第53話 銅証魔法師一級VS銀証魔法師初段
「り、リンって……四大伯爵家の人だったんだ……っ」
「カタリナ! だ、駄目よ、不敬よ! 伯爵家の方を呼び捨てにするなんて……!」
声がわずかに裏返る。これまで気軽に接してきた少女が、実は王国の中枢を担う名門だったと知り、焦る二人。
だが、そんな二人にいつもの調子で話しかける。
「……さっきの話は、忘れてくれ。レオが買った物を、ああも軽んじられて、許せなかっただけだ」
俺の手から、【誘惑】の魔法書を受け取ると、何事もなかったかのようにパラパラと頁をめくり始めた。
まるで、今しがた一人の剣士を無力化したのが軽い準備運動だったかのように。
それを見ていたフリードが魔法陣の前から腰を上げ、無様に気絶したままのゲルドへ歩み寄る。
そして、その顔の上に、手をかざした。
「【創造水】」
ぱしゃん、と。
思い切り顔面に浴びせられた冷水に、ゲルドの身体がぴくりと跳ねる。
「ぶはっ……! ぼほっ、げほっ……!」
咳き込みながら身を起こすゲルド。目を見開いた彼は、周囲の視線と、額から滴る水滴に状況を悟る。
蒼白な顔にはまだ恐怖の色が濃く残っていた。
「ゲルド、お前は休め」
「……え……」
「あとは俺に任せろ」
ゲルドは何も言わずに頷くと、重たい足取りで自分たちの荷物が置かれている場所へ向かった。
そしてその場に腰を下ろすと、寝袋にくるまり、ただ項垂れた。
一方、フリードはその背を一瞥した後、再び魔法陣の前に腰を下ろし、こちらを正面から見据える。
「今回の件は、俺たちが悪かった。見くびりすぎていた。認めよう。それに関しては、しっかりと弁償させてもらう」
まっすぐな言葉。謝罪の意志はあるようだった。
「はい。では、代金は――」
俺が応じようとした矢先、フリードがその言葉を制するように手を上げた。
「だが、俺たちにもプライドがある。このまま、何もせずに引き下がるわけにはいかない」
「……何を望まれるのですか?」
「今度は俺が戦う。そっちも一人選べ。リンス様でもいい」
その言葉に、思わず眉をひそめた。
「僕たちには何のメリットもないように思えますが? それこそ、また僕たちを見くびっているとしか思えません」
冷静に、理を突いた返し。
フリードは眉間に皺を寄せ、しばし沈黙する……が、そこへ意外な人物が口を開いた。
「レオ、やってみるのはどうだ?」
振り返れば、リンが穏やかな表情でこちらを見ていた。
「銀証魔法師と手合わせできる機会など、そう多くはないであろう? これは好機だ。学ぶことも多いかもしれぬ。もちろん、殺しはなしだがな」
そう言いながら、リンはゆっくりとフリードに視線を移す。
「それと……フリード殿。これからも、私のことはリンで頼む」
その一言に、フリードは一瞬、目を見開いた。
が、すぐに息を吐き、小さく頷いた。
……さて、俺も腹を決めねばならない。
たしかに、俺が負けても実害はないかもしれない。
だが、リンの前で、負けるのだけは嫌だ。
だからこそ、やるからには、勝つための準備が必要だった。
「……分かりました。僕がやります。ただし、明日でいいですか? しっかりと準備をしたいので。ただ、僕が勝った場合はそれなりの褒美をください。無理なことを言うつもりはありませんので」
「分かった。では、明日。それまでは――休戦というわけだな」
フリードが静かに踵を返したその瞬間、壁面の魔法陣が音もなく霧散する。
直後、二体の魔物――ポイズンフロッグとファイアフロッグが姿を現した。
リンがポイズンフロッグを一閃。
フリードが【氷撃】を連射し、ものの数秒で、魔法陣が再び灯る。
俺たちはそのまま就寝の準備に取り掛かった。
