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私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第三章 ノクターン 〜秋空に沈む太陽と昇る月〜
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42話 ドーニングフルムーン

和訳『霞む君の笑顔』

 僕は悩んでいた……

 来る日も来る日も、ずっと……

 晴希と亜紀の事を想いながら……



 ― ミカゲマート ―


「あっ……」


 アルバイト中に晴希と目が合ったが、何故か視線を逸らされてしまう。ただの照れ隠しなのか、何か思惑があるのかは……分からない。


 でも……


「あのぉ、テンダイさん。これどうしたら良いですか?」

「あぁ、これはね……」


 いつもなら、僕に聞きに来る様な事も、晴希は、態々他の人に聞いて回っていた。


 あれだけの事があったのだから、そう簡単に和解出来るはずが無い。それは分かってたけど、晴希の行動は赤ら様で僕もつい目が行ってしまう。


 ――やっぱり、晴希との復縁は難しいのか……


 急に余所余所しくなってしまった晴希を見て、僕は気掛りで仕方が無かったのだが、理由を聞こうにもなかなか、声を掛ける事が出来ず……


 もどかしい日々が続いた……



 ― 運命の日 前日 ―


 恐らく、三人の今後を左右するであろう決断の日の前夜……僕は夏稀と同じシフトでバイトに入った。


「あのさ、ナツ……ちょっとだけ良いか?」


 閉店時間を迎え、帰ろうとしていた夏稀を僕が神妙な面持ちで呼び止めると……


「どうした……もう決めたのか?」

「それが、まだ……」


 未だに決め兼ねている僕に対して、夏稀の怒りのボルテージが上がると……


「まだ、決めてねぇのかよ。アンタがそんなんだから、ハル達は……」


「頼む……僕の話を聞いてくれ」


 残された時間で、亜紀と晴希どちらかを選ばなければならなかった僕は、夏稀の罵倒に割り込む様な形で懇願した。


「晴希の様子がおかしいんだ。急に余所余所しくなって、僕からも距離を取る様になって……」


「でっ?」


 僕の話を夏稀は、仏頂面で腕を組みながら静かに聞いていた。


「他に好きな人でも出来たのかなって……ナツは何か知らないか?」


「お前……それ本気で言ってるのか?」

「…………」


 そして、暫くの沈黙の後……夏稀は一言、二言、話すと、そのままバイクに乗って行ってしまった。



 ― 運命の日 ―


 僕は意中の人へ告白する事になった。


 待合せ時間は16時……亜紀を選ぶなら『藤見が丘公園』、晴希を選ぶならパン屋『ル・シエル』に僕が迎えに行く事になっていた。

 

 初めは恋路には加担しないと提言していた夏稀だったが、こうやって告白の場まで用意してくれた事には感謝しかなかった。


 約束時間の10分前……

 僕が足を止めたのは、藤見が丘公園だった。


 ベンチで座りながら待っている亜紀は、僕の姿に気が付くとゆっくりと立ち上がり、優しく微笑んでいた……その手には、収穫祭で獲った小さなクマの置物が握られていた。


「直樹さん……」


 ――私を選んでくれたの?


 流石の亜紀も不安だったのだろう……その目には、薄っすらと涙が光って見えた。


「直樹さん、ありがとう。私……」


 感極まって走り出した亜紀に、僕は……



 ― 昨夜 ―


 晴希には他に好きな人がいるのではと、僕が夏稀に問い掛けた時の事……


「お前、それ本気で言ってるのか?」

「…………」


 俯きながら、すっかり沈黙していた僕だったが、ふと顔を見上げるとすぐに違和感に気付いた。だって夏稀の目からは、涙が溢れ落ちていたのだから……


「ハルのバカは、何でいつもそうなんだよ。自分の事より、他人の幸せがそんなに大事なのかよ」


「ん? それって……」


 夏稀から語られたのは、晴希の口止めだった……


 晴希に取って僕は、体に触れられてもパニック症状の出ない特別な男性……その事実を亜紀には言わないで欲しいとのお願いだった。


「ハルは、不公平になるから言わないでくれって……もう、それで十分じゃんか」


「ナツ……」


 すると、夏稀はポケットからスマホを取り出し、SNSのメッセージ投稿サイトを開いた。スマホの画面には『ハルル』と言う名前でメッセージが投稿されているが……どうやら、これは晴希の様だ。


ハルル【私には好きな人がいます……】  


 晴希の実情や内なる気持ちが書かれていた。実名こそ伏せているが、そこには僕や恩師である亜紀に、幸せになって欲しいと書かれている。


ハルル【それでも私は……】


 晴希は、僕の事を嫌いになった訳でも好きな人が出来た訳でも無かった。


 大切な人達に幸せになって欲しいと思う反面、諦めきれない自分自身にジレンマを感じ、押し潰されそうになり……無意識のうちに僕を遠ざけてしまっていたらしい。


ハルル【だから私は、信じて待ち続けるんだ……】

 

