表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第四章 カプリース 〜冬山に舞い散る雪花〜
58/89

57話 キャンディマン

和訳『甘い誘惑と危険な罠』

 ― 晴希の家 ―


 ピンポーン……


「あっ、ナツ。明けまして……は言えないんだったよね。何かあったの?」


「止めさせろ」


 玄関へと走って来た笑顔の晴希に言い放ったのは、怒りに満ちた一言だった。夏稀の反応に戸惑いを隠せない晴希は、苦笑いをしながら……


「ちょっと待ってよ。ナツは、いったい何をそんなに怒ってるの?」


「草原さんの事だ。無謀な計画で、冨幸に近付けば……きっと取り返しがつかない事になる」


 鬼気迫る顔で迫る夏稀は、必死で危険を主張したが、本気にしていないのか晴希は軽く笑うと……


「ナツはオーバーだよ。お祖父ちゃんじゃ無いんだし冨幸君とは言え、そんな酷い事をする訳が……」

 

「ハルは分かって無いんだ。アイツにヤラれた政斗の右手は……もう二度と動かないかも知れないんだぞ」


「えっ!?」


 夏稀の話に目を丸くして驚いた晴希は、そのまま俯いてしまう。まさか、そんな事になっていようとは、思いもしていなかったからだ。


「ごっ、ごめん。私のせい……だよね」


「違う……ハルのせいじゃ無い。だけど、これ以上、アイツに関われば草原さんにも危険が及ぶ事になる。取り返しのつかなくなる前に……」


 夏稀は言葉に詰まった……晴希があまりにも、悲しみに満ちた顔をしていたからだ。


 ――確かに、ナツの言う通りかも知れない。でも私は……


 この計画は晴希に取っても、千載一遇のチャンスだった。明日を逃せば、きっと冨幸の呪縛から一生逃れられ無くなってしまうからだ。


「我が儘だって事は分かってる。それでも、これは私に取っても最後のチャンスだから……ううぅぅ」


「あっ……」


 その場で泣き崩れた晴希を見て、夏稀は深い罪悪感を覚えていた。光を追い求め、一縷の糸を手繰っていた晴希を再び、深い暗闇の中へと突き落としてしまったのだから……


「帰って……」

「……ハル」


「もう帰ってよ……」


 晴希はそう言いながら夏稀を外へと押し出すと、バタンと扉を閉めてしまった。


 ――俺はハルの気持ちを全然、考えて無かった……ごめんな、ハル。


 夏稀は悔いていた……

 感情のままに晴希の計画を否定した事を……

 そして、己の無力さを……


 

 ― 自宅 ―


 家に帰った僕は、思い出していた。夏稀の去り際の悲しそうな顔を……


 ――どうして、協力してくれないんだよナツ……


 チャラチャラン……


 僕が悲しみに打ちひしがれていると、スマホに一通のメールが届いた……どうやら晴希の様だ。


「なっ!?」


【催し物も発表されて無いし、直樹さんを危険に晒す訳にはいかないから、明日の計画は中止しましょう。今日はもう寝ます、おやすみなさい】


 僕はメールの内容を見て目を丸くしながら驚いていた……あまりにも突拍子もない中止連絡だったからだ。


 ――どうしてだよ、晴希……


 どうにも煮え切らない僕が、晴希へ講義をしようとスマホを手に取った時だった……


 ピンポーン


 突如、玄関のチャイムが鳴った。

 こんな時間にいったい誰だろう?


 ――もしかして、ナツなのか?


 夏稀が考えを改めて、会いに来てくれたのかも知れない。微かな希望を胸に扉を開けると、そこにはいたのは……


「あはは……随分と貧相な部屋だね」

「なっ、何でお前がココに……」


 扉の前に立っていたのは……なんと冨幸だった。その顔には、まるでピエロの様に不気味な笑みを浮かべていた。


「ほら、コレっ」


 いったい冨幸は何の目的で家にやって来たのか?

 そもそも……どうやって、この家を調べたのか?


 僕が思考を巡らせていると冨幸が一枚の紙を手渡して来た。


「何だよ、コレ?」

「あははは……僕からのお年玉だよ」


 冨幸が手渡して来たのは、なんと新年祝賀会の入場チケットだった……しかし、これはどう言う風の不着回しなのだろうか?


