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12-02 西方商人は何より優先して珍品を求めている

「仕方あるまい……。店主アレクサントよ、これは内密で頼むぞ」

「ええお約束しましょう。ぜひお聞かせ願いたい」


 やりました、何だか面白そうな話が聞けそうです。

 身をカウンターに乗り出すアルゴルド氏に、俺も出来る限り誠実に微笑みます。

 ……お嬢とかダリル辺りには、うさんくさい笑顔とか言われるんですけどコレ。


「海の向こう側とこちらでは、当然だが根本的な文化も産出物も異なる。だからこそ貿易が成り立つのだ」


 そうですね。自前で全て調達出来るのなら、そもそも海越えて貿易する必要がないです。


「しかしその貿易を支配するのは大抵の場合、その国の王や、発展した貿易港と流通網を持つ大貴族となる」

「ああ、つまり有力者の喜ぶ珍しい何か(・・・・・)。これを提供すればそれだけ取引が上手くいくというわけですか」


「そういうことだ。ならば店主よ、何かふさわしいものを出してきてくれ」


 なら分かりやすいです。

 王や大貴族でも持っていないような価値ある珍品。

 コレクター仲間に自慢出来る物。あるいは家臣に下賜かしして家宝という忠誠心そのものになる物。そういったものが欲しいと彼は言うのです。


 ……無茶ぶりですロドニーさん。


「まあ……よくわからない失敗作なら山ほどありますが……ダメ元で見てみますか?」

「頼んだ。珍しければ何だって良い、何でも良いから見せてくれ」


「そう言われると返って悩んでしまうのですが……まあ、ではしばらくお待ち下さいませ」


 少しホムンクルスたちが心配でしたが、奪われたら奪い返しましょう。

 裏の倉庫――という名のガラクタ置き場からいくつかの品を選んで、もう一度カウンターに戻りました。


「来たか」

「では一つ目を。コレはごく最近カーネリアン商会の代表、アストラコンさんの依頼で発生した副産物……いえ失敗作です」


 それを見せるなりアルゴルドさんの目が大きく広がります。

 それは驚きか、小さな恐怖か、あまりの得体の知れなさに彼は難しい顔してその無機物にまなこを近付けます。


「これは……なんということだ……」

「このドロポンの兄弟が欲しいと奇特なことをおっしゃってきたので、まあそちらの方は無事に成功し納品出来たのですが……はい。これは、うごめく土とでも呼びましょうか。知能らしい知能はなく、なので生きているかどうかもわかりません。ですがひとりでにこうやってうごめくのです。ですから捨てるに捨てられず手元に残しておりました」


 説明を進めてゆくとアルゴルドさんの顔が次第に喜びへと変わっていきます。

 まあ確かに……自慢に使うならこれほど都合の良いものもないでしょう。

 勝手気ままに動く謎の土。そんなの不気味過ぎます。


「素晴らしい、買ったぞ店主!」

「ありがとうございます。ではこちらが次の品です」


 全部で3つ見繕ってきました。

 次の珍品を取り出してカウンターに置きます。それもまた妙な――とある宝石でした。


「アンバーとサファイアを錬金術で一つに混合しようとしたものです。実験として試みたのは良いが、かたや片方が生物由来、もう片方は鉱物。上手く一つには混ざらず、残念ながらサファイアの中にアンバーが内封される結果になってしまいました。まだまだ私も未熟ということです」


 青いサファイアの中に黄金色のアンバー。

 大きさは混ぜることで親指一つ分にかさ増しされていました。

 見てくれは綺麗ですが、これも通常規格から外れるので売ろうにも面倒が付きまといます。


「それも買った! サファイアもアンバーも本物……うむ、これは喜ぶぞ、確実に良い商談を呼び込んでくれるものだ!」


 ずいぶんと興奮されています。

 確かにそう言われるとすごい品に見えてきます。


 でも作った本人からすると、これはどこまでも失敗作で作り物なのです。

 ありがた味とかレアっぽさなんてどこ探したって無いです。


「ではこれが最後の品です」


 3つ目は真っ青な薬液が入った小瓶です。

 通常のポーションより一回り大きな瓶で、成分そのものも極端に濃いのが特徴です。


「これはなんだ」

「これも失敗作の一つです。以前、より飛躍的な回復力を持ったポーションを製造しようと試みたのですが……。当初の予定とは異なる物が出来上がっていました」


 興味津々とアルゴルドさんは瓶を手に取り、そのふたに手をかけました。


「うっうおぉっ……! な、なんだこれはぁぁっ!?」


 すると開封されるなりポーションは沸騰し、湿った薄く青い煙が店内に充満します。


「大丈夫です。実はそれ、瓶に入っているうちはいいのですが、そのふたを開けるとものの10数秒ですべて気化してしまいます」

「な、なんと……おお、もう空になっているではないか」


 霧は次第に薄れ、後には空の瓶だけが残りました。

 まだこの気化ポーションはいくらか在庫があるので、これも狙った上のパフォーマンスです。わざと封をゆるくしておきました。


「つまりポーションの効果を持った煙が周囲に散布されるのです。コストに対しての効果がイマイチでして、魔物まで回復させることにもなるので戦場での用途は良くありません。失敗です」

「素晴らしい……これは諦めず改良すれば実践での使い道があると思うぞ。買った、全て買った、締めていくらだね!?」


 確かにそうかもしれません。

 でも便利であればあるほど、教会がエーテルを買い占めると言い出してきた時のように角が立ちます。

 それって今の状況で売り出すにはあまり賢くないやり方かもしれません。


「どれもそこそこの原価がかかっています。アンバー内封サファイアは売り手のつてならないこともないです。なので……そうですね、気化ポーションが5000z、うごめく泥が8000z、内封サファイアがおまけして12000z、しめて25000zでどうでしょうか」


 高めにふっかけてみました。

 だってずいぶん気に入ってるようですし、このくらいなら二つ返事で買ってくれるラインでしょう。


「安いな……」


 え、安かった? 嘘?

