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お風呂があれば生きていける  作者:


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送迎

 温泉宿で目覚める5回目の朝。 

 宿の高級ベッドは自宅のベッドより寝心地がいい。日中森の中を歩いて運動量が多いこともあってか、昨晩もぐっすり眠れた。

 

 窓を開けると、朝の冷たい空気が入ってくる。

 森の匂いだ。

 目覚めて窓の外の森を見る度に、異世界にいるのだと実感する。


 朝食は、売店で買った栄養補助食品のシリアルバーとコーヒーだ。日本でも平日の朝食はこんな感じだった。


 日本の暦では10月下旬。ここの季節がどうなっているのかわからないが、日中の気温は日本と同じか少し高いくらいじゃないかと思う。


 外に未知の生物がいるかもと思うと怖くて、異世界初日の夜は内風呂にしか入れなかったし、2日目の朝は窓を開けられなかった。


 しかし2日目に異世界人アプリを色々いじってみて、マップの設定を変え、危険な生物の位置が赤い点で表示されるようにしたところ、温泉宿から半径50mの範囲内には侵入できないらしいと気付いた。

 温泉宿を中心にぽっかり空いた円。その内側は安全ってことだ。神に一応感謝したけど、そもそも奴が元凶だからな。


 安全とはいえずっと円の中だけで生活するわけにもいかない。アラーム機能もあったので、危険生物が接近したら音が鳴るように設定して、早速2日目から毎日円の外に出ている。


 集落がある西に向けて森の中を進みながら、食料を調達する。

 鑑定を使って、食べられる山菜やキノコ、果物などを採るのは楽しい。採取ポイントはマップにマークを入れたりして、それも楽しい。

 動物性タンパク質も欲しいけど、狩りはもちろん釣りもしたことがない。温泉宿の貸し出しに釣り道具一式があったので、釣りには挑戦したいと思っている。


 この森には野生動物の他に、魔物がいる。

 サイズがおかしい虫や鳥が飛んでいたり、あり得ない造形や色の獣がいたりする。さすが異世界だ。


 魔物であっても、私に危害を加える恐れがないものは赤い点で表示されないようだ。

 採取中に、風魔馬という風属性の魔物が数頭近くを通ったことあったが、赤い点は出ずアラームも鳴らなかった。

 ちなみに、風魔馬はシマウマを大きくして黒い部分をミントグリーンに変えたようなメルヘンな見た目だった。

 魔物でない熊や狼、毒蛇、恐らくだが人間でも盗賊なんかは、赤い点で表示されるんじゃないかと思う。


 マップ上の赤い点を避けながら移動しているが、念のため、接近アラームが鳴ると同時に転移で温泉宿に戻る設定にしている。


 温泉宿への転移は、『温泉宿』メニューの中の『送迎』によるものだ。


 これは温泉宿の外に出て初めて表示された機能で、『迎え』を使うと一瞬で温泉宿の離れの玄関に戻り、『送り』を使うと過去に迎えを使った地点の中から行きたい所に一瞬で送られる。ショートカットできてすごく便利。

 この機能がなかったら人里へ行くのに何日も野宿しなければならないところだった。

   

 避けまくっているので、まだ危険生物に遭遇したことはない。

 貸し出しにあったレジャー(なた)は持ち歩いているが、危険生物に鉈が届く距離まで迫られたらもう駄目だと思う。

 一応、攻撃手段として殺虫剤と一味唐辛子も携帯している。使えるか不明だが。


 アプリでMPの表示があるってことは魔法が使えるんじゃないかと、体内の魔力を探ってみたり、「ファイヤー!」と手を前に出して叫んだりしてみたが、何も起こらなかった。

 誰も見ていないけど、恥ずかしかった。


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