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11-03 復活の飛竜

「今夜辺り、始めると、思っていました。ドロポンも、興味があるようで、鉢を、抜け出そうと、して、ました」

「ああそうなるほどそういうこと。バレてたわけね……」


「はい」


 調合素材と一緒に鉢をテーブルに置いて、アインスさんがトコトコとマイペースな足取りで隣にやって来ました。

 ……まあいいですか。

 アインスさんなら静かですし、俺を止めようとは考えないでしょう。


 それと話はずれますが、ドロポンもだんだん知能が成長してきました。

 身体は全然大きくならないのに、まあ……巨大化されても困るからそこはいいんですが。


「なにを、作るのですか」

「うん、ワイバーン」


 よし味方に引き込もう。

 てなわけで素直に答えちゃいました。


「俺のための飛竜を作るんだ」


 アインスさんもここの人間なので、それが竜の名であることはわかっているはずです。

 でも俺の期待通り、それはもう淡泊で無表情な反応でした。うん、それがアインスさんの良いところですから。


「そうしてその翼で、今の活動域をもっともっと広げてしまおうと思ってね」


 しかしなんか、母親にヒーローキャラの説明を始める幼児みたいな気分になりました。

 いやすごいんですよこれ、わかってますアインスさん?


「……。広げて、どうするの、ですか。どうして、飛びたいの、ですか」

「え……。あー……それは……うーん……」


 その問いかけに即答出来ませんでした。

 思考が引っかかり、しょうがないので笑ってごまかして調合に入ってしまいます。


 まず聖銀砂を投入して混ぜます。

 溶けたらそこに爬虫類の肉を投入、さらに混ぜてゆくと当然ながら肉色水溶液になっていきました。


「ご主人様の、錬金術は……。どれだけ見ても、飽きません」


 普段のアインスさんは店番、俺は調合作業です。

 そうなるとアインスさんにはあまり調合これをじっくり見るチャンスがありません。

 見るのが本当に好きなようなので、うん、ちょうど良い機会だったと前向きにとらえましょう。


「今夜はゆっくり最後まで見るといいよ。きっと素晴らしいものが生まれるよ」

「楽しみ、です……」


 あとはリザードマン素材もそろそろ入れておこう。

 爪に牙、気味悪い頭骨。よし、やっとこれで処分出来ました、やったー。

 すると釜の中の色合いが深緑色に変わっていきます。

 なんか爬虫類っぽいカラーで良い感じな気がしないでもないです。


「アインスさんそれ取って。……あれ、アインスさん?」


 目当ての素材は隣のアインスさん側にありました。

 彼女に振り返り頼みごとをすると、俺は普段のアインスさんとは思えない光景を目撃してしまいました。

 あえて見なかったことにして……でもそういうわけにはいかないかなぁと視線をまた戻します。


「ご主人様……。私を……私を、置いて、行かないで。置いて、行かないで、下さい」


 感傷よりも先に疑問が浮かびました。

 ……なぜこのタイミングでいきなり言い出すのでしょう。


「もっとお世話、がんばりますから……。お仕事、楽しいです、から、置いて、行かないで……置いてかないで、ご主人様」


 月光の彩る世界でアインスさんは涙していました。

 飛竜で俺が遠くに行ってしまうと思ったんでしょうか。


 ……わかりません。

 あるいは彼女の失われた何かに触れたのか、ともかくそこにいるアインスさんは驚くほど感傷的な存在でした。

 これはしょうがない、慰めておかないと後でお嬢に怒られそうです。


「何言ってるんだ、どこにも行かないよ。アインスさんがいないとそもそも店が成り立たない、だから感謝してるよ。……そりゃ遠征することもあるだろうけど、必ずこのアトリエに戻って来る」


