隠せず、言葉に詰まってしまった夏稀だったが、裏路地に呼び寄せると……


「退院したなら、何で連絡しないんだ。草原さんも心配してたぞ」


「草原さんって……誰だっけ?」


 晴希が不思議そうな顔をしながら夏稀を見つめると、少し困っている様に思えた。


「バイト先の草原さんだよ。ハルの彼氏だろ、覚えて無いのか?」


「嫌だな。私は冨幸君以外の男性には触れる事が出来ないのは知ってるでしょ? 彼氏なんて出来る訳ないじゃん」


 ――どうしちゃったんだよ、ハル。


 どうやら晴希は、この数ヶ月の記憶を失ってしまっているらしい。とは言え、本人に会えば何かを思い出してくれるかも知れないと夏稀は……


「ハル……取り敢えず乗れ」


「えっ? あっ、うん」


 夏稀は止めてあったバイクの後部座席に晴希を乗せると、そのままスーパーへと向かう事にした。



 ― ミカドマート ―


 仕事を終えて、控え室で着替えていた僕の下に夏稀が現れたのだが、その表情は険しそうに見えた……晴希の身に、何かあったのだろうか?


「ナツ、晴希はどうだった?」


「連れて来た。今、そこにいるけど……あっ?ちょっと草原さん」


 言葉に詰まってしまった夏稀は、俯いて動かない。それでも晴希に会える事が嬉しくて、勢い良く扉を開くと、そこには……


「初めまして、ナツの知り合いの方ですか?」

「えっ!?」


 僕は目と耳を疑った。


 目の前にいるのは紛れもなく晴希だが、まるで僕の事を知らない素振りを見せたのだから……


「なっ、何の冗談だよ。僕はずっと待って……」


 そう言って晴希の手を取ると……


「こっ、怖い……怖いよ……」


「えっ!?」


 あろうことか晴希の男性嫌悪症(ミサンドリー)が発症しそうになっていたのだ。慌てて僕は手を放したのだが、その絶望感は計り知れなかった。


「こっ……怖がらせて、ごめん。その、良かったらこれだけでも……」


 パシッ


 僕が御守りを手渡そうとすると、晴希はそれを拒否する様に弾きと事務所から走り去ってしまう。


 床に落ちてしまった御守りを拾い上げた僕は俯くと、深い絶望へと堕ちてゆく様だった。


 ――晴希の中に、僕はもう……


 激しい消失感に押し潰されそうな僕の目からは、止めどなく涙が流れた。そんな様子を夏稀は、影から見守る事しか出来なかった。


 幸せな日々の終焉……

 呆気ない幕切れ……

 運命の歯車は、ついに外れてしまった。


 そんな僕に追い討ちを掛けたのは、冨幸との婚約だった。


 新年会のイベントで晴希を見捨てて逃げ出した冨幸は当然、お祖父さんに顔向け出来る立場では無かったが、火災による負債はかなり大きかった様で、どうやら春日野家を取り込もうと躍起になっているらしい。


 初めは首を縦に振ろうとしなかったお祖父さんだったが、晴希が記憶喪失に陥っている事実を知ると、掌を返す様に婚約話を再開させたらしい。


 二人が籍を入れるのは、次の晴希の誕生日を迎えてからにはなるそうだが、これは僕に取って絶体絶命だった。


 話を聞いて更に落ち込んでしまった僕に、夏稀は掴み掛かると声を荒げながら……


「このまま、アイツらの思い通りにさせて良いのかよ」


「良い訳無い……良い訳無いけど、今の僕に晴希を幸せにする力は無いんだ」


 そんな弱気な僕に腕をプルプルとさせながら堪えていた夏稀は、胸ぐらを掴み上げると……


「じゃあ、もう勝手にしろよ。どうなっても知らないからな」


 そう言い残すと夏稀はバイクに跨がり、先に帰ってしまった。絶望に呑まれた僕が、朦朧とした意識ので帰路についていると……


 プップッ!!


「うわぁ……痛ててっ……」


 突如、クラクションが鳴り、驚いた僕はその場で転倒してしまった。どうやら赤信号なのに誤って横断歩道を渡ってしまった様だ。


「テメェ、気を付けろよ。轢かれてぇのか」

「すっ、すみません」


 運転手に謝罪をして歩道に戻ると、誰かに後ろから肩を叩かれた、僕が振り返るとそこには……

※晴希の男性嫌悪症(ミサンドリー)は『26話ツイストリング』を御覧ください。

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