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第29話 迷宮へGO!

「長剣よし、俺の荷物もよし、リンの分も確認。寝袋、テント、食料も十分――よし、完璧!」


 出発を目前に控えた早朝。俺は【収納ストレージ】の中身をすべて取り出し、リンと並んで最終チェック。忘れ物がないか、細かくチェックする。

 すると、隣に立つリンがふと視線を寄越してきた。


「で、残りの容量はどれくらいある?」


「んー、俺の荷物が五キロ、リンが十キロ。食料十キロに、テントや寝袋、細かい道具が十キロってとこかな。あと十五キロくらいは余裕あるよ」


「なるほどな……この魔法、本当に優秀だな。隊商であれば、引っ張りだこだろう」


 リンの言う通りだ。

 【収納ストレージ】があれば、サグマの隊商でも役に立てる――恩返しができるかもしれない。



 そんなことを思いながらも、 すべての準備を終え、俺たちは宿を後にする。

 目指すのは、南の迷宮。


「まさか、迷宮核回収のクエストとはなぁ……」


 迷宮へ向かう道中、特に話題もなかったので、軽く話を振ってみる。


「まぁ、仕方ないだろう。迷宮がひとつ現れただけで、ギルドがこんなに大変なことになるとは……私も初耳だったからな」


 今回のクエストは、グレスト男爵から冒険者たちへの直々の依頼。

 目的は迷宮核の回収。

 そして、その報酬は――なんと、大金貨一枚。破格もいいところだ。


 迷宮の最深部に埋め込まれた迷宮核を引き抜くと、同時に壁面の魔法陣から魔力が失われるという。つまり、魔法を習得するチャンスも失われるということ。

 さらに、迷宮核を外に持ち出せば、迷宮そのものが崩壊を始めるという。


 この性質のせいで、グレスト男爵やギルド側も管理に相当な労力を強いられる。

 迷宮の入口には常時誰かを配置しなければならないのだ。その理由は明白。


 もしボスを倒して核を持ち出した者が先に地上へ戻ってしまえば、後続の冒険者たちは中に取り残され、生き埋めになりかねない。

 だからこそ、入場者の人数、滞在時間、構成パーティなど、細かく記録しておく必要がある。


 迷宮都市バックスのような都市では、入場制限や管理体制がしっかり整っているらしい。

 だが、バーバラでは、周辺の開拓すらまだ途中だ。

 迷宮まで手が回らないのも無理はない。

 だからこそ、グレスト男爵は迷宮を資源として利用せず、潰すという判断を下したのだろう。


「まぁ、そこまで気を落とすな。魔物の魔石を納品すれば金になるし、魔法師としてのランクアップにも繋がる。出遅れたからって、嘆く必要はない」


「まぁね。それに、実戦経験も積めるし」


 そう答えながら、俺は長剣を抜き放つ。

 歩きながら軽く素振り。風を斬る音が、リズムよく耳に届く。


 最近は、暇さえあれば剣を握るようにしている。

 それでもまだ、意識しなければ正しい姿勢も太刀筋も保てない。

 いや、むしろ意識したところで――


「腕が上がりすぎ。脇が甘い。足の運びももう一歩、詰めが甘いな」


 案の定、すかさず横から飛んでくるリンの指導。

 ……まったく、隣の女騎士様は、妥協という言葉を知らないらしい。


 数日前、迷宮へ向かうまでは、ちらほらと魔物と遭遇したものだが――

 今日はまるで気配すら感じられない。


 おそらく、先行して入った冒険者たちが狩り尽くしたのだろう。

 結局、一体の魔物とも遭遇せず、そのまま迷宮の前に到着した。


 そして、そこに立っていたのは――思いがけない人物だった。


 ベンダ。

 数日前、ギルドで冒険者と言い争いをしていた、あの銅証の魔法師だ。


 関わるだけ時間のムダだ。

 俺はそ知らぬ顔で、軽く頭を下げ、通り過ぎようとする……が――


「おい、名前を教えろ……って、その外套……」


 そう言って、声をかけてきたかと思えば――

 ベンダの視線がリンに向かい、まるで値踏みするように、頭のてっぺんからつま先まで舐めるように視線を這わせる。


「確か、リンだったか……? 特別に、俺が一緒に潜ってやってもいいぞ? そんなガキよりも俺の方がよっぽど満足させてやれるぜ?」


 下品な笑みを浮かべながら、頼んでもないことを口に出すベンダ。

 だが、リンは一度たりとも視線を向けず、口すら利かずに、そのまま迷宮の中へ足を向ける。


「おい! てめぇ! こっちはギルドの臨時職員として訊ねているんだぞ!?」


 その声に、つい足を止めて問い返す。


「……どういう意味ですか?」


「あぁん? 中に入る人数を、俺が数えてやってんだよ」


 なるほどな。

 ギルド職員が足りなくて、こいつに臨時で依頼を出したってわけか。


 場所も場所だ。

 バーバラからほど遠いここにギルド職員を留めておくとなれば、冒険者を雇う必要がある。

 であれば、ベンダのような者を雇った方がいいとギルド側が踏んだのだろう。


 ったく……よりにもよってベンダのような奴を雇うなんて。

 そんな感情が顔に出たのか、俺の前に立ちふさがる。


「……は? てめぇ、なんだその態度は!」


 ベンダが眉を吊り上げ、目をぎらつかせる。


「もし気に障ったのなら、謝ります。でも、こちらは揉め事をしに来たわけじゃないんで」


「おい! お前、レオンだったか!?」


「いえ、レオです」


「レオか……しっかり名前と顔を覚えたからな!」


 ベンダは大声を上げ、唾を飛ばしながら威嚇してくる。

 これ以上関わっても時間のムダだと判断し、するりとベンダの脇を通り抜け、リンのあとを追う。

 背中に突き刺さるような視線が、ねっとりと纏わりついてくるのを感じながら。



「魔法師って……ああいうのが多いのか?」


 思わず愚痴をこぼすと、隣を歩くリンがふっと表情を和らげた。


「レオ、あの程度で腹を立てていてはこの先思いやられるぞ? あれでも、まだ性格はいい方だと思え」


 淡々と、だが皮肉たっぷりに言い切る。


「選ばれし者とでも思い込んでいる連中は、自分以外を駒としか見ておらぬ。中には、命すら軽んじる者もいる」


 その口ぶりに、過去の何かを感じた気がした。

 あれで、性格がいい方だと……?

 振り返ると、入り口からまだ俺たちを睨みつけているベンダの姿があった。

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