幸いテントの骨組みは無事だったため、裂かれたテントの生地を応急処置で張り直し、次は夕食の支度へ。
【収納】から野菜スープの鍋を取り出し、市場で買ってきた食料を皆でつつく。
「ふぅ……あったまるな」
「やっぱり、野外で食べるってだけで美味しさが五割増しだよね」
「みんなで食べるからもっと美味しく感じるしね」
自然と笑みがこぼれる。
女子たちは、さっきまでの緊張が嘘のように柔らかい表情でスープをすする。
この一時だけは、どんな家柄もランクも強さも関係ない。
ただ、旅の仲間たちのぬくもりだけがそこにあった。
女性陣が満足げに食事を終え、談笑の時間が過ぎていくと、今度は俺の番だ。
皆が自然と俺の周囲に集まり、リンやカタリナ、ミザリーが何かを期待する眼差しを見せる。
そのとき、背後からひときわ鋭い視線が刺さる。
フリードだ。
だが、気にするほどのことでもない。別にやましいことをするわけじゃない。
「……じゃあ、行くぞ?」
皆の顔を一人ずつ見渡すと、彼女たちはそっと身体を寄せてくる。その距離は、まるで一体化するかのような密着。
「**【拘束】**」
「**【洗濯】**」
四人をぎゅっと束ねた【拘束】からの、【洗濯】。
女性たちはどこか恍惚とした表情を浮かべる。一方、フリードはと言えば……明らかに動揺していた。
声までは聞こえない。だが、口元の動きがハッキリと読める。
「――第四位階魔法、だと……!?」
その驚愕の表情を確かめたあと、テントに潜り、明日へ備えた。
翌朝――
皆がまだ眠りについている中、俺はひとり魔法書を開いていた。
昨日、フリードに対戦を今日にしてもらった理由――それは、どうしてもこの魔法を覚えておきたかったからだ。
そしてついに、魔法書から文字と魔法陣が消え、魔力が俺の体内に流れてくる。
「よしっ! 【水弾】、習得できた!」
そのまま、【ストック】し、戦いのために魔力を温存。
この数カ月で数多くの魔法を習得し、魔力値も『63』にまで成長したはずだ。
【洗濯】以外の魔法はすでにすべて【ストック】済み。
万一に備え、テントや物資もすべて【収納】へ収めてある。
――そして、予定の時刻が来た。
フリードが杖を手に、ボス部屋の中央へ進み出る。
銀証魔法師としての実力を隠すことなく、その身からはオーラが漂っていた。
俺もまた、一礼して、彼の正面へと歩み出る。
背後には、壁にもたれて見守るリン。その隣に、カタリナとミザリー。
三人とも、言葉もなくこちらを見つめていた。
「手加減はしない。それが、この機会をくれた君への礼だ」
「はい。こちらも、全力で挑みます」
その言葉に、フリードはふっと口元を緩めた。
一歩、また一歩と後退し、間合いを取る。
俺も意図があって、ゆっくりと壁際まで下がった――その瞬間、リンの声がボス部屋に響き渡る。
「いざ、尋常に――始め!」
参考までに現在のレオン
●レオン
十二歳 男性 平民 銅証魔法師一級
身長150cm 体重45kg
魔力『63』
ギフト【ストック】
特位階魔法
・【収納】『0.1』
生活魔法:消費魔力『1』
・【着火】
・【加熱】
・【乾燥】
・【水創造】
・【風掃】
・【光明】
・【時報】
基礎魔法:消費魔力『5』
・【剛力】
・【加速】
・【頑強】
・【浄化】
第一位階魔法:消費魔力『10』
・【火撃】
・【氷撃】
・【石撃】
・【風撃】
・【雷撃】
・【治癒】
・【光矢】
・【閃光】
・【闇霧】
・【拘束】
・【鈍化】
・【開錠】
第二位階魔法:消費魔力『20』
・【火弾】
・【水弾】
・【氷結】
・【毒矢】
第三位階魔法:消費魔力『40』
・【火爆】
・【水纏衣】
・【石纏衣】
・【風纏衣】
・【魔力増強】
第四位階魔法:消費魔力『80』
・【洗濯】




