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13-06 もうめんどくさいので推理止めます、あのノリなかったことにして下さい(挿絵あり

 客室の窓から広い庭園を見下ろしました。

 とにかくだだっ広いです。

 それが細部までざっくりと管理されて、あちこちに彫像やら生け垣やら花畑やら池やら……。

 ほんとこれ二桁クラスの庭師がいたところでおかしくありません。


「兄様、考えはまとまりましたか?」

「んー? あー。もうちょっと」


 そうでした、推理ごっこしにきてたんでした。

 でもなんか思ってたのと違うなと、優美な庭園をもうちょっと見物してからアクアトゥスさん側に振り返りました。


 彼女はイスに腰掛けて行儀良くその背筋を伸ばしています。

 なんでしょう、場所柄のせいかいつもよりお嬢様っぽいです。


「じゃあまず状況を整理するよ」

「はい、お願いします兄様」


 窓の逆光を背負ってるせいか、アクアトゥスさんはちょっとまぶしそうでした。

 けど逆光は勝利なので移動はしません、ただでさえ彼女はお兄さんを凝視し過ぎなお人ですしむしろバランスが取れて良いです。


 いやふざけてないで真面目にいこうか。

 一歩間違えれば彼女を窮地に追いつめかねない、それだけは許せない。


「……うん、全ての焦点が長男デルムッド氏に集中しているんだ。誰もが彼を犯人だと決めつけている。だがその誰一人として長男の軟禁先について口を閉ざしている」


 使用人らには箝口令(かんこうれい)がしかれているのだろう。

 それもあのメイドの怯え方やゼフ老の警告からすると、かなり重いものだ。


「なぜ口を閉ざしているのかと言えば、使用人らに限れば箝口令が下りていると解釈するのが妥当だ。しゃべれば死罪とか、そのくらい重いものだろうね」

「……そうかもしれません。あの怯えようからすれば納得です兄様」


 つくづく領主による治外法権ってやつはたちが悪い。

 これがある限り、実際のところ何をどうしようと手も足も出ないのが現実だ。


「ですが兄様。そうなるとあのメイドのジルバ、ゼフ老は犯人とは言いにくくなりませんか?」

「そうだね、それはおそらくあの大佐も同じ。あの通りの人だけどフォン氏が死ねば本来責任が問われる立場だ、失脚が決まっていようともそこまでバカじゃない」


 何か理由があっての衝動的犯行に出るにも、何も施錠された書斎を舞台にする理由はない。

 となれば当主フォン氏殺害には明確な動機があったのだ。


「これは完全なお家騒動だよ。そして犯人は親族の中の誰かだ。親族一同が結託してでも、俺たち調査官を長男には会わせたくない理由があるんだ」

「はい、ではなぜそう思われるのですか」


 彼女なりに推測なりあるだろう。

 だがこうして聞き手にてっしてくれる。

 そのひかえめさが好ましい、危険な目に遭わせたくない。

 魔物より人間の方が怖いということだ。


「どう考えても幽閉して口封じするだなんてやり過ぎだし、そんなの自分らが疑われるだけじゃないか」

「そうですね、長男デルムッド氏の嫌疑が相応なら、何も軟禁して外部に疑われる選択をするわけがありません」


「そういうことだよ。大貴族の外っつらを犠牲にしてでも、彼らはどうしても長男を閉じ込めなくてはならなかった。つまり今回の事件、その鍵は長男にある」


 そこまでまとめて俺はカーテンを締めにかかった。

 室内が一気に薄暗くなり、アクアトゥスさんも察してくれたようだ。

 率先してイスより立ち上がって廊下に誰もいないか確認をしてくれた。


「まだ昼なのに兄様ってば積極的です……。こんな人様の屋敷で行為におよぶだなんて……ああ、そんな兄様……まだ明る過ぎます……っっ」

「はいはい、それじゃ内緒話しようか」


「喜んでっ!」


 俺たちは出来るだけ声が漏れないようにと、テーブルの端にイスを寄せ合って着席した。

 ずいぶん彼女の顔が近くなったが、今はふざけてる場合じゃない。

 そのことはアクアトゥスさんだってわかっていた。はず?


「じゃいきなりで申し訳ないけど、推理止めた」

「え、止めちゃうんですか兄様?」


 魔女の顔が意外だと瞳を大きく広げた。

 それからちょっと子供っぽく首を傾げて、妹さんはお兄さんの続きの言葉を待ってくれていた。


「だってうさんくさ過ぎるよ。誰も彼も嘘を吐いてるみたいじゃないか。仮に推理で追い詰めたところで、また治外法権を持ち出されるに決まってる。こんなの推理ゲームになってないよ」

