13-07 解決編、嘘の許されない茨の食堂
「うっっ! な、何とも個性的な味ですね……ん、くぅ……。ははは、これが東方の味ですか……ぅ、ぅぅぅ……っ」
食堂に次男ヴェラール、長女アルデレーテ、その婿デルマリウスを集めました。
特製の茶を一口飲むなりヴェラールがあまりの不味さに辟易して、やせ我慢と悪意を込めてそれを一気飲みします。
そうすれば他の二人もこの超不味い不意打ちを受けることだろうと、そんなふうに考えたのでしょう。
「うぶっっ!!」
「っっ、なっなんですのぉぉこれぇ……っっ!!」
「まず……いや、確かに個性的な味だ、うぇっ……水はないのか水は……くぁぁ……」
しかしいかに不味かろうと俺は大公の名代です。
ええ、ちゃっかりで申し訳ないのですが、大公から下賜された特別なお茶――ということにさせてもらいました。
実際はここの紅茶に薬を混ぜただけなんですが。よくもまぁ無理して飲みますねぇ~。
「どうでしたか皆さん、おやおや口に合わなかったでしょうか?」
「そんなことは……ない、ですわ……。ただ風味はともかく慣れない味でしたので……。ぅぅ……」
「大公閣下と同じ味わいを共感できて光栄だと……次期当主ヴェラールが言っていたとお伝え下さい」
あ、早速効いてきたようです。
次男ヴェラールはささやかな本音を漏らしていました。
「何を言ってるのヴェラール、確かに第二継承者は貴方ですけどまだ決まったわけではないでしょう」
「そうだ、軽率な発言は止めてもらおう」
すごい速効性です。
なんて危険な薬なんでしょう、使い方を間違えればこれこそ戦争の起爆剤になるじゃないですか。
封印ですねこれも。
「兄様……」
その茶を入れたのはアクアトゥスさんです。
不味い不味いとの感想に彼女は不満げでしたが、このヴェラールの変化に今だと忠言してくれました。
最初に飲んだのが彼ですから、すぐに残りの二人にも効いてくるでしょう。
「では誰が次の世継ぎなのですか」
まず彼らの矛先をこちらではなく別の相手に狂わせます。
「ふふふ……ヴェラールじゃないことは確かね。口では言えないわ、夫のデルマリウスだなんて」
「ああ、この私が次の世継ぎだ。ヴェラールになど当主の座は渡さんよ」
俺の質問に夫妻が本音を口にしていました。
けれどもそれは心の内で無意識に発していたもので、発言した本人は気づいていません。
「ほぅ……だが継承権はこのヴェラールが上だ。事件の裏で糸引いていた姉さんたちなんかに、せっかく転がり込んできたこの座を渡すはずがありませんよ」
「は、貴方こそ何を言ってるのヴェラール? 私たちが糸を引いただなんてそんな、貴方だって共犯でしょ。口裏を合わせて長男デルムッドを陥れた。酷い弟ねぇ~」
彼らの判断力は薬により鈍っています。
なのでその瞳が俺たちを見ることもありませんでした。
夫妻と次男はにらみ合い、部外者がいるというのにバカバカしい自爆を続けていきました。
「俺はお前たちの提案に乗っただけだ。あのままじゃ父は俺たちから鉱山を奪い、横流し先の調査に入っていたからな。だが当主の座を渡す気など最初からない、折を見てお前たちに罪をなすり付けるつもりだったよ」
ほうほうヴェラールさん、それ興味深いですね。
アクアトゥスさんにそっと目配せして、用意しておいた手帳にメモしてもらいます。
おかしいですねぇ……。
鉱物の横流しをしていたのは、長男デルムッドということになっていました。
じゃあ長男の罪って潔白そのものじゃないですか。
「それはこちらも同じことだ。だからお前を追い落として、俺たち夫婦が鉱山利権を独占する。それだけの利益と物資があれば我ら教団の野望が近づくからだ」
「そうよ! 偽りの女神の時代を終わらせるの! 利権漬けの教会だなんてクソ食らえだわっ!」
教団、野望? なに言ってんの?
