四、光①
猛暑が続く晴天のある日、隼人と夏菜はお互いの不規則な休日を合わせてデートをした。
熊本市内にある彼女の家まで、朝早く車を走らせ迎えに行き、再び山鹿方面へUターンをする。
そこから菊池渓谷を目指す。
いわゆる涼を求めてというやつだ。
山鹿からしばらく山道を走らせる。
脇に生い茂る木々の青々とした緑葉の間から、陽光がキラキラと光っている。
渓谷に近づくと、エアコンを止め、車窓を開ける。
そうすると、ひんやりとした空気が車内に入り込んでくる。
夏菜はニッコリと微笑むと、
「気持ちいいね」
「うん」
隼人も微笑み返すが、その表情にはどこか翳りがあるように夏菜は見えた。
彼は肥後製菓堂の新しい和菓子を何にするか今だに決めかね、迷っていたのだった。
「どうしたの?ひょっとして例の?」
「う、うん、あっ着いたよ」
隼人は駐車場に車を停める。
降りるとそこで夏菜と視線が合い、バツの悪そうな引きつった笑顔を見せた。
二人はちょっぴり気まずい雰囲気のまま、無言で渓谷に向かった。
入り口をくぐると、渓谷特有の涼しさが包み込んだ。
みやげ屋を通り、赤い橋を渡ると、木々によって光が遮られ鬱蒼としている。
しばらく歩くと登山道のように道が悪くなる。
時折すれ違う人たちは、ファミリーや風景写真を撮りに来た人、涼みに来た人、お年寄りの方など様々だった。
だけど半分くらいは隼人達のようなカップルだった。
思わず隼人は苦笑した。
肩が触れ合うくらいの狭い道もあり、真下には清らかな水が満々と流れている。
ドドドドドと轟音が聞こえはじめると、ゴツゴツとした石のある開けた河原にでる。
そこにある落差の少ない滝が二人の目の前に現れた。




