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私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第三章 ノクターン 〜秋空に沈む太陽と昇る月〜
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32話 トワイライトスポット

和訳『夕陽の当たる場所』

 悪夢のお茶会から一夜が明け……

 思い出すのは二人の事だった。


 晴希と亜紀……


 二人の女性を、同時に好きになってしまった僕は、後悔と罪悪感から何も手につかず、無気力にゲームをしながら過ごしていたのだが……


 チャラチャラン……


 スマホが鳴り響いた。どうやら亜紀からのメールが届いた様である。


【拝啓……初秋を迎え、森の木々達は夏の終わりを告げる様に、彩り鮮やかにその葉を染めてゆき……】


 例によって超長文のお礼メッセージが届いていた。話を要約すると、どうやらデートの誘いの様だ。


【お誘いありがとうございます。どこに出掛けますか?】


 亜紀から誘われたのは、収穫祭だった。この綿樫町では毎年、秋になると収穫祭が行われている。


 開催場所は亜紀と出会った『藤見が丘公園』だ。夜になると、公園はライトアップで飾られ屋台が出店される。


 小規模ながら花火なども打ち上がり、この小さな町では一年で一番大きなイベントであった。どうやら引っ越して間もない亜紀は、他に頼れる人もおらず、僕に案内をお願いして来た様だ。


 今夜、18時に公園で待ち合わせ……


 特に予定も無かった事もあり、快く亜紀とのデートを承諾してしまったが、これが波瀾の幕開けになる事など、今の僕は知る由も無かった。



 ― ミカゲマート ―


 バイトを終えると引き継ぎへと向かう。事務所には入替えで来た夏稀が待機していた。珍しく早い到着に違和感を覚えていると……


「草原さん、ちょっと良いか?」


 夏稀は僕を呼び寄せると、懐から薄汚れた財布を取り出した。


「この前のいざこざの時に、草原さんが落とした財布だ……取り敢えず、返しとく」


「あっ、探してたんだ。ありがとうな……ははは」


 財布を受け取った僕は、ジュースを飲みながらスッカリ和んでいたのだが、夏稀は少し強張った顔をしながら近付くと……


「なぁ、草原さん。桐月先生と本当は、どういう関係なんだ?」


 ブハァ……


 あまりにも唐突な質問に、僕は驚いてジュースを吹き出してしまった。噎せ返して苦しんでいた僕は……


「ゴホッゴホッゴホッ……なっ、何を急に……」


「なんか親しげだったし、ただのご近所さんにしては、ちょっと怪しいかなって……」


 亜紀との関係を疑いながら近付いてくる夏稀に、僕は動揺を隠せず、目を泳がせていた。


 ――これは、マズいぞ……


「あはは……亜紀さんも言ってただろ? たっ、ただのご近所さんだよ」


 今、亜紀との関係をバラす訳にはいかなかった。


 取り繕った様な言い訳で、僕はその場をやり過ごそうとしたが、夏稀は更に睨みを利かせながら、押し迫って来る。


「本当の事を言えよ。いったい何を隠してやがる」

「えっと、あの……その……」


 ガチャ……


「はぁはぁ……遅くなっちゃいました」

「チッ……」


 推し測った様なタイミングで晴希が事務所へと入って来ると、夏稀は舌打ちしながら出て行ってしまった。まだ疑いは晴れた訳では無さそうだが、取り敢えず今日の所は、大丈夫そうだ。


 事なきを得て、すっかり安堵していた僕だったが、晴希は近付いて来るとペコリとお辞儀をしながら……


「直樹さん、昨日はご馳走様でした」

「あっ……ああ……」


 満面の笑みでお礼を言う晴希だったが、目が合うと何だか気まずくなってしまい……僕は素っ気ない返事を返してしまった。


 そんな僕に、晴希は悩まし気な顔をしながら詰め寄ってくると……


「あのぉ……直樹さん。今夜、予定って空いてたりしますか?」


「えっ? あっ、今日はちょっと用事があって……」


 そう……今夜は亜紀とのデートの約束があるのだ。


 誘いを断ってしまったが、晴希の残念そうな顔を見ているとバツが悪く、罪悪感から顔を上げる事が出来ずにいたのだが……


「そっか……残念だね。折角、店長から綿樫祭の抽選券を貰ったからナツを誘って3人で行きたかったのに……」


「えっ!?」


 僕は完全に固まっていた……まさか、晴希達までお祭りに来るとは、予想だにしていなかったからだ。


「じゃあ、遅れちゃうから……もう行くね」

「あっ……」


 レジへと走ってゆく晴希を……

 僕は引き止める事が出来なかった。


 その場から動けずに立ち尽くしていた僕だったが、ココにいても何も変わらないと、取り敢えず帰宅する事にした。


 考えれば考える程に……

 分からなくなる自分の気持ち。


 最早、晴希と亜紀のどちらを好きなのかさえ分からなくなり、進む道を見失った僕は、自身の不甲斐なさに憤りを感じながら歩いていると……藤見が丘公園の前に差し掛かった。


 公園では、セカセカとお祭の準備が行われており、下見がてら中を通り抜けると、少し離れた場所で屋台の準備をしていたお爺さんが、苦戦しているのを見つけた。


「あのお爺さん、どうかしましたか?」

「なんじゃい.お前さんは? 店はまだじゃよ、聞こえんのかぁ」


 見兼ねた僕がお爺さんへと声を掛けたのだが、どうやら客と勘違いして追い返されてしまった。普段だったら立ち去ってしまう所だが、どうにも危なっかしくて、見ていられなくなった僕は……


「大変そうですが、何かお手伝いましょうか?」


 お爺さんは、僕の申し入れに笑顔で手を打つと、今度は肩をバシバシと叩いて来た。


「おぉおぉ、すまんのぉ若いのぉ。実は腰を痛めてしまって困ってたんじゃ」


「はははっ……まずは何から手伝いましょうか」


 不慣れな僕は、悪戦苦闘しながらも、おじいさんの指示で屋台の組み立ててゆき……


「ふぃ……終わったぁ」

「いや……助かったぞ、若いの。ありがとのぉ」


 僕の活躍もあって、日暮前には何とか屋台を完成させる事が出来た。


「それじゃ、僕はこれで……」


 約束の時間までは残り2時間、僕が急いで帰宅しようしていると……


「若いの、ちょっと待ってろ……(アレでもない、コレでもない)……あったコレじゃ」


 お爺さんは屋台の奥にあった重そうなバックの中から1枚の紙切れを取り出すと、僕へ手渡して来た。


「これは……」

「祭の抽選券じゃ。こんなもんしか、あげられなくてすまんが、良かったら持って行ってくれ」


「あっ……ありがとうございます」


 僕はお礼を言うと駆け足で家へと帰宅した。部屋に入ると、ベッドの上に座っているハルルン人形を見て……思い出す晴希の事。


『はい、これ。最近なんか元気無かったから私からのプレゼント。気に入ってくれると良いんだけど……』


『直樹さんお疲れ様です。ハルルンちゃんは可愛がってくれてますか?』


 ・

 ・

 ・


 ――今日こそは、亜紀さんに晴希の事を……


 晴希への愛を胸に、亜紀へ真実を告げる決意をした僕は公園へと足を急がせた。

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