12-03 3/3 白き来訪者(挿絵あり
「そこに釜と杖があるであろう。コイツらを釜へとぶち込み、いつものように錬金するだけだ。……安心しろ、ホムンクルスは溶けぬ……望んで溶かそうとしない限りな」
「へぇ~~そうなんだ。へぇぇぇ~~……。って、あっわかった、おたくもしかして同業者さんです?」
これは今日までの停滞を吹き飛ばすだけの、本当にありがたいことこの上ねーアドバイスです。
ありがとうグリムニールさん、今すぐその身体を抱き上げて高い高いをしてあげたいです!
「…………さてな。錬金術の素養を持つ者は希少にして貴重。そういった意味では同じ錬金術師と呼ぶことは出来ような。……ぬぁっ、いきなり頭を撫でるなっ!」
気づいたら手が出てました。
これがまたお嬢に勝るとも劣らないサラサラヘアでございます。
「あ、ダメ? 感謝の気持ちを込めたんだけど?」
「……。だがあえて我らは別物と言おう」
お嬢との差異があるとすればその気性です。
俺の手を振り払って、何事もなかったようにシリアスモードに戻られるのでした。
「我が白なら貴様は黒。我欲のために術をもちいる、それが貴様だ」
「……うん、それは否定出来ないな。何が悲しくて人様に奉仕しなきゃいけないんだ、ごめんこうむるよ」
他の錬金術師の世界を俺は知らない。
だから俺を黒と呼ぶならきっとそうなんでしょう。
でも今さら彼女ら白に合わせる気なんてありません。
「正直者め。だが好ましく思うぞ、がんじがらめの白もつまらぬゆえな。さて、となればこれは我からの餞別だ。さあ受け取れ」
幼女エルフのちっちゃい手がローブの中をゴソゴソ探って、俺の手のひらを引っ張り何かを握らせてきました。
見るとそれは紫の光沢を持つ澄んだ水色の結晶で、鉄で出来ているのかと疑わせるほどに重さがありました。
「こりゃ……なんですこれ?」
「飛竜の創造か……まったく黒の貴様らしい貪欲で危険な発想だな。邪竜が生まれたらどうするつもりだった?」
「うん、その時はその時。しょうがないし戦って倒そうかと」
「……倒せると思い上がっていたのだな?」
「まあ一度は倒しましたしいけるかと思ったんですよ」
その返答にグリムニールさんが邪険な態度をしました。
眉をしかめて、子供とは思えぬ厳しい目で俺を睨みます。
でも残念それご褒美ですから、むしろもっとしてグリムニールさん、エルフ最高。
「それこそ思い上がりだ、だからお前は黒なのだ。そうやって後先考えずに欲望と思い付きに従い、とんでもないものばかりを生み出す」
お説教です。しかしどんなに鋭い顔されてもちっとも怖くありません。
ああ、無料でこんなロリババァのお説教を受けられていいんでしょうか。
しいて言うならもっともっと、とんでもないものをいっぱい作りたいです。
「例えばその杖だ。お前は制御出来ているが、未熟な魔導師が使えばどうなる?」
「うん、魔力暴走して大爆発するかもね」
「そうだ。それを生み出した己を、お前は黒と白どっち側だと思う?」
「黒。まぎれもなく真っ黒。タールみたいにこり固まって、薄めようが伸ばそうが洗おうがどうあがいても黒の純粋ブラック。……でも反省はしない、黒と呼ぶなら俺は黒で結構だ」
ああ、悪っぽくてカッコイイですね俺。
ルールを守って人様に貢献して頼られて縛られて身動き取れなくなりしたいことも出来なくなるよりも、断然黒です黒っきゃないです。
俺の返答に彼女は怖い表情をしてまた睨んでくれました。
「覚えておけ、いつかそのおごりが身を滅ぼす。……だから注意して生きろ、その杖も一歩間違えれば死を招くぞ」
「……にゃ~?」
いやいや、よりにもよってここで口を挟まないで下さいよ幽霊猫さん。