「はい、確かにそうですね。調査結果を持って一度公都に戻ることになると思います」


 ロドニーさんは言っていた。

 明確な証拠がなければ介入できないと。

 しかし果たしてこの状況で証拠をつかむことが出来るかどうか。


 ……困難だ、どう考えても面倒だ、現実的とは思えない。

 そうこうしてるうちに彼らは相続権を奪い合って戦争を始める。


「それじゃ遅過ぎるしつまらない。だから推理とか調査なんて面倒なことは止めることにしよう」

「……ならばどうされるのですか、兄様」


 なら手段とか選んでいられない。

 しょうがないからアレを使うことにしよう。



 ・



「大丈夫、こんなこともあろうかと裏技持参してきたから」


 そういって俺はある小瓶を取り出して、テーブルの上にそっと置きました。


「兄様……これは何のお薬でしょうか」

「うん、嘘が吐けなくなる特別な薬。……もうめんどくさいしこれ使おう」


 すると――アクアトゥスさんが何とも言えない顔で俺を見ます。

 お兄さんのツッコミどころが多すぎて困ってるんでしょうか、そんな感じに言葉を選びかねてるようです。


「あの……兄様」

「なにアクアトゥスさん?」


「言いたいことは山ほど浮かぶのですが、あえて一言だけ良いでしょうか」

「え、なに?」


 でもまとまったみたいです。

 笑いも怒りもあきれもしない真顔で彼女は言いました。


「最初からそれを出せば良かったのではないですか」

「あ、それ言っちゃう?」


「はい、これまで遊び感覚だったんですね」

「いやいやいや、そうじゃない、それは違う。半分くらいだけど」


 もしかしたら推理探偵になれると思い上がってました。

 ところがどっこい、この事件って推理じゃ解決出来ないし奥の手出すしかないじゃない。


「なら兄様とアトゥの言葉を繋げて、遊び半分だったということにいたしましょう」

「それ意味同じじゃん」


「そうですね、それくらい兄様にあきれているということです」


 あ、やっぱりそうだったらしいです。

 でもこっちにだって言い訳はあるんですよ。一応?


「でもね、これね、ウルカから聞いてると思うけど例の図書館に眠ってた錬金術日記を参考にして作ったんだけど……」

「あああれですか兄様、それならこの前ウルカからいただきました。何でも司書と個人的に親しくなれたので、個人的に譲り受けたそうですよ」


 ……ちょっと待て。ちょっと待てアクアトゥスさん。

 今度は俺の方からツッコミたい、なんでそんな当たり前のようにチミの手元に渡ってるし……。

 個人的って……どんな手使ったんだよあの女……。


「なにそれずるい、今度行くから見せて」

「はい兄様、お布団きれいに干して待ってます」


 アクアトゥスさんに相談しながら閲覧出来るわけで、ここは利便性が上がったと前向きに受け止めましょう。

 お互いツッコミどころいっぱいですけど、それじゃ話が進みません。


「……で、話戻すけど自白剤。これ、材料特殊な上に調合成功率低くてさ、また作れる気がしないしこれ一本きり」

「はい、それでケチケチもったいぶってたんですね」


「そいうこと。ただもう一つこの薬、問題があってね。ものすごく不味いんだ。混ぜれば一発でバレる」


 無色透明無臭なので一服盛るところまでは順調に行きます。

 ところが味が破壊的にエグくて苦くて辛くて、不快なツバが口いっぱいに広がるほどの身体に入れちゃいけない系の余計な自己主張があります。


「なら、バレても良い状況に追い込まれてはどうでしょうか」

「それがいい。ただでさえ個性的な味だから、一度使えばその相手に二度目はないよ」


「アトゥはそんなもの飲みたくありません……せいぜい兄様の入ったお風呂の湯までです……」

「はいはい、そういう冗談止めようね。そんな……うん、冗談だって信じてるから俺。ね?」


 さっと考えました。

 いえアクアトゥスさんの奇怪な発言ではなく、この自白剤を使ってどう展開させるかを。

 こういうのって開き直られたらおしまいなんですよね。

 だから使う状況が大切です。何を聞くのか、聞いた後どうするのかも。


「……ねえアクアトゥスさん」

「はい、何でしょうか兄様」


「この前の睡眠薬、持ち歩いてたりする?」


 仮に自白によって真相が見えたとしましょう。

 でもそれを知った俺たちを真犯人は逃がしてくれるでしょうか。


「はい。でもみっちり勉強してスリープの魔法も完全習得しました。しかしマジシャンの兄様を寝かせるなら、魔法ではなく薬の方が確実なので肌身離さず持ち歩いておりますよ♪」

「ああそう、賢いね。じゃあその薬も使わせてもらおう」


「兄様にですか? そうですね、洗いざらい自白された方が、毒とか腹の黒い部分が抜けて良いかもしれません」

「こらこら人をそんな毒持ちみたいに言わないの」


 真相にたどり着いたらただちに撤収しましょう。

 俺の仕事は調査、情報を持って公都に戻ればミッション達成です。


「よしゼフ老を呼ぼう。それで人を集めてもらって、俺たちは彼らに珍しいお茶をごちそうする」

「珍しい茶……いいですね、それなら不味くともそういうものかと飲み干すことでしょう」


「ふっふっふっ、そうして嘘を吐けなくなった連中は……ボロボロと面白い話を喋りだしてくれるわけだよ」


 それで聞くだけ聞き終わったら逃げちゃおう。


「……。ウルカが言っていました、兄様は悪魔だと。……あらためてあの子の言葉に納得です」

「だって早く帰りたいし、そうと決まったら急ごうよ」


「そうですね、兄様と一緒の逃避行というのも悪くありません。それでは……」


 チリンチリンと鈴を鳴らしてアクアトゥスさんが使用人を呼んでくれた。

 現れたのは都合良くもあのゼフ老。

 茶を振るまいたいので人を集めてくれと願うと、彼は疑いもせず厨房を貸してくれるのでした。


 さあ、これより強引な解決編となります。


挿絵(By みてみん)

今さら全主要キャラSDイラスト

ドロポン脅威のミニサイズ

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