11 パーティー
※ 第三者視点
二日後に開かれたパーティーは盛大なものだった。
この国の王子の婚約者を選ぶためのパーティーということで王国の貴族の娘の中から年頃の御令嬢たちが王城へと集まって来る。
エスコートはそれぞれの令嬢たちの父兄が務め、リーザロッテは辺境伯とともに入場した。
しかし、ある程度時間が経つとエスコート役の父兄は令嬢から離れるのが暗黙のルールとなっているので辺境伯と入れ替わるように人知れずリーザロッテの護衛をするのがジーナの役割だ。
この日ジーナはパーティーの裏方。
パーティーで給仕をする城のメイドとして会場に入った。
紺色のロングスカートのワンピースの上に落ち着いたフリルのついた真っ白なエプロン。
頭には同じく白色のホワイトブリム。
そんなジーナは会場の参加者に飲み物を配りながらリーザロッテに害をなそうと近づく者がいないかを警戒しながら彼女から少し離れた場所でその様子を見守る。
リーザロッテは有力な王子の婚約者ということもあって注目度は高い。
そんな彼女の周りには今後を見越して彼女との関係を築こうとする他の令嬢たちが引きも切らず声を掛けている。
(あの中に刺客がいる可能性も否定できないけれど……)
心配は尽きることがない。
しかしそれはある程度はリーザロッテ自身に判断してもらう他ない。
ジーナが一番警戒しないといけないのは時折やってくる給仕たちだ。
まだ若いとはいえ裏の世界に生きるジーナはそのやり口もある程度は知っている。
もし自分が要人の暗殺を命じられるのであれば使用人に扮して潜入することを第一に考えるだろう。
ジーナにとって気の抜けない時間が続いた。
「御嬢様、お疲れさまです」
パーティーが始まってから1時間。
リーザロッテの周りから人が引いたタイミングでジーナは手に飲み物の入ったグラスを持ってそう声を掛けた。
「本当、王子殿下にお会いする前にもうクタクタよ」
リーザロッテはそう言ってジーナが差し出したグラスを手に取るとそれに口を付ける。
グラスの中身は予めジーナが毒見をしており少なくとも即効性の毒がないことは確認済みだ。
「それでその王子殿下はどちらにいらっしゃるのですか?」
「殿下は基本的には地位の低い御令嬢から順にお会いして話をされているはずよ。わたしたちは最後の方でしょうね」
王子の婚約者として適齢とされている御令嬢のうち、有力とされる身分の高い御令嬢はこのハロルド辺境伯家の御令嬢であるリーザロッテ、そしてもう一人は侯爵家の御令嬢だ。
どうしてそんなに面倒なことをするのかと思わなくもないが、王家としては身分の上下なく広く選んだという建前を示すことに加えて、王子に後から『あの令嬢が良かった』などと言わせないことも目的である。
何代か前の王家では家格だけで婚約者を決めた結果、当時の王子が後から家格の面で対象外だった御令嬢に運命の出会いをしたと言い出したことがあったのだ。
その結末は王子が婚約者に対して公の場で婚約破棄を宣言して国政が大混乱したというこの国の黒歴史だ。
そういった訳で、王子の婚約者選びでは、取り敢えず王子に一度は話をさせておくということになった。
この時点でどうしてもという相手を見つけることができたのであれば、後から決まったことをひっくり返されるよりも対応のしようがあるということでこの国では王子の婚約者選びではこういった習慣が生まれることになった。
「貴族の世界も大変ですね」
「まったくよ」
リーザロッテもジーナが相手ということで肩の力が抜けているらしい。
先ほどまで強張っていた表情も険が取れていつもの穏やかな表情に戻っている。
せっかく王子に会うのであればこちらの表情の方がよっぽどいいだろうとジーナは思った。
しかし、そんな穏やかな空気は突如として壊される。
「リーゼ、ここにいたのか!」
血相を変えて現れたのはリーザロッテの父親であるハロルド辺境伯だった。