「何故、僕に?」


「あははは……特に深い意味は無い。でも、君には是非、見に来て貰いたくてね。僕と晴希の婚約発表会を……」


「なっ!?」


 ――こんなの、嘘に決まっている。


「どっ……どうせ、それも嘘なんだろ?」


「嘘じゃ無いさ。僕等は来年には、籍を入れるんだよ。お偉いさん達には前広に報告しとかないと失礼じゃないか?」


 このまま何も出来なければ、二人は来年には籍を入れる事になるだろう。大富豪の御曹司である冨幸が、婚約を公表したい気持ちも分かるのだが……


「晴希の……晴希の気持ちは、どうすんだよ」


「あははは……何をそんなに怒ってるの? そんなの別に良いじゃん、晴希は僕の所有物(ペット)なんだからさ」


 考えれば考える程に、込み上げる激情……

 僕の握った拳は、怒りで震えていた。


「お前なんかに……晴希は、絶対に渡さないからな」


「だったら阻止してみろよ。大切なバイトを放棄してまで僕の家に来る勇気があるならね」


「どっ、どうしてその事を……」


 僕が勤務変更を出来なかった事を冨幸は知っている様だが、いったい誰が情報を漏らしたのだろうか?


 ――まっ、まさか……


 思い当たる人物は二人、店長と添田だ。陰ながら、冨幸に買収されていたのでは無いかと考えを巡らせると、今まで感じていた違和感が、淡雪の様に解けてゆく様だった。


「まあ、そんな訳だから是非、来てくれたまえ。超一流シェフのosethi(オセチ)ぐらいは振る舞ってあげるからさ」


「あっ、ちょっと……」


 そう言うと、冨幸は颯爽と出て行ってしまった。

 僕がその場で、暫く固まっていると……


 ピンポーン


 再び、玄関のチャイムが鳴った。

 恐る恐る扉を開けると、冨幸が笑いながら……


「あははは……言い忘れたけど、これはサプライズだ。呉々(くれぐれ)も晴希には黙っておいてくれよ。以前、婚約発表会から逃げられた事が……」


 バン……ガシャ


 あまりにも身勝手な言い分に、苛立ちを隠せなかった僕は、無言で扉を閉めると鍵を掛けた。


 ピンポーン……

 ピンポーン……

 ピンポーン……


 ガシャガシャ……

 ドンドンドン……


 妬けになっているのか何度もチャイムを押しまくる冨幸……終いには、ドアノブを無理に回したり扉を叩き出した。


 ――もう、しつこいな。


「もう、いい加減にしろよ。近所、迷惑になるだろ」


「あぁん?」


 ついに我慢が出来なくなった僕が扉を開けると、目の前にいたのは……



 ― 晴希の家 ―


 ――ごめんね……直樹さん。私は……


 晴希は布団の中で一人、涙を流していた。


 秘密の計画は、水の泡……

 何も抵抗出来ない無力な自分……


 冨幸に対しての抗う事は叶わず、未来に絶望した晴希は、あの時の事を思い出していた。冨幸との婚約発表が、嫌で飛び出したあの日の事を……

 


 ― 晴希の回想 ― 


「えっ? だって、あの誓約書はナツが……」


「あれは偽物じゃ。そう拒むで無い……慶恩寺の倅は、お前を触れられる唯一の異性では無いか。それに春日野家の未来を見据えれば、大変に喜ばしい事なんじゃぞ」


 婚約発表を影で計画していたのは、晴希のお祖父さんの策略だった。


「それはお祖父ちゃんの身勝手な考えだよ。私、冨幸君とは、絶対に一緒にならないから……」


「おっ……お嬢様どちらに」


 ――冨幸君と結婚するくらいなら、私は……


 この日、晴希は逃げ出した……

 降り出した雨を物とせず……

 ただひたすらに……


 目に溜めた涙は、雨へと混じりながら静かに消えて行った。涙と雨を服の裾で擦りながら走っていると……


「うわぁ」

「きゃー」


 ドサッ……ドサッ……


 交差点だ誰かとぶつかり……

 その場で座り込んだ二人……

 これが僕達の……出会いだった。


 ・

 ・

 ・


 運命によって導かれた二人を再び迫う危機……それぞれの想いを胸に、夜が明けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