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133 足利幕府の復興とは

小田原での話し合いを終えて、駿河に戻る船の上で考える。


織田信長と、足利義昭の決別。

その理由はいろいろあるだろう。

将軍家をないがしろにする信長に、足利義昭の堪忍袋の緒が切れた。主な理由はこれになるだろう。

だが、少し待ってほしい。そもそも、足利義昭の考える権威の復興とは何をもって完成となるのか。


日本全国の大名が、将軍家の威光を認め頭を下げる事だろうか?

それなら、頭を下げている信長を切り捨てた段階で、目的は果たせない。

わざわざ他国と戦争をして、京都までの安全を確保し上洛させた織田信長を切り捨てた将軍に、誰が協力しようと望んで頭を下げるだろうか。

現在織田家と敵対している朝倉家を織田家の代わりとすることも考えられるが、実際には不可能と言ってもいい。なぜなら、金ヶ崎の戦いの際に、幕府は朝倉家を討伐する敵と認定しているからだ。

一度敵と認定した相手を、味方を裏切って後援者にする。

そんな幕府なんてだれが認めるだろうか。

しかも、今回浅井朝倉に本願寺が加勢し、さらに三好家まで協力している。

この三好家は先代の将軍にして実の兄である足利義輝を殺した相手だ。

これでは、織田家を排除しても、足利義昭を信用するものは誰もいないだろう。

少なくとも、上洛以降織田家は幕府の意向で朝倉家や三好家を攻撃している。

織田信長にとって、それらは大義名分としてだけのものであるかもしれないが、それを認めたのは間違いなく足利義昭の幕府だ。

会社で言えば、提携して協力してくれた会社を、業績規模が自社より上になったから切り捨てようとしているわけだ。誰がそんな会社の傘下に入りたいと思うだろう。



では、織田家を悪として排除し、幕府の権威をもって諸大名の関係を調整して平和をもたらすのが目的だろうか。

これも不可能だ。なにせ、自分と織田家との調整をものの見事に失敗している。

どの面下げて、他人との問題に首を突っ込めるだろうか。「お前が言うな」という話である。


そして、そもそもの戦国時代となる原因である応仁の乱。

これが全国に拡大したのは、将軍家の継承問題による内紛で、幕府の力が激減したためである。

そして、大事な事だがこの状況が、現時点を持っても解決していない。

前将軍足利義輝を殺した三好家は、新しい将軍を擁立しようとしていた。それを、織田信長が機先を制して京都を掌握し、義昭に将軍職を取らせたに過ぎない。

そして、新将軍足利義昭は、これらの敵対勢力との関係改善に何ら努力していない。要するに、自分の正当性を認めさせる政治的行動をとっていないのだ。


結論として、足利義昭という男にとっては将軍職に就くことが目的であって、将軍職について何をするかを全く考えてないとしか言えないのだ。


幕府の権威の復興?

幕府の権威を復興させる最善の方法。

それは、足利義昭がこのまま織田家の支持を得て、周辺各国の大名の関係を調整して織田家と同盟や和睦を結ばせれば、それで目的達成なのだ。

足利義昭を将軍と認める織田家に周辺各国が従う。幕府は諸問題を調整し、武力が必要になった際に織田家や周辺大名の力を頼る。

これで足利幕府の権威の復興といっても問題ないだろう。後は、織田一族を血縁なり地位なりで取り込めばいいのだ。

傀儡で何が悪い。

鎌倉幕府の源氏は北条家の傀儡ではなかったというのか?

細川家の反目が幕府の継承問題にまで波及した足利将軍家は、絶対的権力者だったとでもいうのだろうか?

だが、足利義昭にはそれが許容できない。だから、混乱を助長させるような行動をとる。


要するに、足利義昭にとって幕府の権威の復興とは、大名たちが将軍の意向に無条件で唯々諾々と従う存在となる事を前提としている。

額面通りに征夷大将軍という地位を見ればそうできると思うのだろう。

事実、そうあるべきなのだ。だが、現実にはそうではない。

だからこそ調整する必要がある。誰だって捨て駒になるために仕えたりはしない。それならばそれで、命に見合う代価が欲しいし、自分の命を懸けるに値する理由がいる。

滅私奉公は一兵士には許されるが、支配者には許されない事なのだ。一兵士なら私を滅してもそれは自分の命。自分の責任だ。

しかし大名は、支配者は違う。大名が滅びるときはその下にいる幾千幾万もの民の命がかかっている。だからこそ御恩と奉公なのだ。

将軍家による内乱によって戦国時代を起こしてしまった足利幕府にはその理由(御恩)がない。

だから、清濁併せ呑む必要があるのだ。額面通りに受け止めてはだめなのだ。将軍であろうとも引く必要がある。そのうえで、引いたという「恩」を与える必要があるのだ。

足利義昭に決定的に足りないのは、征夷大将軍という地位が、意見調整役であって最高権力者ではないという事への理解だろう。

まあ、足利義昭の出生から将軍職拝領までを見るに、政事に関して英才教育を受けていたというわけでもないので、それを察しろと言うのは無理な話なのかもしれない。

オレがいきなり名門今川家の当主になるようなものだ。絶対に御免だ。


初めての子育てに苦労する新ママみたいなものだ。我侭な子供(将軍)に振り回されて、途方に暮れる新ママ(幕府)が今の状況。

赤の他人であるボスママ(織田家)に頼っているが、ミスをして怒られても子供にとってみれば、怖い他人としか映らず反省しない。そして、そんなボスママが、周りから非難されれば、子供もボスママを軽く見る。後はその繰り返し。

あとは、苦境に陥るボスママが他人である新ママ一家を見捨てるか、調子に乗った子供の我侭に疲れた新ママが子を捨てるか。

そんなわがままな子供が頼る先はどこか。


残念だな、足利義昭。

道理の分かる優しいおばあちゃんである今川家を頼ろうとするだろう。だが、道理を重視するからこそ、貴様の我侭では動かないのだよ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 何時もながら見事な説明、足利義昭を一刀両断て感じです。 [一言] 次も、その次も楽しみにしてます。
[良い点] 今話もありがとうございます! 私の浅学ゆえ、史実の足利義昭が暗君であったかどうかの評価は差し控えますが、 「足利義昭がこの物語で描かれた様な人物であったとしたら、 室町幕府は織田家との決…
[良い点]  まあ、会ったこともなければ会おうとしても相手にされないだろう相手ですから、その人格について想像の域を出ないのは当然ですが、それでもその通りだと思わせるような絶妙な表現になっていると思いま…
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