グリムニールさんも、突然のかわいい鳴き声にキョロキョロされちゃってるじゃないですか。
期待したのに猫の姿はなく、しょうがないので代わりにドロポンとレウラを撫で撫でして楽しまれるのでした。
「すみません、何か憑かれてるみたいでして。あー、そういえば元の家主が、幽霊がなんとかかんとか……あー、全然関係ないですね」
なに口走ってるんでしょう俺。
グリムニールさんは幽霊などまゆつばだと、信じようともせず真顔でこちらを見つめてきました。
あ、何か言いたげです。
「その石は進化の秘石。ホムンクルスの成長に極めて有用だ。だが黒の貴様に製法は教えてやらん」
「――!!」
そしたらさっきくれた石の説明をしてくれました。
なにそれ最高じゃないですか。
まるで狙ったかのように、俺の欲しいものをグリムニールさんが用意してきてくれたんじゃないか、ってくらい。
「嬉しいか?」
「嬉しいです。嬉し過ぎてグリムニールさんを全力で高い高いした後に踊り回ってお姫様抱っこで近場の酒場に連れてって一番美味い菓子と肉とジュースをおごりたいくらい!」
感謝を述べるとグリムニールさんの童顔が喜びに微笑みます。
やっぱりこれ、最初から寄贈するために持参してくれたんじゃないでしょうか。
軽量な素材とはとても言えませんし、こんなもの持ち歩いても意味があるとも思えません。
「そ、そうか……っ、ならばほれっ、正直者のお前にはもう一つだけやろうっ!」
「やったーっ!」
そりゃもう嬉しそうに、孫に飴をやる感覚でグリムニールさんは進化の秘石を追加してくれちゃったのでした。
「よいか? 錬金釜と秘石でその幼体を強化合成した後に、ソイツを冒険者家業に連れ回せ。また魔物を灰に変えず死肉にする特殊な術がある。それをもちいて食わせるか、あるいは魔物素材そのものを与えることで幼体はさらなる高みへと進化してゆくであろう」
なんて親切なんでしょう。
なるほどそういうことだったんですね。
どうりでどんだけ食わせても成長どころか脱皮すらしないと思ってました。
「ありがとう、それは今俺が一番知りたかった話だ。いつまでも腐ってないで自分でもっと調べれば良かったよ、ありがとうグリムニールさん」
「う……いや……ぁぅ……少し……喋り過ぎたようだな……」
感謝の気持ちを込めて、高い高いは警戒されてるのでその両手を握りました。
グリムニールさんは驚き困った様子で目をそらし、我に帰ったのか俺を振りほどきます。
「次に会う時までに立派な飛竜を見せてみろ。我は白であるが黒の所行に興味があるゆえな」
「ええ、約束しましょう。その時はグリムニールさんを乗せて公都の空をご覧に入れましょう」
「うむ、約束したぞ。胸躍る話だ、楽しみにしておる。ではまたなアレクサンドロス」
最後に人の名前を間違えて、不思議な幼児エルフはアトリエを立ち去っていきました。
ああ、また会えるといいなぁ……エルフ、エルフ最高……! しかも超ロリババァ!
「ぎゃぶぁぁーっ?!」
……いえ、そのままならカッコ良く決まってたのに、扉の目の前で無惨に転倒されていました。
「あっ大丈夫ー? 痛くないよー泣かないでー?」
「だ、誰じゃこんなところにつまづくような段差を作ったヤツはっ!!」
「大工っスね」
「知っとるわ馬鹿者っ! そんなベタベタな返しも要らんっ、馬鹿者っ馬鹿者っ、まったくっっ!」
でもおかしいですね。
よく見ればそこに段差なんてありませんでした。
ああ、なるほどこれがドジっ子エルフってやつなんですね。
扉に思いきし鼻を打ってめちゃくちゃ痛そうです。
半泣きになった幼女は、もうお家帰るとかそんな勢いで一目散に逃げていかれるのでした。