 いやでも失敗作ですしこれ。


「いえいえ、どれもガラクタですから。この値段で買っていただけるだけでもありがたいですよ」

「そうか。ならば3倍の75000z出そう」


 ……さ、さんばい?

 あれ、あれれ、3倍? 3倍って金銭感覚さすがにおかしくね?!


「いやいやいやいや困ります! そんなあくどい価格で売ったら、俺が従業員に叱られるし、俺も寝覚め悪いしダメですってば!」


 それにこんな美味しい顧客、これっきりで逃したくないです。

 処分に困るガラクタを大金で引き取ってくれるだなんて、アルゴルドさんってなんて良い人なんでしょうか。お友達になりたいです。


「考えてみろ。海の向こうの王は、最高級の絨毯、拳より大きな宝石、美男美女から金と同じ価値のある珍味まで、何だって持っている。しかしこの見事珍妙奇怪な品々は、彼らのコレクションに一つとして無い。しかも物は小ぶり運搬もしやすいとくる。ならばこのくらいの額など出して当然、安く買ったとあれば俺の首が飛ぶわ」


 理屈はわかりました。

 わけわからん世界ですけど筋は通ってます。

 この品々があれば、きっと王たちとの取引も上手くいくことでしょう。


「わかりましたじゃあ100000zでお売りします」

「そうこなくてはなっ、よし買ったぞ!!」


 でも釈然としません。

 4倍にふっかけ直したら取引成立しちゃってました。

 権力者とか金持ちって……趣味悪くね……。絶対投資先を間違えてるよ……。


「後で返品したいと言われても返せませんよ。儲けなんて気づけば研究費に消えますし」

「おお、それはむしろ大歓迎だ。また失敗して妙な逸品が仕上がったら連絡をくれ。ザルツランド大使館に、アルゴルドと商談がしたいと言えば予定が立ち次第おもむこう。今後ともよろしく頼むぞ店主、いや希代の錬金術師アレクサントよ!」


 どう返答したものやら、渋い顔するしかありませんでした。

 この困惑を顔から隠し切ることが出来ません。やっぱり意味がわかりませんから……。

 アストラコンさんもそうですけど、世のお偉方というのは本当に変な物が好き過ぎます。


 そんなに金と暇が余ってるんでしょうか。

 それとこの100000zをお嬢に見せたら、一体どんな反応をするんでしょう。

 怒られるのか、誉められるのか、あきれられるのか……さすがの俺もまるで予想が付かない。


 つまりアレです。

 金持ちって……わけわからん……。

 なんでこれが10万zになるんだろう……わからん、もうわからん……常識の範囲を越えている……。


「あー……ちなみにですが……」

「うん? なんだ店主」


「このドロポンとレウラ。売ったら合わせておいくらくらいになりますかね……?」


 別のケースで金持ちの常識と尺度を把握してみよう。

 いえ別に、金に目がくらんだわけじゃありませんよ?


「うむ、仮に買うのならば1匹50万zは下るまい。しかしだ、家族は売ってはならんぞ、家族は。ここは断固として俺から拒否するゆえ、この子らは大切にするといい。……ではな」


 そう言って彼は品物をカバンにしまい込み、金貨できっちり10万zを支払って立ち去っていきました。


「…………え、50万……?」


 え、嘘……やばい聞かなきゃ良かった……。

 こいつら50万……子供の客引きとか、俺を毎晩押しつぶすだけの変な生き物が合わせて100万……?


 莫大な研究費の塊! アインスさんが25人分は余裕で買えちゃうビックリお値段!

 こいつら……こいつらすげーーーっ?!!


「ど、どうされましたかドロポン様……っ?!」


 じっくりそいつらを見ていたら、ドロポンさんがしきりに俺へと何かを督促されました。

 鉢の端っこに移動して、俺の顔とカウンターの奥を交互に見つめています。

 ドロポンの目線の先にあるもの、それは……。


「はっ、このドーナツが欲しいと……?! しかし、いやしかし妙な物を与えるとまたお嬢に怒られ……ご、50万z……」


 50万zが俺にこう言います。

 ドーナツちょうだい、ちょうだい……? プルプル……。


「ははぁーっ! どうぞお食べ下さいっ、さあ満足するまでいくらでもっ!」


 てなわけで、残りのドーナツは全てドロポンの謎に無尽蔵な腹へと消えていったのでした。


ご指摘を受けて、オパールをアンバーに置き換えて修正しました。

オパール、トパーズ、アンバーが頻繁にゴッチャに……。


+再度指摘を受けて修正しました。

 オパール……まだそこにいたのか……。

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ダブルフェイスの転生賢者
― 新着の感想 ―
[良い点] 鑑定眼が確かです!! [気になる点] 売っちゃダメよ!? ダメだからね? [一言] (後書きに)オパールは忍び寄るのです…(/ー ̄;)
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