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デートの始まりはお饅頭

「……ほんと?」


俺の言葉に、花梨が顔を上げて問いかけてきた。


「ほんとだよ」


「ほんとに私可愛い?」


不安げに聞いてくる花梨に、俺は強く頷いてやる。

首を振ることも一瞬考えてしまったが、ここでそれをやったら台無しだ。

目にも光が戻ってきている気がするし、からかう場面でもないだろう。

さっさと立ち直ってもらって、さっさとここから移動したい。

そんな打算が含まれていることも確かだったが、なにより花梨にこんな顔をしていて欲しくなかった。

コイツはなんだかんだ笑顔でいてもらうのが、俺は一番安心するのだから。


「ほんとにほんと?可愛い?私、可愛い?」


……とはいえ、さすがにちょっとしつこい。

なんでそんな聞いてくんねん。そう言っとるやろがい。

思わずそう言いたくなる自分をグッと抑え、俺は笑顔を作ってみせた。


「おう、可愛いぞ。めっちゃ可愛い」


「…………へへへ、そっか。そうなんだー」


改めて褒めてやると、花梨は顔をほころばせた。

ふにゃふにゃとしただらしない笑みを俺に向ける。

ふたりで笑い合う格好になったわけだが、ここで俺はふと気付く。


(なんか周りの視線、集まってね?)


いつの間にか、周囲からやたら見られているような気がした。

花梨だけでなく、俺にも向けられているように思うのは、背中にむず痒さを覚えるせいだろうか。

そのどれもが生暖かい感触があり、嫌悪感のようなものは感じないのだが、正直居心地がめちゃくちゃ悪い。


「おい、花梨。そろそろ行くぞ」


辺りを見渡すのが怖くなった俺は、その場をすぐに立ち上がり、花梨に向かって手を差し出した。

早くこの場を立ち去りたかった故の行動だったが、何故か花梨は俺の手と顔に交互に見比べ、まだ立ち上がろうとしない。


「おい、どうしたんだよ。早く立てって」


「…………トウマちゃん。王子様みたい……」


は?何言ってんのこの子。


「これ、漫画で見たことあるシチュエーションだよ!悲しむお姫様に手を差し延べる…いい……うん、いいよトウマちゃん!これだよ!こういうのを私は求めていたの!テンション上がってきたよぉっ!」


ええ、なにそれ怖い。

そんなつもり全くなかったんですけど。

ちょっと脳内補正強すぎないか?俺を買いかぶり過ぎだろこの幼馴染。

内心ドン引きしていると、花梨が俺の手をガッチリと掴む。

そしてキラキラと星さえ見えそうな瞳を俺に向けた。


「ようやくわかってきたね、トウマちゃん!私の好みをわかってくれてるなんて、さっすが幼馴染!最高のデートの始まりに相応しいよ!」


いや、そんなことないんスけど。

ていうか、俺の名前連呼するのマジやめて。

知り合いに見られたらどうすんだ。お前と違って俺はメンタル強くないんだぞ。

俺からしたら最悪の初デートの始まりだ。トラウマになったらどうしてくれるんだよ。


「…………」


「さぁそれじゃあさっそくデートにレッツラゴー…ん、どうしたのトウマちゃ…んあっ、いふぁい、いふぁいよふぉうまちゃん!」


無言で花梨の両頬に手を添えると、俺は怒りのままにその白い頬を引っ張った。


「ふぁにするのー!これからでーふぉなのに、おまんじゅうになっひゃうよー!」


うっさい。調子に乗ったからだ。

餅のような柔らかさと、すべすべとした感触を指先で感じながら、俺はしばし幼馴染に対し無言の抗議をするのだった。

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