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私の乙女を奪って下さい ~ 僕と晴希の愛の軌跡 731日の絆と58年の想い ~  作者: 春原☆アオイ・ポチ太
第二章 ラプソディ 〜炎夏に訪れる暴風雨〜
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28話 タイダルウェーブ

和訳『恋の大津波』

 確かに夏稀が女性であれば、晴希と仲が良かったのも頷けるし、二人で買い物に出掛けていたのも、抱き合って喜んでいたのだって……全く問題無い事だ。


 急にバツの悪くなった僕は、顔を上げる事が出来ず、夏稀への嫉妬心に後悔していた。


 一方、その頃……


 夏稀サイドでは、更に歓声が湧き、異常なまでに盛り上がりを見せていた。どうやら政斗と夏稀が付き合う、付き合わないで言い争いをしている様だ。


「だいたい、皆は俺の秘密を知らねぇんだから、そんな事言ったら混乱するに決まって……」


「安心しろ。お前の秘密は、宍戸のヤツが全部バラしてくれたそうだ。それでもコイツらはお前の事を送り出したいって集まってくれたんだぞ」


「お前ら……」


 政斗の言葉、仲間達との深い絆に心を震わせた夏稀は、目に涙を浮かべていたのだが……


「よし、これで心置き無く、付き合えるな」

「いや、それは全く別問題だから、だいたいお前はいつも……うぐっ」


 チュッ


 話を遮る様にして政斗が夏稀に口付けをすると、辺りは沸き立ち、盛り上がりを見せた。


 突然のキスに、政斗を押し返す夏稀だったが……


「ハァハァ……テメェ、何してくれてんだ」

「何ってキスだけど……嫌か?」


 頬を赤くして激情してる夏稀だが、傍から見ると何だか照れ隠しにも見える。周りからも、冷やかしの声や声援が飛び交っていた。


「嫌に決まってんだろ。こんな皆が見てる前で……初めてだったのにさ」


 悩ましげな表情(かお)で俯いている夏稀からは、女性らしさが漂っていた。


 そんな夏稀を見て、政斗は……


「そんなに固いこと言うなよ。ほら、もう一回……痛っ……テメェ、重傷者を殴りやがったな」


「俺の気持ちも知らずに……この落とし前はキッチリつけて貰うからな」


 照れ隠しに怒りも混ざり、夏稀の頬は更に赤みを増してゆく。だが政斗はそんな事などお構い無しに……


「だから責任取って付き合うと言ってるだろうが」

「もう知らん……勝手にしろよ」


 そのまま怒って後ろへと下がってしまう夏稀だったが元々、政斗には好意があったらしく、この日を境に二人は付き合う事になった様だ。


 夏稀は、僕達の前まで降りて来ると、出会った頃の様に……いやそれ以上に鋭い目付きで睨み付けて来た。


 きっと、腹の虫が治まらないのだろう。


 以前の様に暴力を奮って、ストレスを発散するのでは無いかと警戒していたが、予想に反して夏稀は、深々と頭を下げると……


「二人を危険な目に合わせて……本当にすまなかった」


 突然の謝罪に一瞬、驚いた僕だったが、晴希と顔を見合わせると……不思議と笑みが溢れ出した。


「僕は大した事出来なかったし、気にしないでよ。しかし、大変な事になったな……へへへっ」


「私も大丈夫、自分の事を責めないでナツ。でもでも、恋が叶って良かったね……ふふふっ」


 言葉では夏稀を慰める僕達だったが、その顔はどうしてもニヤついてしまった。そんな様子に堪えきれなくなった夏稀は、少しムキになりながら……


「二人共、俺の事を冷やかしやがって……もう許さないからなぁ」


 再び頬を赤く染めた夏稀が、勢い良く迫って来ると、晴希がよろけて転びそうになった。そんな時、僕が支えようと手を伸ばすと……


「ダメだ、草原さん。ハルに触れると、またパニック障害が……」


「あっ、そうだった……ごめんな晴希。ずっと我慢してたんだろ?」


 焦っている僕達を見て、ケラケラと笑い出す晴希。夏稀と顔を見合せて不思議そうな顔をしていると、晴希が徐に僕の手を取って……


「なっ、何してんだよハル。そんな事したら、また……あれ? どう言う事だよ」


「ふふふ……直樹さんは特別なの。触れていても不思議と嫌な気持ちにならないって言うか……逆に凄く安心出来るの」


 晴希の話によると、僕は触れてもパニック障害が出ない数少ない例外であり、この事がキッカケで、出会った時からずっと『運命の人』だと信じていたらしい。


「まさか()()()以外にハルへ触れられる(ヤツ)がいたなんて……」


 元々、口先だけの軟弱男が大嫌いだった夏稀だが、執拗なまでに僕を拒んでいたのは晴希が抱えた、この病から守る為だったらしい。


「おいナツ。早く、こっちこいよ」


 痺れを切らした政斗が、後方から声を掛けると……現実へと引き戻された夏稀は、何故か晴希の影へと隠れてしまった。


「どどど……どうしようハル。俺、その……付き合うとか初めてだしよ、どう接したら良いのか分かんないんだ」


