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そんな未来はお断り! ~未来が見える少女サブリナはこつこつ暗躍で成り上がる~【連載版】  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢ピッコマでタテヨミコミック配信中)
【第二章】未来でもおなかいっぱいでいたいな

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10. ソーセージの威力

 王子がいなくなってからも、必死で働いた。カーラさんとジョーさんが迎えにきたときは、ヘトヘトだった。ふたりとも、ニコニコ笑っている。


「皆さん、いい働きぶりで感心しました」

「がんばってたね」

「どうしてわかるの?」

「望遠鏡でたまに見ていたからですよ」

「オリーも、よくやった。あんな芸当ができるとはね。さすがだ」


 オリーがブフッと鼻息を出す。


「あれでよかったんだ」

「あれでいいんだ。バレバレだと思ったけど」

「貴族の方々は、新しい犬の銅像だと思ったんじゃないかな」


 アタシたちは疲れとホッとしたので、地面に座り込んでしまう。


「さあ、よく働いた後は、お昼ごはんですよ。食堂で食べなさい」

「食堂? フワフワパンもある?」

「丸パンのことなら、たくさんありますよ」

「やったー」

「おなかへったー」


 オリーに荷車を運んでもらい、馬糞を捨て、食堂に向かった。


「食堂に入る前に、顔と手をよく洗うんだぞ」


 ジョーさんに言われ、水汲み場で顔と手がピカピカになるまで洗った。カーラさんとはお別れをし、オリーには待っていてもらって、ジョーさんと一緒に食堂に入る。


 大きなホールに長机と椅子がたくさん並んでいる。大人ばっかりだ。チラチラ見られるけど、それだけだった。


「お盆を持って、あそこに並ぶんだ」


 ジョーさんの後についていくと、いい匂いがしてきた。湯気のむこうにたくさんの人が見える。


 近づくと鍋やお皿が見えた。お腹が悲鳴をあげる。

 お盆の上にお皿がドンッと置かれた。落とさないように必死で持つ。わけがわからないうちに、お盆が重くなっていく。


「あの席に行こう」

 奥の空いている席に重いお盆を置いた。お盆の上をやっとちゃんと見ることができた。


 大きなお皿の上に、黄色いものがこんもり盛られている。その隣には光輝くソーセージが三つ。夢で見たことがある。緑色の野菜と、オレンジ色のにんじん。お皿全体に茶色のソースがとろりとかけられている。お皿の隣には赤色のスープ。お盆の上に丸パンものっている。


「うわー、こんなにたくさん?」


 孤児院のごはんの一日分ぐらいだ。隣に座ったボビーが小刻みに揺れている。嬉しすぎて喜びが抑えられないみたい。


「さあ、食べよう。いただきます」

「いただきます」


 何から食べるか迷ったけど、ピカピカでプリプリのソーセージにした。フォークを刺すとプツッと音がする。ナイフで小さく切って、口に入れる。熱い肉汁がじゅわっと口の中で広がった。


