17 エピローグ
「無事に終わって良かったな」
「無事? ええ、リーゼにとっては良かったかもしれませんが……」
大荒れに荒れたパーティーの3日後。
俺たちは王都を出て懐かしき我が街に戻る道中にあった。
パーティーが終わってからの二日間。魔法で姿を変えていた俺は大賢者という立場で王城で最高の待遇を受けた。
臣下の無礼に対するお詫びという名目だったがこれをきっかけに俺との関係をより深めたいというつもりだったのだろう。
転んでもただでは起きないというのがさすがは為政者といったところか。
大賢者の孫娘ということになったジーナは蝶よ花よという扱いで恐縮しながらも王城での生活を楽しんでいた。
その間にリーザロッテ御嬢様とも仲良くなったようで身分の差はありながらもリーゼという愛称で名前を呼ぶことを許されたみたいだ。
俺も久しぶりにVIP待遇を受けたが正直二日目でもう心理的にも物理的にもお腹いっぱいだった。
やっぱり俺は平民として自由に生きるのが一番合っている。
「それにしても今回は上手く嵌まったな」
「そうですね。いったいどこまでが計算だったんですか?」
「ふっふっふっ、俺は大賢者様だからな。すべてが俺の計画通りよ」
「へぇ~」
ジーナが訝し気な目で俺を見る。
王都で調達した馬車を操り俺たちはリードの街を目指す。
正直なところを言えば、俺の大賢者としての肩書が役に立ったのはまったくの偶然だ。
大賢者である俺の正体を知る者は少ない。
大陸会議を構成する各国の王たち、そしてその国の政を司るごく一部くらいだ。
俺がこの国で冒険者として生活していることはこの国のトップである王も知るところだった。
俺もこの国に住まわせてもらっていることもあり、王家とは定期的に関係はもっていたのでこの国の今の王家が厳格な身分制については否定的なことも薄々は気付いていた。
王家も本心では辺境伯家の御令嬢を婚約者の大本命としたいと思っていたそうだが、貴族の世界ではそう簡単にはいかない。
そんな中で辺境伯家の御令嬢に対する不穏な動きがあることには気付いたものの王家として肩入れはできず忸怩たる思いをしていたところに俺が声を掛けたというのが実情だった。
まあ、当初は俺も御嬢様の警護のためにごり押しでパーティーに参加したのだが、思いがけない方向に話が進んで俺の肩書が役に立つことになった。
国王陛下も打ち合わせなしであれだけのことができるのだからたいしたものだ。
それはそれとして侯爵家はあの御令嬢の失態で大きく求心力を失うことになった。
それに加えてパーティーまでの間に秘密裡に俺が掴んだ侯爵家が辺境伯家にした妨害工作の証拠を王家に提供しておいたので今後王家によって侯爵家が断罪されることだろう。
王家としてもゴリゴリの権威主義だった侯爵家を何とかしたかったようで、求心力を失った今の侯爵家の状態であれば一気に事を運ぶことができそうだ。
それにしても王都で羽を伸ばすどころか転移魔法に変装魔法、それにあまり声を大にして言えないがちょこっと禁呪と呼ばれるものも使うことになった。
少し働き過ぎたから街には真っすぐ戻らずどこかに寄り道をしてもいいかもしれない。
「そう言えばいつまで俺について来るんだ? 帰る場所があるなら送ってやるぞ」
「私の目的はもう何度も言ってますよね? もうボケてしまわれたんですか大賢者様?」
「失礼な、俺はまだおっさんだ!」
変装魔法を解いた俺はどこからどう見てもただの冴えないおっさんだ。
そんなおっさんには二度目の魔王討伐はやはり荷が重い。
もう何度もそう言っているのにジーナはまったく聞く耳を持ってくれない。
「なぁ、頼むから魔王討伐はもっと若い奴に頼んでくれよぉ~」
「ちょっと、大賢者様がそう簡単に私のような者に頭を下げないで下さい!」
「俺の頭でよければ何度でも下げるからさ~。もう土下座でも何でもしちゃうぜ!」
「ああっ、ちょっ、手綱! 手綱ちゃんと持って!」
荒野のど真ん中で俺たちが叫ぶ声が響き渡る。
まったく面倒なことになったと思いながらジーナに付きまとわれるのもそんなに悪くないかもしれないと思い始めている自分もいる。
――本当に俺って奴は難儀な性格をしている
「やっぱり俺は長生きできそうもないな」
俺は手綱を持ち直すと一人小さな溜息をついて雲一つない青空を仰いだ。
ここで完結とします
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