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ショートショート7月~

こんぺいとう

作者: たかさば
掲載日:2020/07/15

ちょっといいお菓子屋さんで、ずいぶんぶりに、金平糖を買ってみた。


金平糖は、食べることのできる、宝石。

金平糖は、食べることのできる、お星様。

金平糖は、食べることのできる、たから物。


金平糖は夜空に輝く星のかけら。

金平糖は私の大好きなお菓子。


大切に大切に、一粒一粒美味しくいただこう。

大きめのビンを買ったから、しばらく楽しめる。

このビンが空になる頃、私は何をしているかな。


ずいぶん昔、私に金平糖をくれた人がいた。

ずいぶんおしゃれな、瓶入りの金平糖。


「コレはね、空から落ちてきた飛び切りのお菓子なんだよ。」


そう教えてもらったから、金平糖は私にとって特別なお菓子になった。


ここ一番のがんばり時に、金平糖の力を借りた。

新しい何かに飛び込む前に、金平糖の力を借りた。

落ち込んで浮上できない時に、金平糖の力を借りた。


金平糖はいつだって、私に力を与えてくれた。


優しい甘さを口の中で転がしながら、ただ物事に思いを寄せる。

甘さを感じながら、自分のすべき事を模索する。

甘さを堪能し終える頃に、自分の中の指針が決まる。


金平糖はいつだって、私に考える時間をくれた。

金平糖はいつだって、私に決定する勇気をくれた。


金平糖が特別なお菓子なんだと教えてくれた人は、空の星になってしまった。


ずいぶん悲しくて、ずいぶん金平糖のお世話になったけれど。


思い出は、遠い記憶になった。


金平糖の力を借りなくなった私は、ずいぶん無気力だったに違いない。

金平糖の秘密を教えてくれたあの人も、空の上で心配していたに違いない。


金平糖のビンのふたを開けて、一粒取り出し、口に入れた。


…優しい甘さが口の中に広がる。


あの頃と変わらない、優しい甘さ。

あの頃私が縋った、優しい甘さ。


ポロリと一粒、涙がこぼれた。


…この涙は。


あの時流した、悲しい涙では、ない。


久しぶりに食べた金平糖の甘さに。

幸せを感じて、思わずこぼれた、だけ。


思いがけずこぼれた涙におどろいた私は、金平糖のビンを倒してしまった。


ふたの開いていた瓶から、色とりどりの金平糖がこぼれる。


金平糖を、ひと粒づつ摘んで、瓶に戻す。


戻すたびに、一粒、一粒。


こぼれる、涙。


こぼれた金平糖をすべて瓶に戻しても、涙は止まらない。


口の中の金平糖が、すうと溶けてなくなる頃、私の涙はようやく止まった。


甘い、甘い金平糖。


私には、まだ少し、食べる準備が整っていないみたい。

私には、まだ少し、時間が必要みたい。


あの頃泣きながら食べた、瓶入りの金平糖。


このひと瓶を食べ終わる頃には、涙はもう出なくなっているはず。

そう信じて食べた、あの金平糖。


あのひと瓶を食べ終わった後、私は涙を流さなくなった。

だから、もう、大丈夫だと思っていたのに。


あの時泣きながら食べた記憶が、涙を呼んだのかもしれない。


明日また一粒食べたら、涙はこぼれるのだろうか。

こぼれないかもしれない、こぼれるかもしれない。


けれど。


このひと瓶を食べ終わる頃には。


金平糖は、私の涙を誘うものでなくなっていることを願って。

金平糖が、私の特別なお菓子に戻っていることを願って。


私は金平糖の瓶を、戸棚の奥のほうに忍ばせる。

涙が出なくなったら、テーブルに出そうと決めて。


明日、一粒だけ、食べてみよう。


涙は出るのか、出ないのか。

明日にならなければ、分からない。

涙が出なくなる日が、いつになるのか、分からない。


いつになるのか分からないけれど。

金平糖は、優しい甘さのまま、瓶の中できらきらと輝いているから。

金平糖は、優しい甘さのまま、戸棚の奥でじっと待っていてくれるから。



明日もまた。


一粒だけ。


そう、心に決めて、私は戸棚の扉をそっと閉めた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 何だか、胸がきゅとなりました。 言葉がうまく書き出せないですが、切なくそして、優しい物語ですね。 ありがとうございました。
2020/07/16 21:35 退会済み
管理
[良い点] 涙が出るってなんだか良いですね。最近泣いてない。 [気になる点] ヨダレが出てしまった。 [一言] 愚者の心臓を書き殴ってて、上手く頭に入ってきません。脳内が荒れに荒れています。 くそぅ
2020/07/15 22:14 退会済み
管理
[一言] 金平糖が特別だと教えてくれたのは、祖母か、母か、それとも……。その亡くなった人を思い出している悲しみというか、無気力さが、金平糖の儚さとともに伝わって来ます。小さいつぶ、すっと溶ける思い。 …
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