62話 アクロマティック
和訳は『見えない脅威』
怒鳴り声の正体は冨幸だった……どうやら不甲斐なく負けたスランとリオルドに対して激しく罵倒している様だ。
「冨幸さん、すみません」
「まさか、あんな奇策に出て来るなんて……」
「高い金を出して雇ってやったのに……この役立たず共め。ブロスは愚か、肝心のオキナまで、ノーダメージじゃねぇかよ」
どうやら二人は、冨幸によって仕向けられた刺客だった様だ。話からすると、僕をつけ狙っていた様だが結果は、惨敗……冨幸からは当然、叱責され続けていた。
「あんな不様な負け方して、クビだけで済むとか……思って無いよね?」
「冨幸さん、いったい何を……」
パチッ
冨幸の合図でメイド服を来た若い女性が金色のタブレットを手渡すと、悪魔の様な笑みを浮かべながら二人に画面を見せ付けた。
そこには『プレーヤー デリート』の文字が……
「このイベントは、グローバルネットで世界中に配信されてるんだ。あんな卑劣な負け方をして、さぞや心苦しいだろうと思ってね、君達のアカウントは削除しておいた……感謝したまえ」
「ちょ……ちょっと待って下さいよ」
「俺達が、どれだけの時間と金をこのゲームに費やしたか分かってるんですか」
あまりにも身勝手な冨幸の行動に、食って掛かる二人であったが最早、手遅れであった。冨幸は蔑んだ目で見下すと……
「そんなの知る訳無いじゃん。僕には関係無いし、興味も無いから……用済みだし、もう帰ったら?」
「…………」
「…………」
すっかり落胆した二人に対しても、冨幸は冷たい言葉で遇った。歯を食いしばりながら、その場を後にした二人だったが余程、悔しかったのだろう……その目は狂気に満ちていた。
そんな事などお構いなしに、冨幸はスーツの胸ポケットからスマホを取り出すと……誰かへ指示を出し始め出す。そして……
【会場の皆様、盛り上がってますかぁーー。さあ、ココからは先程、激闘を制したオキナ選手が、豪華景品と賞金を賭けてファイナルチャンスに挑みます】
――へっ!?
進行役の掛け声で、尚も盛り上がりを見せている会場。イベントは既に終わったと思い込んでいた僕が、突然のアナウンスに驚いていると……
「さあ会場へと、御上がりください」
「えっ、あっ……ちょっと……」
なんと、スタッフにより僕は、再び壇上へと誘導されてしまった。集まった観客を目の前にすると、直視する事が出来ず、目のやり場に困っていると……
「イベント責任者の慶恩寺 冨幸です。ファイナルステージでは、当社の手掛けた仮想現実型RPG『プリンセスプランダーHARUKI』の紹介も兼ねて、エキシビションマッチを執り行いたいと思っています」
壇上へ上がった冨幸は、マイクを手に取ると、最新鋭のゲームを紹介し始めた。
ゲーム名に晴希の名前が使われていた事にも驚いたが、目の前に置かれたVRゴーグルとヘッドホン、ボディースーツ等は、まさに次世代ゲーム機を彷彿とさせる代物であった。
「このゲームは、極限までリアルを追求した仕様なっており……」
俄には信じがたいが、このゲーム……視覚や聴覚だけでは無く、ボディースーツに埋め込まれた無数の金属からの微弱な電気を流す事により、触覚までもがリアルに再現されるんだとか……
「戸惑っている様だけど、君にも朗報があるよ。もしも、このゲームで僕に勝てれば晴希は君にくれてやっても良い」
「!?」
冨幸からの突然の申し入れに、僕は内心驚きを隠せずにいたが……これが罠なのは分かりきっていた。
警戒している僕を他所に冨幸は、会場に向けて自慢気に説明を始める。
「今から僕達は、特設会場にある各ステージを制覇し、最上階のお城を目指します。先に着いた者が、姫との婚約権を得るのです」
どうやらアトラクションゲーム感覚で、リアルに部屋を回りながら、お城を目指す様だが……嫌な予感しかしなかった。
着替えを済ませた僕が、最初のステージへと入るとそこは、広大な草原の中だった。辺りを見渡すが冨幸の姿は無い……どうやら別々の部屋からスタートする様だ。
「装備品は、オーソドックスなバスターソードとバックラーか」
プシュ……
装備品を確認していると、目の前にモンスターが現れた……ゲル状の物体『スライム』だ。僕が剣を振りかざすと、スライムは簡単に砕けてしまい、宙に光の文字でレベルアップと浮かび上がった。どうやら想像以上に良く出来たゲームの様だ。
「よしっ、これなら……イケる」
直樹は、迫るモンスターを倒しながら、危なげ無く最初のステージをクリアした。暫く進むと、今度は森が見えて来たのだが……視界が悪く、何処にモンスターが潜んでいるか分からない。
先程までの戦闘ですっかり疲れ果てていた僕が手探りで歩みを進めていると……隙をついてゴリラの様なモンスターが襲って来た。
咄嗟に反応した僕だったが、モンスターの攻撃がガードを擦り抜け、肩へヒットしてしまうと……
「うわぁああ……」
肩を貫く様な鋭い痛み……まるで釘でも刺さっているかの様な激痛に、僕は叫びながら倒れてしまう。
どうやら、これは冨幸の罠でスーツに流れる電流が通常の10倍に設定されていた様だ。
その頃、冨幸は……
「あははは……楽勝、楽勝。こんな余興はサッサと終わらせて、祝杯と行こうか」
僕とは対照的に、その圧倒的な身体能力とセンスで次々とモンスターを切り刻んでいった冨幸は、あっという間に、中間地点まで辿り着いていた……当然、体も無傷である。
「あははは……早く見たいな。晴希を救えず、絶望に歪む不様な顔をさ」
冨幸は自身の勝利を確信し、悔しがる僕の顔を想像しては高笑いをしていた……それは、まるで人間を陥れる事に喜びを感じた悪魔の様であった。




