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第66話 護衛クエスト

 翌日――


 ギルドに足を踏み入れると、掲示板の前にはいつにも増して冒険者たちの群れ。ざわついた空気が張り詰めている。


「誰がこんなクエスト受けるんだよ」

「銀証、誰が受けるかだよな……」

「赤くなるまで放置だな」


 俺たちはその喧騒を横目に、静かな二階へと足を運んだ。こちらは打って変わって閑散としていた。


 その中で、一枚の黄色い羊皮紙が俺たちの目を引く。

 掲示板の中央――緊急クエストだ。


+-+-+-+-+-+


【依頼名】

・緊急クエスト:盗賊団討伐および隊商護衛任務の指揮


【依頼ランク】

・銀証初段以上(戦闘系)


【依頼内容】

・迷宮都市バックス周辺に現れる盗賊の討伐

・隊商交易路の護衛および補佐

・銅証冒険者十名程度による部隊編成と随行


【目的】

・盗賊団の殲滅および隊商の安全確保(期間:約一カ月)


【場所】

・迷宮都市バックス周辺地域


【報酬】

・大銀貨五枚支給

・討伐貢献度に応じて、ギルドより追加報酬あり

・優秀な戦果を挙げた者には、冒険者ランク大幅昇級の可能性あり


【依頼主】

・冒険者ギルド


【期限】

・隊商交易終了、盗賊団殲滅完了まで


+-+-+-+-+-+


 依頼者が冒険者ギルド……討伐がメインの護衛クエストといったところか。


「緊急クエスト……どうするのだ?」


「うーん……今回はパスかな。盗賊団って、あの人たちのことだろ?」


 あの人たち……というのは、バックスの南東の一画に住んでいたならず者たち。

 こいつらが、スリや窃盗、恐喝などを行っていたのだ。

 中には冒険者もいて、実力者もいる。

 そいつらをまとめて、盗賊団を結成した者がいるのだ。


「……十中八九、間違いないだろうな」


 そんな会話を交わしながら、俺たちは受付嬢――リリアの待つカウンターへと向かう。


「おはようございます、レオ様、リン様! 本日、緊急クエストが発令されました! いかがなさいますか?」


「おはようございます。うちらは……今回は見送ります。他の冒険者に任せますよ」


 俺の返答に、リリアは少し驚いたような表情を見せた。


「えっ? どうしてですか? レオ様たちなら、盗賊団くらい造作もないかと……」


 ただの好意的な評価というより、ギルド側から何か言われているのかもしれない。


「正面からの戦いならまだしも、今回は隊商の護衛付きですよね? 夜襲への備えも必要だし、あちらはこっちの戦法を知り尽くしてるはず。さすがに危険度と報酬が見合ってない気がして……」


「やっぱり……そうおっしゃると思ってました」


 リリアは納得したように、苦笑を浮かべた。


「ほかの銀証の方々はこのクエストをうけないのですか?」


「今のところ、一つのパーティが名乗りを上げているのですが……銅証の冒険者たちが誰もついていかなくて……」


「どこです?」


「――『爆心』です」


 あぁ……あの連中か。

 爆発は芸術なんて言って、誰彼かまわず【火爆ファイアバースト】をぶっ放すやつら。

 魔法師同士がパーティを組むなんてことはあまり聞かないが、こいつらはもう魔法を覚える気がない。ただただ、気持ちよく【火爆ファイアバースト】を撃てればいいだけなのだ。

 銅証冒険者なんて使い捨てと思ってる節もあるし……そりゃ不人気にもなるよな。


「ギルドは『爆心』にクエストを任せるつもりなのですか?」


「ここだけの話……だからこそ困ってるんです。下手したら隊商ごと吹っ飛ばしかねませんから。最終的には、隊商の主が断ってくれるはずなんですけど……」


 リリアの顔には、笑顔と本気の困惑が半々に浮かんでいた。

 助けてあげたい――でも、こちらも命がけ。そう簡単には踏み切れない。

 そんな中、リンがふと口を開いた。


「隊商というのは、昨日この街に来た者たちのことか?」


「はい。そうですけど……見かけたのですか?」


「ああ。宿に戻る途中でな。バックス辺境伯の馬車には見えなかったが? 馬車は一台だけなのか?」


「はい。王都からの隊商です。馬車は三台あったようなのですが、二つは略奪されてしまったようで……」


 ――王都?