 ガラじゃないんですけど、今は深夜ですしアインスさんと俺だけです。

 だから出来るだけ誠実な態度を選び、照れくさいけど慰めに涙を拭いました。


「ほんとう、ですか」

「本当。だってこの店と公都での生活気に入ってるし」


「……ほんとう、ですか、わたしは、お邪魔じゃ、ないですか?」


 やっぱり普段のアインスさんじゃありません。

 いつもなら、そうですか、の一言で終わりです。

 でもこう聞く限りじゃ、変な部分を気にしてたみたいです。邪魔なわけがないのに。


「なんでそうなる。ああじゃあ本当の、本当のことを言おう。これは絶対に秘密、いいね……?」

「秘密……。わかりました、約束、します。ご主人様との、秘密、守ります」


 ただ、こっちにばかりかまけてもいられないです。

 少し待ってと手のひらをかかげ、生命の秘薬を釜に投入しました。

 深緑色が強い輝きと光の粒子を放ち、室内を幻想的に照らし出します。


 おお素晴らしい、あれだけのセクハラを乗り越えた価値があるというものです。

 その次はトレントの色琥珀。

 それを入れると粒子の粒が大きくなり、さながらたんぽぽの綿毛となってフワフワと浮遊します。


「…………」


 アインスさんはそれに見とれて、ぼんやりと天井を見上げていました。

 胸がドーンっと大きくなった影響もあるのか、なんだか大人っぽく見えます。


「本当のことを言おう。俺は竜を作って友達に会いに行く」

「友達、ですか?」


「ああ、友達だ。それが何ともバカな男でね。ソイツは夢を捨てて国に帰ってしまったんだ。だから連れ戻すんだよ、楽しい冒険の国ポロン公国にね」


 貴族科のアルフレッド。

 まだ一年も経っていないが懐かしい響きになってしまっていた。

 今思えば、彼は冒険者になりたかったのだ。

 しかし家柄と地位、遠い故郷がそれを許さなかった。


「口うるさいやつだけど、そしたらそれはそれで楽しくなる。そう決まっている。ヤツが戻れば面白い、ただそれだけだが完璧な計画だ」

「それは、女性、ですか?」


 え、そこ?

 アルフレッドが女……。うわ、うざっ。


「いや男、あんな女いたら全力で無視するし俺」

「そうですか。なら皆様も、歓迎、されるでしょう。ご主人様は、同性の友人が、少ないです」


「いやあの、なんか引っかかる響きよね~それー?」

 違いますよアインスさん、俺はただみんなで楽しく面白くいきたいだけであって……って墓穴掘りそうだから反論は止めとこう……。


「よし、じゃあ仕上げといこう。我らの竜の復活と創造、すなわち野望の幕開けだよ、ククク……」


 黒飛竜の玉を握り、それを錬金釜にポトンと高い位置から落としました。


「ぁ……」


 すると美しい輝きはどす黒く沈み、光に慣れていた俺たちの目に暗闇を呼び込む。

 激しく沸騰する釜、その釜より生まれる地響きめいた振動。いいや胎動と呼ぶべきかもしれない。


 なるほどこれは大物が生まれそうだ。

 制御をミスって暴走爆発オチだけは避けないといけない。


 集中力を振り絞って釜をかき回し、混ぜて混ぜて混ぜ続ける。

 荒ぶる力に振り回されそうになるが、でも大丈夫なんとか抑え込めそうだ。

 そうして杖を回し続けていくと……。


「ご主人様、釜が……」

「うお、なにこれなんぞ……っ」


 黒い液体が途端に色を失いました。

 色彩無しの透明となった水溶液がキラキラと輝きだしています。


「なんか成功っぽい手応えだよ、これはいける」

「まぶしい、です……」


 白き輝きは奔流へと変わり、釜から生じる暴風がアトリエを内側から揺らした。

 ある境を越えるとその嵐は最高潮となり、木窓を一つ吹き飛ばす。


 ところがそこまで行くと光と風が途端に収まってしまった。

 そうして暴風の果てに釜底に現れたのは、そう、一匹の……。


「なんだこれ……え、なに、なんなの、ツ……ツチノコ? え、これ羽根生えてなくね? え、えっ? あ、あれ……あれぇぇぇ……???」

「……謎、生物、です」


 うん、どう見てもそれはツチノコ……。

 その竜型?ホムンクルスは声に反応して瞳を開き、俺の顔を見上げて鳴き声を上げた。


「ミャー」

「にゃー?」


 ……いや正体不明の猫さんや?

 このタイミングで口をはさまれても困りますって……。


「ミャーミャー」

「にゃ、にゃにゃ?」


 あああああ……。

 こうして飛竜創造の夢ははかなく砕け、我らのマスコットがもう一匹増えたのでした。

 ドロポンも何が嬉しいのやら鉢の中で踊り出す始末です。


「ミャッ」

「にゃ~♪」


 それにどうもこれは……幽霊猫とツチノコとの間で謎の意志疎通が始まってるようですね。

 うん……そう、どっからどう見てもツチノコ。

 白くて綺麗だけど、ツチノコ。


 ……………………あれぇぇ???


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