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130/155

130 敵と味方の区分け

お気に入り登録:12,000件超え

総合評価:40,000ポイント(超えていました)


これも、読んで頂いた読者様のおかげです。

ありがとうございます。

駿河で2日ほど滞在し、来ていた手紙に返事を書き、教え子たちの状況を確認し宿題を与えた上で、ようやく小田原城に向かう事が出来た。

案の定、接舷と同時に北条家の兵が迎えに来て、そのまま登城。

前にも来た毒蜘蛛の住処に放り込まれる。

軽くひと風呂浴びて、旅の垢を落としてからでもいいのよ?



「やってくれたのう?」

「はて?何のことやら」


開始早々、毒蜘蛛こと北条幻庵老人からの恨み節である。心当たりはないではないが、正直に答えてやるほど親しい間柄ではないので、イヤミがてらとぼけておく。


「武田の事よ。手を出そうとしてみれば、思わぬ抵抗を受けた」

「武田昭信はなかなかの人物という事ですな」

「信虎…やったのはウヌか?」

「まさか。ただ、武田信虎殿は北条家でもなく今川家でもなく、武田家の人間だったという事でしょう」


実際、信虎の説得による武田信玄との穏便な決着は、今川家以上に北条家の予定を狂わせていた。そもそも、北条家の目論見は今川家に武田昭信を支援させ、北条家の被害を最小限にしつつ武力的勝利をおさめ、勝者と敗者によって荒れるだろう甲斐の勢力を取り込む事にあった。

実際、オレ自身も甲斐を北条に渡すという口約束を取り決めた際に、そうなる事を想定して了解していた。

そして、それ自体はある程度成功している。

今川家と武田昭信が武田信玄と戦っている間に、甲斐の東側の勢力図を一変させ、豪族たちを親北条家にしている。

問題はその後。東部の豪族の支持を背後に、甲斐武田家の内部抗争の切り崩しから勢力を拡大させる予定が、他の豪族たちが武田家を盛り立てるべく集結してしまったのだ。

その理由は、武田信玄の降伏による甲斐豪族同士の対立が早期決着したことと、急速に勢力を拡大させた北条家への危機感だ。

隣人同士で殺しあう戦国時代だが、部外者である外部勢力が侵攻してきた場合はなぜか一致団結して抵抗するという地元系豪族の特性が如実に表れたのだ。


「しかし、今川家の軍は引いたのです、北条家の一人勝ちではありませんか」

「お主等の影響力を残して、だがな」

「求められれば、口は出しますよ。同盟国なのですから」

「フン」


後ろめたいことは何もない。オレ自身も想定外の出来事だったが、損がなかったというだけの話。利益が得られなかった北条家に関しては「残念でしたね」という以上のことはない。


「で、何の用だ」


そう言って、今回の来訪について切り出してくる幻庵老人。

もちろん、北条家の愚痴を聞きに来たわけではない。


「一向宗の件です」


本題に入る。

結構忘れがちだが、関東にも一向宗の勢力はある。

まあ、理由としては面倒な宗教的な変遷があったのだ。

現在、一向宗の総本山と呼ばれる石山本願寺だが、実は一向宗という宗派ではなく、浄土真宗である。また、宗派の内部派閥としても「一向宗派」ではなく、「本願寺派」である。

一向宗はどこから来たのかと言えば、本願寺派が大勢力を築く過程で取り込んだ地元宗教に近かったのだ。

当時の本願寺派は衰退の一途をたどっており、本山から退去させられるほどだった。当時の法主蓮如(現在の顕如の三代前)は、北陸や関東へ布教の旅に出ている。

これが実を結ぶのが、越前でおこった宗派の内輪もめから始まった騒動の時で、他派の一部が本願寺派への合流をえらび、瞬く間に一大勢力となった。

その時合流した北陸地方の一派に、一向宗があったという話だ。

あくまでも、浄土真宗本願寺派の一部であって、浄土真宗のすべてではないわけだ。

なぜ、一向宗と呼ばれているかは歴史が教えてくれる。

近江、越中、加賀、三河で起こった一向一揆。

中でも加賀一向一揆の支配は数十年にも及び、現在も加賀は一向宗の勢力下である。

ようするに、過激で注目を集める集団が浄土真宗の中にあって、その結果「ああ、あの過激な連中がいる宗派」という形で認識がされているだけだ。

まあ、最近でも三河一向一揆がおこっているので、無関係とは言えない。


話がそれたが、何を言いたいかと言えば浄土真宗の開祖親鸞にはじまり、一大宗派にした蓮如自身も、東海や北陸地方から関東に布教の行脚をしており、彼らの足跡にそった地域には、信仰の跡である信徒がいるわけだ。

それは、関東地方も例外ではない。


「ああ、騒いでおるな」


とはいえ、その口ぶりは他人事だ。それは当然ともいえる。何せ、北条家は織田家と領土を隣接していない。

間に今川家と武田家があり、わざわざ同盟国に踏み込んで織田家を攻撃するほど北条家も暇ではないのだ。


「…そうか。織田家につくか」


幻庵老人は、オレがわざわざ小田原に来た理由を察したようだ。


「来月にでも当家の霞姫が岐阜へ嫁入りします」

「本願寺の狙いは、今川家の参入…いや、幕府の参戦か」

「どちらが黒幕かはわかりませんが」


そう返すオレの言葉に、幻庵がクックックと笑う。


「なるほど、上杉を抑えろと?」


幕府が敵に回るなら、幕府寄りの関東管領上杉謙信が敵対する事になる。

世代交代したばかりの武田家や信濃を手に入れた徳川家だけでは不安が残る。であるなら、長年上杉家と争ってきた北条家の手を借りる…と読んだのだろう。


笑みを浮かべて首を振る。


「いいえ。上杉家の味方となってください」

「なに?」

「甲斐の武田家と共に幕府側について頂きたい」

「…何を考えておる?」


オレの言葉に、幻庵老人が探るように目を細める。

笑みを深くして歯を見せる。


「三国同盟の破棄を」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第130話到達、ならびに…… >お気に入り登録:12,000件超え >総合評価:40,000ポイント(超えていました) おめでとうございます! [気になる点] 今話ラストでの月斎どののセリ…
[一言] 一向宗について全く知らなかったことが分かりました 浄土真宗の中に本願寺≒一向宗があると思ってました webで説明見たけど良く分からないので 良く分からないままにしておこう
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 何故「一向宗」と呼ぶのか、初めて知りました。 ま〜たツァーリボンバを手渡す…北条幻庵の心臓を止めるのが目的か?考えが読めんわぁ。
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