「これが、ソーセージの味なんだ」

 塩気があって、お肉の間に入ってるハーブが独特の香りがあって、もう止まらない。


 あっという間にソーセージがひとつ減った。次は気になっていた黄色いもの。これはなんだろう。フォークですくうと柔らかい。


「あ、これ、じゃがいも」

「ソースをからめるとうまいぞ」


 ジョーさんに言われて、ソースをつけてみる。優しいじゃがいもの味に、濃いソースがとても合う。これは、もしかして。丸パンをちぎってソースにつけてみる。


「めっちゃ合う」

「わかる。オレはこれだ」


 ボビーが丸パンにソーセージをはさんでかじりついた。肉汁がパンにしみこんでいってる。


「天才じゃん」

 早速みんなで真似する。


「これ、みんなに食べさせてあげたいなー」

「それな」

「みんなも働けばよかったのになー」

「ほんそれ」


 ちぎったパンをスープにつけてみた。


「すっぱい。なにこれ」

「トマトと玉ねぎのスープだね」

「孤児院でもトマトスープ出たことあるけど、もっと薄かったな」

「みんなにも食べさせてあげたいなー」

「マジでそう」


 同じような会話を続けながら、お腹がはちきれそうになるまで食べた。


「どうしよう。もう食べられない」

 孤児院では、残したことなんてないのに。まだ半分ぐらい残っちゃった。


「オリーにあげればいいよ」

「そっか。そうだね。オリーもおなかへってるよね」


 お皿を持ってオリーのところにいると、色んな人に食べ物をもらっていた。


「おっ、坊主。これ、お前の犬?」

「は、はい」


 大きな男の人がいっぱいで怖い。オリーが立ち上がって、男の人とアタシの前に立ってくれた。


「いい犬だな」

「坊主たち、馬糞掃除してただろ。話題になってたぜ」

「ちっこいのに、偉いぞ」


 男の人たちは陽気に笑いながら去っていく。よかった。帽子かぶってて。よかった。女の子ってバレなくて。オリーの体に顔をうずめる。ちょっぴりくさいけど、でも落ち着く。


「オリー、アタシの食べ残し、食べてくれない?」


 顔をうずめたまま言ったら、わかってくれたみたいで、手に持ってたお皿がグラグラ揺れる。顔をあげると、お皿はすっかりきれいになってた。


「おーい、どうした?」

 ボビーがポンと肩を叩き、アタシの顔を見て吹き出した。


「お前、顔が毛だらけだぞ」

「ぎゃー」


 ゲラゲラ笑われながら、また水で顔を洗った。


「ほら、これで拭きな」

 さっきみたいに服の袖で拭こうとしてたら、ジョーさんがハンカチを渡してくれた。


「ジョーさんって、紳士みたい」

「はあ? 紳士ですけど、俺。え、心外なんだけど?」


 ジョーさんが怒ったフリをするのがおもしろくて、ハンカチで顔を隠す。ハンカチからは石鹸のいい匂いがした。


「さて、明日だけど。今日と同じ仕事で大丈夫か? それとも休む?」

「働く。それで明日もソーセージ食べる」


 ボビーが元気いっぱいに応える。アタシたちもボビーに同意した。

 ジョーさんがポケットから銀貨を出す。


「はい。今日の給金。みんなは日当がいいだろうなと思って、カーラさんから預かってきた」


 アタシたちの手の上に、銀貨が二枚ずつのった。太陽の光で銀貨がまぶしく輝く。ソーセージみたいにピカピカだ。


「ジョーさん、この銀貨でソーセージどれぐらい買えるかな? みんなに食べさせてあげたいの」


 ジョーさんは唇をかみしめた。メガネをとって親指で目をすばやく拭く。メガネをかけるとき、太陽みたいな瞳が見えた。銀貨より、ソーセージよりピカピカの瞳。


「ジョーさん?」

 目が金色だよ。そのひとことは、言えなかった。言ったら、恐ろしいことが起きそうで。

 みまちがいだ。太陽の光でそう見えただけ。今日はいい天気だから。


「なあ、みんなの分のソーセージは俺が買う。号外のお礼だ」

「そんな、悪いよ」

「いいや、お礼をしなきゃと思っていたからさ。ソーセージぐらい買わせて。その上で、君たち五人にちゃんとプレゼントする。ほしいもの考えておいてよ」

「はいはいはーい。オレはね、カギ開けのやり方を教えてほしい」


 ボビーが手を上げながらピョンピョン跳ねる。ジョーさんは慌ててボビーの口を押えて。


「こら、それは内緒って約束だろ」

「あ、ごめん。つい。でも、教えてくれる?」

「悪用しないって誓えるなら」

「誓う。オレ、ジョーさんみたいに、いいことにしか使わない」

「よし、男の約束だ」


 ジョーさんとボビーが拳を打ち付け合った。


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