 聞き捨てならないワードに、思わず身を乗り出す。


「どこの隊商ですか?」


 そう訊ねると、リリアは少し困ったように首を横に振る。


「すみません。クエストの関係上、まだ明かせないのです。ただ、しっかりした身分の方であることは保証できます」


「もし、それが恩がある方の隊商であれば、恩を返すためにも是非参加させていただきたいのですが……それでも教えてもらえませんか?」


「恩がある? 失礼ですが、どなたですか?」


 先ほどまでの穏やかな笑みは消え、リリアの目が真剣に細められる。


「――ムスク伯爵家の、サグマ士爵です」


 その名を口にした瞬間。

 リリアの目が見開かれ、息を飲む音が聞こえた。

 どうやらビンゴのようだ。


「今、サグマ様はどちらに……?」


「……安全な場所にいらっしゃいます。レオ様を疑うつもりはありませんが、念のため確認させていただきたいことがあります。少々、ここでお待ちいただけますか?」


「分かりました。もし本人に会うことがあれば、これを見せてください。これで僕が誰か、すぐに思い出してもらえるはずです」


 俺は【収納ストレージ】から【治癒ヒール】の魔法書を取り出し、リリアに手渡す。


 リリアはうなずき、その魔法書を慎重に抱えると、螺旋階段を上っていった。

 ……なるほど。サグマ様は、ギルドの上層階にいるのか。

 リリアが席を外している間に、俺はリンにサグマとの経緯を語った。


「……そういう縁があったのか。義を重んじる者――嫌いではない」


「隊商護衛となれば、野外設営とかもある。リン、協力してくれるか?」


「何を今さら。私が行くところは、レオが行くところ。いちいち確認などせずとも、ついて行くに決まっているだろ」


 そう言って、リンは微笑んだ。


 待たされるかと思いきや、意外にもすぐ、リリアが一人の男を伴って、俺たちの前に現れた。

 男は疲労からか、やつれているようにも見える。


「レオ様、確認が取れました。そして……申し訳ありませんでした。疑ったり、隠すような真似をしてしまって」


 リリアは深く頭を下げた。


「気にしないでください。そのくらいの方がいいと思います」


 俺は軽く微笑んでそう返し、彼女から視線を男へと移す。


「お久しぶりです、サグマ様」


 懐かしそうに俺の顔を見つめていたその男――サグマが、驚きに目を見開く。


「れ、レオンだよな……? ビーゼルの街で会った、あの時の……」


「はい。ファジャスまでご同行いただいたレオンです。今は、魔法師レオとして活動しています」


 俺が軽く頭を下げると、サグマはまじまじと俺の姿を見つめた。


「お前……大きくなったな……去年までは百四十センチちょっとくらいだったはずだが……」


 どうやら俺は、相当小さな少年という印象だったらしい。

 俺が苦笑を浮かべると、サグマが続ける。


「それにしても……もう銀証魔法師だなんて……にわかには信じがたいが……」


 そりゃそうだろう。

 あのときの俺は、ただ逃げ出すことしかできなかった、力のないただの少年だったのだから。


 そんなサグマのつぶやきに反応したのは、隣にいたリリアだった。


「サグマ様。レオ様はこの街で一目置かれているのです。その証拠、お見せしましょう」


 そう言って、リリアは二階の吹き抜けから、一階の掲示板前に群がる冒険者たちに声を張り上げる。


「皆さんっ! 今回の緊急クエスト、銀証魔法師三段、虹魔法師プリズマギア・レオ様、そして銀証冒険者三段、剣姫・リン様が参加を検討中です! お二人はまだ最終確認段階ですが、同行希望者は――」


 その言葉の終わりを待つ間もなく――


「おい! 俺がやる!」

「ちょっ、おい、まだ枠は残ってんだろ!?」

「リンと一緒に過ごせるチャンスを逃してたまるか!」


 一階の受付カウンターに、怒涛の勢いで冒険者たちが殺到する。

 あれだけ渋っていた連中が、我先にと名乗りを上げていた。

 不純な動機の連中も混ざっていそうだが――まあ、俺も人のことは言えない。

 自嘲しているところに、目を丸くしたサグマが問う。


「これほどの反応があるとは……さっきまでの沈黙が嘘のようだな。レオン、聞いてもいいか? リンというのは……そちらの、フードを被った彼女か?」


「はい。彼女が僕の、唯一のパーティメンバーです」


 俺が軽く目配せすると、リンは一歩前へと進み出て、俺の隣に並ぶ。

 そして、ゆっくりとフードを取った。


「お初にお目にかかる。フローラル伯爵家三女――リンス・フローラルだ。だが今は、レオと同じく名を変え、リンとして冒険者をしている……王都に戻った際も、このことは伏せておいてほしい」


「――っ!? フローラル伯爵家……? リンスって……ギースの……?」


 どうやら、サグマはリンとギースの婚約関係を知っているらしい。

 リンはそれに対して、肩をすくめるように一言。


「……まぁ、な」


 それ以上は語らず、一歩下がって再びフードを深く被る。

 これ以上は詮索無用――その無言の圧に、サグマはそれ以上問わなかった。


「……どうなさいますか、サグマ様? もう少しお考えになりますか? それとも――」


「いや……この二人で頼む。いや、この二人しか考えられん! フローラル伯爵家の者がどれほど強いかは、我々ムスク伯爵家が一番よく分かっている!」


 力強くそう言い切ると、リリアが一礼し、手で道を示した。


「かしこまりました。では、詳しいお話はこちらにて」


 リリアに案内され、四人でクエストの詳細について話し合った。

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