教会がちょっと迷惑な存在なのは知ってますけど、この人たちって一体……。
変なカルトにハマってるのかなぁ、まぁここはどうでもいいや。
「はいストップ。で、結局誰が当主フォンを殺したの?」
話が変な方向に流れかけてるので、こちらが一番聞きたい質問を投げかけます。
彼らは視野すらせばまっているのか、横にいる俺たちの姿が見えていないようでした。
「こいつらだ!」
「私たちが殺したわ。だってあんな頑固者、親なんかじゃないもの」
「古い秩序に縛られる愚かな男を、正面より書斎を訪れ刺し殺してやっただけだ。氷の刃を使ったからね、もう証拠はどこにもない、哀れな義父と義兄さんだ」
あらあっさり犯人確定、しかも良心のかけらもないサイコパス夫妻でした。
「まあ哀れなのはデルムッドだけではないがね。ヴェラールは漁夫の利を狙っていたが、我々は領境に傭兵団の伏兵を用意している。しかもガーロゥ大佐も実はこちら側でね……。最初から我々の勝利が確定していたのさ、ハハハハ!!」
「バカなヴェラールだこと、キャハハハッ!!」
再度アクアトゥスさんに目を向けます。
表情をうっすら嫌悪に染めながら、淡々と事実を記録してくれています。
「兄様……長男の所在も聞きませんと……」
「ああそうだったね、忘れて逃げ帰るところだったよ」
「ご冗談を兄様……」
アクアトゥスさんが近寄って耳打ちをしてきたので、こちらも同じように返しました。
いや冗談っていうか、ど忘れってあるもんです、良かった。
「ところで、長男デルムッドはどこに軟禁したんだい」
言葉を両者のにらみ合いに投げ込みます。
どちらも知っているようで、たちどころに趣味の悪い笑みが浮かびました。
「裏山の谷底に決まっているだろう、あそこの小屋なら誰にも見つからない」
次男ヴェラールが漏らしてくれました。
そんなところに隠されたら、もう情報無しで発見とか不可能じゃないですか。
「軟禁じゃなくて監禁が正しいがな。どちらにしろこのまま行けば義兄さんの罪も確定する。そうすれば正式に処刑できるというわけだ」
「父譲りの頑固な子ですもの、ちっとも私たちの話を理解してくれませんでしたわ。ええ、ですから処刑もやむなしですの」
それなら連れて帰ればボーナスとか貰えそうです。
本人は残りたがるでしょうけど、こちらからすれば貴重な証人ですし、残れば戦いに発展するだけでしょう。
「その小屋にはどうやれば行けるの?」
「山道が一本だけあるのだよ、そこを進んで行けば崖に行き当たる。東側にうかい路となる傾斜があるので、ロープをかけて下るだけだ」
親切でわかりやすい説明ありがとう。
……さて、こんなものかな。
他に聞くようなこともないと思います。
動機もハッキリしましたし、長男と一緒にこの調査結果を公都に持ち帰れば証拠が立ちます。
あとはこの悪人らに公国と貴族諸侯が圧力をかければ、戦わずして陰謀劇が終息するのです。
大義も勝利も無い戦いに参加するほど、民草や軍人もバカではないですから。
「アクアトゥスさんから何かある? 俺はもう十分だと思うんだけど」
「特には。いえ、ならば一つだけ私に質問させて下さい」
「お、何か気づいた?」
彼女にベストポジションを譲ります。
それからアクアトゥスさんが静かな声で言いました。
「アレクサント様の妹君ですが、はい……皆様はその妹君の胸の大きさをどう思いましたか?」
「……はい?」
どうって……うん、立派になったねアクアトゥスさん。
ぷるんぷるんのばい~んばい~ん。だとは思いますけど……あ、これ。
「巨乳だ。あの若さであの大きさは反則だな」
と、ヴェラール氏。
「ああ、巨乳だ。ついついその丘陵に目が行ってしまう。確かに反則だな」
「思わず嫉妬する大きさですわ……悔しい、あんな小娘に負けてるだなんて……」
なんかちょっと意気投合する黒幕デルマリウス氏。
嫉妬するその妻。
そんで満足げににやけちゃう我が妹君さんでしたとさ。いや何やってんのアクアトゥスさん?
「以上です兄様、面白いオモチャを返却いたします」
「ああうん……」
いつかは効果半減するんだろうけど、そん時が怖いなぁ……また作らされるんだろうか……。
しかも今のサイズで満足出来なくなって、さらなるインフレが起きたりしてね。
……。自分で言っておいて妙な真実味があって怖いな。
「じゃ皆さん、最後の質問です。いいですか、よく聴いて下さいね。お茶不味かったですよね。そうなると、無性に水を飲みたくなりませんか?」
悪人どもはそろって最後の質問にうなづきます。
アクアトゥスさんが睡眠薬入りの水を手配すると、迷わずそれをあおってただちにテーブルにぶっ倒れるのでした。
・
そっから先はスピード勝負でした。
ゼフ老に事情を話して、アクアトゥスさんに食堂の内側にバインドを仕掛けてもらいました。
その入り口にはゼフ老に立ってもらい、彼ら謀反人が目覚めるまで番を頼んだわけです。
急ぎ谷底より長男デルムッドを救出し、傾斜をはい上がって屋敷に戻った後はすぐに馬車へと搭乗しました。
そうして御者と護衛を急かして急かして、アダルブレヒト子爵領ノースランドを全速力で脱走したのでした。
領を抜けてしまえば追っ手も届きません。
翌日公都に到着するとデルムッド氏をロドニーさんに引き渡し、ようやくこのスリリングなお仕事に終止符が打たれました。
ミッションコンプリートです。
「よくやってくれたアレックスくん、まさかこうも鮮やかにまとめてくれるとは……助かったよ本当に。特に彼の救出は大きい、議会を説得するだけの生き証人だよ」
「ああ、あらためてお礼を言わせて欲しい。このデルムッド・アダルブレヒト、領民に代わって恩人アレクサント殿に感謝する。どんな奇策を使ったのかまるでわからないが、しかしおかげで平和が保たれることになった。ありがとう、この恩は絶対に忘れない」
でなわけで、【調査官アレクサントの事件簿 アダルブレヒト家当主殺害事件】――完!
お疲れ様でした、もうこんな依頼二度と受けないです。
地域を丸ごと支配する大貴族とか、そんなものが存在する世界で探偵ごっこだなんて無理でした!
せめてオプションで旅のご老公くらい付けて下さいよロドニーさん。
余の顔を見忘れたかっ?! カッッ!! ハハァァ~~ッッ!!
「なるほど良い考えだ、ぜひ伝えておこう」
いや冗談ですって。
こんな場所に大公様がいるはずがない、者共であえーっ! って予定調和だしソレ。