「別にいつも通りで良いんじゃない。だって、いつものナツを好きになってくれたんでしょ?」


「そっ、そうなんだけど、面と向かうとその……なんか照れくさくてさ」


 いつも冷静な夏稀がここまで取り乱すのは、かなりに珍しい。その照れている感じは何とも言えず、女性的で可愛らしく見えた。


 すると遠方から政斗が痺れを切らした様に……


「おい、ナツ。照れんのか?……隠れてないで出て来いよ」


「照れてなんてねぇよバーカ。コイツら送って来るから帰ったら……覚悟しとけよ」


 ゆっくりとバイクへと向かう夏稀だったが、晴希は心配して声を掛けた。


「ナツ、大丈夫なの?」

「こんなの大した事ねぇよ。そんな事より早く乗れよ」


 大丈夫だと言っている夏稀は、何だか強がっている様に見えた。あれだけの暴力を受けて体はボロボロのはずなのに……


 そんな状態にも関わらず、夏稀がバイクで送ると言ったのは僕達への償いの気持ちと、何よりも、この場から早く逃げ出したかったからに違い無い。


「ハルを送ったら、草原さんも乗せてくからココで待ってなよ」


「あっ、僕は自転車で来たから大丈夫」


「…………チッ」


 どうやら夏稀は二人になった時に、今まで勘違いで晴希との仲を引き裂こうとしていた事を謝りたかった様だが、僕が自転車で帰ると話すと不機嫌そうに、舌打ちをした。


「ふん……まあ良いや。()()()()も気をつけて帰れよな」


 ブォオオー……ブォオオオオー……


 そう言い残すと夏稀は、バイクのエンジンを激しく噴かせながら、アッと言う間に走り去ってしまった。


 ギコギコ……ギコギコ……


 夏稀達を見送った僕は、軋む自転車に跨がると家へと急いだ。その顔は誇らしげで、大きな事をやり遂げた男の顔をしていたのだが……


 緊張の糸が解けた途端、言い様の無い胸騒ぎを感じた。思い出せないモヤモヤが、頭の中で膨らんでゆくと……僕は堪らなく不安な気持ちになった。



 ― 自宅 ―


 玄関を開けると、真っ暗な部屋に薄っすらと光る何かを見つけた……光っていたのはスマホだ。恐る恐る覗き込むと、亜紀からの着信とメッセージがずらりと重なっていた。


 漸く思い出した……亜紀との約束。


 どうやら亜紀は、待ち合わせ時間から2時間以上も待ってくれていたらしい。


「亜紀さん……ごめん」


 緊急事態だったとはいえ、デートを楽しみにしていた亜紀に、何の連絡もせず放置してしまった事を僕は酷く後悔していた。


 直樹は急いで電話を掛けたのだが、亜紀は一向に電話に出る気配は無く、内心……穏やかでは無かった。


 ――やっぱり、怒ってるよな。


 メールで謝罪文を送ったのだったが……待てど返って来ない返信に、ただ悶々する時間だけが続いていた。


 チャランチャラン……


 1時間程、経った頃……突如、スマホが鳴った。


 手に汗を握りながら、画面を確認すると……メッセージは晴希からであった。


晴希【今日はありがとう】

晴希【ナツからスマホ返して貰えたから】

晴希【LINKも復活です】


 どうやら夏稀に取り上げられていたスマホは、無事に晴希の下へと戻ったらしい。


直樹【返して貰えて良かったな】

直樹【二人共、大きな怪我が無くて良かったよ】


晴希【直樹さんのお陰だよ。ナツも感謝してた】

晴希【殴られた所は、ちゃんと手当てしてね】


 夏稀との蟠りが溶け、和解へと近付いたのは晴希との恋路の大きな前進となったが……もう一人の想い人『亜紀』とは、完全にすれ違いが生じてしまい。


「はあ……」


 亜紀との恋が終わった事を悟ると、僕は深い溜め息を吐いた。


 ――きっと、これで良かったんだ……


 初めから、こんな素敵な女性と……

 しかも、二人同時に出会うなんて……

 出来過ぎてたんだ。


 そう僕は、心に言い聞かせていただったのだが……


 ピピピ……


 スマホから着信音が鳴り響く、恐る恐る確認すると……なんと電話の相手は、亜紀あった。


 きっと約束を破った事を怒っているに違いないと、僕は唾を飲み込みながら電話へ出た。


「もしもし……草原です」


「あっ、直樹さんですか。良かった……何かあったんじゃないかって、ずっと心配してたんですよ。無事でホッとしました」


 ――それでも亜紀は……優しかった。


 連絡も無しに約束を破った僕に対しても、怒っている様子は無く……ずっと心配でいてくれていた様であった。


「連絡もせずにすみませんでした。ちょっと急用が入ってしまって……」


「気にしないで下さい。誰にでも急用はありますから」


 その後も亜紀は、咎める事は無く……

 理由(わけ)を聞くでも無く……

 僕の無事を確認すると、静かに電話を切った。


 ――浮かぶ晴希と亜紀の笑顔。


 今後の事を考えると僕は、益々行き詰まってしまうのであった。

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