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私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第二章 ラプソディ 〜炎夏に訪れる暴風雨〜
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29話 ジェネラルミート

和訳『焼き肉奉行』

※今回は箸休め回なので、気楽に御覧ください。

 夏稀達の救出から一夜が明けると、全身に駆け巡る酷い痛みで僕は目を覚ました。


「あぃたたた……」


 生きて戻って来れた事にホッとしていた物の、やはり殴られた箇所は青アザとなっており、少し動かしただけでも鈍痛が(ほとばし)った。


 チャラチャラン……


 動かない体に鞭を打ちながら、朝食を作っていると……突然、スマホが鳴った。


 朝から晴希か?

 それとも亜紀か?


 どちらに転んでも、この耐え難い苦悩は変わらないだろうと感じながらも、スマホを手に取ると……


 そこには……


()()()()


 なんと『中年童貞の集い(ファントムグリフ)』の招集であった。実に数ヶ月振りの招集……


 無料(ただ)で美味しい食事にありつけると心を踊らせていた直樹だが、内容を見て唖然とした。


『バーベキューパーティ』


 全身の痛みに堪えながら、集合場所の河川敷まで移動すると例によって四十代童貞達(ハイマジシャンズ)が仁王立ちで待ち構えていた。


「おせぇぞ、草原。毎度毎度、遅れてくるんじゃ……なっ、その怪我どうしたんだ?」


 いつもの様に甲高い声で怒鳴られると思っていたのだが、アザだらけの僕を見て安倍は目を見開きながら驚いていた。


「いや、ちょっと階段から落ちてしまいまして……」


 咄嗟に言い訳をする僕だったが、安倍は目を細めて疑っていた。そんな状況など全くお構い無しに、ただ黙々と準備に取り掛かっている人物がいた。



大食漢の童貞(ハングリーイエロー) 太田』


 ぶら下がる肉によって隠れた下顎……

 白く伸び切ったヨレヨレのTシャツ……

 前につき出す砂丘の様な腹……


 そのあまりの巨漢振りは、まさに怪物と言っても過言では無いだろう。だが、この男には信念があった。


 料理は愛情……

 食事は交流……


 食に掛けては人一倍のポリシーのある太田は、料理の準備や下拵えに余念が無かった。


「阿倍さんも、草原君も話して無いで手伝って欲しいだによ」


「ああ悪い悪い、今行くから……飯の事でアイツと揉めると面倒だからな」


 太田の一言により難を逃れた僕だったが、そこに待ち受けていたのは……


「じゃあ、草原君には買い出しを頼むだに。ここに書かれているものを買ってくるだによ」


 手渡されたメモを見て僕は驚愕した。二度見、三度見するが……どうやら見間違えでは無いらしい。


 そこに書かれていたのは……


【牛ロース 5㎏】

【牛カルビ 3㎏】

【豚ロース 5㎏】

【野菜・お酒 大量】

【その他……】


 あまりにも大量の食材に、僕が青ざめていると……


「遅れると太田君の機嫌が悪くなりますし、良かったら僕もお手伝いしますよ。大丈夫、この台車を使えば何とかなるさ」


 戸惑う僕を見兼ねてなのか、優しい城崎が声を掛けてくれた。


 火起こしだけすると寝転がったり、猫と遊んでいたりと自由にしている他のメンバーとは違い、城崎だけはいつも味方をしてくれる……


 そんな城崎の事を僕は陰ながら、兄の様に慕っていた。



 ― 買物の帰り道 ―


 傷だらけの僕の代わりに、台車を押してくれていた城崎。僕が人知れず感謝していると、誰もいない路地に差し掛かった時に……


「その怪我、いったい何があったの?」

「実は、その………」


 怪我について尋ねられた僕は、城崎にだったらと、ありのままを話す事にした。バイトの仲間が暴走族に捕まった事、助けに行って暴行を受けてしまった事。


「なるほど、それは気の毒だったね。警察には届け出ないのかい?」


「あんまり大事(おおごと)にはしたく無くて……あっ、この事は……」


「分かってる。誰にも言わないから、安心して良いよ。そろそろ河川敷に着くね」


 城崎は目を細目ながら軽く微笑むと、何事も無かった様にメンバーの中へと溶けて込んで行った。ルックスも良くつ、こんなにも出来た人なのに何故、彼女がいないのか?