 僕が、再び振り向いてくれるのを待ち続ける……

 それが晴希の出した答えだった。


 晴希の強い想い……

 何よりも深い愛情を知った時……

 僕の心には突き刺さる様な衝撃が走った。


 確かに、最近の晴希の行動は可笑しかったかも知れない……だけど、それは僕が幸せになって欲しいと願う晴希の優しさからだった。


 ――僕は、勘違いをしてたのか……


 自らの愚かさと、晴希への愛を思い出した僕に……もう迷いは無かった。


「じゃあ俺はもう行くから……後はあんたが自分で決めろよな」


 ・

 ・

 ・


 顔を上げた僕は何かを決意した様に、真剣な眼差しで亜紀と向かい合うと……


「ごめん……僕は、亜紀さんとは付き合えない」

「…………」


 まさかの言葉に、目を丸くして驚いた亜紀は、俯いたまま声を震わせると……


「だっ……だったら何でココに?」


「亜紀さんには直接謝りたくて……その……本当にごめん」


 僕の言葉に、ハッとした亜紀は思い出していた。


 ――私はずっと、直樹さんの誠実さと優しさが……


「私なら大丈夫です。それより、早く行った方が良いですよ……女の子を待たせるなんて、最低ですから」


「すみません。それじゃ僕、行きます」

「晴希ちゃんの事……幸せにしてあげて下さいね」


 にっこりと笑った亜紀を見て、僕は静かに頷くと、そのまま夕焼けへと消えて行った。


「うっ、うっ……うううっ……」


 ずっと堪えていたのだろう。


 去ってゆく僕の背中を見つめながら、亜紀は涙を流していた。溢れ出る涙は頬を伝い、夕焼けの赤に染まりながらキラキラと落ちてゆく……


 それはまるで……

 サルビアの花弁の様に……

 綺麗で儚く散ってゆく様だった……



 ― パン屋 『ル・シエル』 ―


 ――晴希……晴希……晴希……


 走馬灯の様に蘇る……

 晴希との思い出……


『やっぱり直樹さんは私の運命の人なんです。もし、ご迷惑じゃなければ私をずっとお傍に……二十歳になったら、直樹さんの()()()()に下さい』


 照れくさそうな顔をしながら、モジモジとしている晴希は何だか可愛らしかった。


『ふふっ……草原さんって、可愛いパンツを履いてるんですね』


『ふふふ……ビックリしました? 今日からは私もバイト仲間だよ。宜しくお願いしますね……直樹先輩』


 太陽の様に明るい笑顔に照らされて……


『直樹さんの優しさに付け込んで、無理なお願いばかりして最低ですよね……グスッ』


『でも仕方が無かったの……グスッ。私が直樹さんに恋してるって事がバレれたら、きっと直樹さんはナツに壊されちゃうから……グスッ……だから……ううぅぅ……』


 優しい涙によって、僕の心は満たされていた。


 ――もう迷わない、僕は晴希の事が……


 パン屋に到着した時には、待ち合わせ時間を10分も過ぎていた。辺りを見渡すが……晴希の姿はどこにも見えなかった。


『ふふふっ……ココは私に取って特別な場所なんだ。毎年この日になると、屋上の鍵を貸して貰うの。ほらっ……もうすぐ始まるよ』


 思い出した七夕の花火大会……

 僕はビルの階段を駆け上がっていった。


 そして……


「はぁはぁはぁ……」


 息を切らしながら屋上に向かうと、そこに……晴希はいた。


「ごめん。遅くなって……」


 振り向いた晴希は、僕の顔を真っ直ぐに見つめると目には涙を滲ませていた。


「待ってたよ。出会ったあの日からずっと……」


 待ち焦がれていた事を告げると、晴希は凄い勢いで僕の胸へと飛び込んで来た。そんな晴希を受け入れる様に僕は優しく抱き寄せると……


「ごめんな、晴希……本当にごめんな」

「ううん」


 僕の腕の中で『そんな事をないよ』と言わんばかりに首を横に振った晴希だったが、その目からは涙が滲んでいた。


 そして一旦、晴希の肩を引き離すと、僕はゴクりと息を飲み込みながら、真剣な面持ちで向き合いながら……

 

「僕はやっぱり、晴希の事が好きなんだ。こんな僕で良ければ……付き合って下さい」


「はい……宜しくお願いします」


 恋人は……女子高生。世間から見たら、あまりにも不釣り合いな関係かも知れないけど、もう僕の迷いは無かった。


「ふふふっ……」

「あははっ……」


 この想いに嘘偽りはなく、夕闇に溶け合う影と共に、お互いの心を満たしてゆく……


 ――もう、後悔なんてしない……


 握られた二人の手はきっと、二度と離離(はなればな)れになる事はないのだから……

過去描写

※運命の人   『5話 チアキューピッド』

※可愛いパンツ 『3話 オールドメイド』

※バイト仲間  『9話 マーメイドティアーズ』

※直樹の優しさ 『12話 ストロベリーロマンス』

※夏稀への懸念 『16話 アイラブレラ』

※七夕花火大会 『18話 サマーバレンタイン』

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