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私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第四章 カプリース 〜冬山に舞い散る雪花〜
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47話 エンプティダウト

和訳『空っぽな嘘』

 ― 翌日 ―


 暴走族時代の舎弟より情報を得た夏稀は、冨幸の通う帝王学院高校の正門前にいた。何でも、この学校は冨幸によって支配されており、生徒は疎か、教師ですら下僕として扱われているらしい。


 校内に入ってしまえば、流石の夏稀も分が悪いと踏んで、正門前で待ち伏せしていたのだが……


「チッ……まだ出て来ないのか」


 幾ら待てど、一向に出て来る気配の無い冨幸に、痺れを切らした夏稀は、下校する生徒の一人捕まえて、伝言代わりに走らせる事にしたらしい。


 すると……


「あははは……女の子が待ってるって言うから、制裁を中断してまで来てやったのに……とんだ期待外れだったな。どうした、昨日の非礼でも詫びに来たのか?」


「テメェは、いったい何を企んでやがる」


 夏稀は詰め寄って、冨幸の胸ぐらを掴み上げると、強い口調で問い質し始めた。


「あはは……いったい何の事だい?」


「トボけるな、晴希の事だ。誓約書は破り捨てたはずだ。どうして今になって性懲りも無く、晴希に付き纏うんだよ」



 ― 5年前 ―


それは、夏稀達が中学二年生の頃の出来事だった……


「はぁ? 何でハルは、冨幸となんか付き合ってんだよ」


 クラスでも異質の存在だった冨幸は当然、嫌われており孤立していたのだが、そんな冨幸と突然、付き合い始めた晴希に……皆、驚いていた。


「えっと……まあ、色々あってね」


 夏稀の問い掛けに……

 浮かない表情で……

 答える晴希……


 その表情は、どこか儚げで……

 寂しそうに見えた。


「じゃあ、私は冨幸君が来るのを待ってるから……また明日ね、ナツ」


「おう、じゃあな」


 放課後に冨幸を待つと言う晴希を置いて夏稀は教室を後にしたらしい。


 恋人同士、一緒に帰るのは普通なのかなと、初めは気にも止めていなかった様だが、夏稀がお弁当箱を忘れた事に気付いて教室に戻った時だった。


「いやぁ、弁当箱忘れちゃってさ……なっ!?」


 そこには冨幸達がいたのだが……なんと晴希の腕には手錠の様な物が掛けられており、教壇へと括り付けられていたのだ。


 冨幸の冷やかな目は……

 まるでモルモットでも観察する様に……

 苦しむ晴希の顔を見ながら笑っていた。


「お願い……トイレに行かせて……」


「あはは……我慢出来なくなったなら、ココですれば良いだろ。君は僕の所有物(ペット)なんだからさ」


 そこで見たのは……

 幸せな恋人同士などでは無く……

 完全に玩具として扱われる……

 晴希の絶望的な姿だった。


「良いかい? 君のパパが書いてくれた、この誓約書がある限り君は一生、僕の奴隷なのさ。あははは……」


 その様子を後ろから見ていた夏稀は心底、震えていた。怖さからじゃない……沸き立つ激しい怒りからだ。


 ――こんな奴に、晴希の人生を壊されて溜まるか……


 夏稀は拳を強く握り締めると、ゆっくり冨幸の背後へと足を進めた。足音に気付いた冨幸が振り向くと……そこには鬼の形相で迫る夏稀がいた。


 そんな夏稀に対して冨幸は……


「君は、クラスメートの夏稀君だったね。ちょうど良かった、君も一緒に()()を使って遊ばないか?」


「テメェ……」


 怒りの頂点へと達した夏稀は、鋭い眼差しで冨幸の髪を掴むと、頬に強烈な右ストレートを叩き込んだらしい。


「晴希に、何してんだよ。テメェだけは絶対許さねぇからな」


「まっ……待ってくれよ。僕には、晴希を自由に使う事が出来る権利が……あがっ」


 ポケットから出した誓約書を見せつけ、必死に説得を試みる冨幸だったが、夏稀の怒りは更に燃え上がり、馬乗りになると何度も……何度も冨幸の顔を殴り続けた。


「お前やめ……がはぁ……」


「ソイツをよこせ。こんな物があるから……」

「もっ、もう止めてくれ。この誓約書なら……」


 一方的に殴られ続けていた冨幸は、夏稀の猛攻に耐えきれず、誓約書を渡す素振りを見せたが、何かを察した様に思い止まると不気味に笑いながら……


「あはは……そんなに欲しければ、力づくで奪い取ってみろよ。僕は絶対に渡さ……グボッ」


 無防備に殴られ続けた冨幸は、白目を剥き……気が付くと失神していた。そんな様子を間近で見ていた晴希は、ただその場で泣き崩れていた。


「ちょっと貴女達、そこで何を……あぁっ」


 物音にに気付いた担任の亜紀が、慌てて駆け付けると、そこには……凄惨な光景が広がっていた。


 泣きながら失禁している晴希……

 血塗れで床に横たわっている冨幸……


 力づくで奪い取った誓約書をビリビリと音を立てながら、破いてゆく夏稀。


 この事件が発端となり、夏稀と冨幸は共に別々の学校へ転校する事になった様だが……


 ・

 ・

 ・


「あはは……そんな事を態々聞きに来たの? 本当に察しの悪い女だな。あれは複製品(コピー)……つまり偽物だったんだよ」


「偽物だと?」

 

 衝撃の事実を知った夏稀は、丸くした目を見開きながら、戸惑っていた。もし、その話が本当だとしたなら冨幸を殴り続けた事が無意味になってしまうからだ。


「じゃあ、何であの時、本当の事を……」


「あはは……そんなの演出に決まってんだろ。折角、退学と言う名のバッドエンドを君にプレゼントしてやろうと思ってたのに、あの無能な教師が邪魔しやがって……」


「??」


 夏稀が頭にハテナマークを浮かべていると冨幸は、まるで追い討ちを掛ける様に……


「あははは……忘れちゃったの? 桐月だよ。退学になるはずだった君の事を必死に庇っちゃってさ。それで自分も左遷されちゃうんだから馬鹿としか言い様が無いでしょ」


 ――桐月先生の異動は、まさか……


 怒りが込み上げて来た夏稀だったが、拳を震わせながらも必死に堪えていた。ここで殴ってしまえば冨幸の思う壷になってしまうからだ。


 ――今は……晴希が先決だ。


「誓約書は、どこにあるんだ」

「あはっ……そんな事を僕が、簡単にバラすと思う?」


 あまりにも舐めた冨幸の態度に、夏稀が苛立ちを募らせながら堪えていると……


「だったら僕と、殴り合いでもしてみるか?」

「はあっ?」


 冨幸はバカにした様な口調で、ニヤニヤと気持ちの悪い笑顔を浮かべながら無謀とも取れる提案を夏稀にして来た。


「今日は機嫌が良い。君が勝ったら、特別に誓約書の在処は教えてあげるよ。その代わり、僕が勝ったら今日1日、君を好きに使わせて貰う」


「…………」


 いくら鍛えたからと言っても、相手はあの脆弱だった冨幸だ。油断していたとは言え、昨日も夏稀は倒している。


 ――これは、罠なのか?


 警戒している夏稀を煽る様に、冨幸は嘲笑いながら……


「ココは僕の支配下だ。生徒は愚か教師にだって邪魔はさせない。君に取ってもまたと無いチャンスだと思うけどな」


 これを逃せば真相は闇の中……確かにリスクはあるが、勝機もある。夏稀は渋々承諾すると、冨幸の顔には狂気が満ち溢れていた。

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