 そんな疑問を抱きながらも、僕は太田に材料を手渡した。


 太田は買ってきた食材に頷くと、まるで精密機械の様に繊細で素早く瞬く間に捌かれてゆく肉塊。


 そして、舞台はコンロへと移る……

 ジワジワと灯る炭火に……

 炙られ滴り落ちる脂……


 その一つ一つはまるで水晶の様でもあり、芳ばしい香りが僕達の食欲を駆り立てていた。


「はい。これは、焼けたから盛り付けても良いだに。こっちは、まだ早いだにね」


 焼き肉奉行とは、良く言ったものだ。


 メンバーのお腹を満たすべく……

 華麗に、かつ繊細に……

 そして、大胆に焼き上げてゆく太田……


 焼き上げた大量の肉を、豪快に盛り付けてゆく姿は……まるで、食の支配者の様であった。


「よーし、食材も焼けて来た所で、恒例のフードバトルやるぞ。太田はいつも通り、ハンディとして焼きながらで、三人前上乗せな」


 フードバトルとは恒例の大食い大会である。各自皿に盛られた食材を食べ進めてゆき一番食べた人が優勝。勿論、優勝者には豪華景品が待っている。


 今回の景品は……


 大魔界酒造『八重垣(やえがき)


 一般には出回らいない幻の酒で、入手困難な上、数も少ない。今回は佐武の伝手で偶然、手にいれる事が出来た様だが、酒好きのメンバーは、この銘酒を手に入れようと手に汗を握っていた。


 白熱すると思われたフードバトルだが、食材を半分程使いきった所で、殆どのメンバーがギブアップ……最後は阿部と太田の一騎討ちとなった。


「太田よぉ……食に掛けるお前の熱意は、認めてやる。だがこの戦いは俺の……なっ?」


 大皿に乗っていた肉や野菜を、まるでブラックホールの様に一気に飲み込んでゆく太田の姿を見て、流石の阿部も呆然と固まった。


「きょ、今日の所はこの辺で勘弁してや……」

「阿部さん、御代わりはいらないだにか?」


 依然として衰える気配の無い太田の食欲に、阿倍は完全に屈した……そして、心に誓った。


 もう太田とフードバトルをするのはやめようと……


 結局、ハンディも物ともせずに、太田の独壇場で優勝。だが当の太田は景品には全く興味が無い様で……


「オデは今日いっぱい食べれただけで満足だによ。これ草原氏にあげるだに、三十路童貞(ローマジシャン)になったのに、何もあげて無かったから」


 銘酒を受け取った僕だったが、回りからの視線が熱い……熱すぎる。


 お酒に興味が無かった僕も正直、いらなかったが、太田の好意もあり……返す事も、譲る事も、出来ずにヒソヒソと持ち帰る事にしてしまった。


 真夏の暑さを越え、晩夏の頃……


 秋風に揺られる金木犀(きんもくせい)の蕾と、空にうっすらと浮かぶ白き月は、秋の訪れと運命の綻びを予期していた。

ご覧頂き有り難うございます。

第二章も、これで完結となりますが、如何だったでしょうか?


『第三章 ノクターン 〜秋空に沈む太陽と昇る月〜』も引き続きお楽しみ下さい。


【ファントムグリフ 構成員紹介】

五十路童貞(ワイズマン)(リーダー)

情熱の童貞(マスターレッド) 安倍


四十路童貞(ハイマジシャン)

激情の童貞(バイオレンスブラック) 佐武

博愛の童貞(ピースホワイト) 城崎

大食漢の童貞(ハングリーイエロー) 太田

・???

・???


三十路童貞(ローマジシャン)

若葉の童貞(ピュアグリーン) 草原

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