11-02 飛竜復活の夜
瞳を開くとそこは真夜中の世界でした。
あれ……どうしてこんな時間に目覚めてしまったのだろう。
そう思い浮かべたのも一瞬のことで、すぐに己がつかの間の仮眠を選んだことを思い出していました。
具体的な動機が眠気の全てを消し飛ばして、暖かな夜が俺に布団をはがせます。
さて。まずは慎重に聞き耳を立てなければなりません。
アインス、リィンベル、その二人が寝静まっていることを確かめてから、物音を立てずにベッドから身を起こしました。
アトリエ二階の窓から公都市内を眺めれば、歓楽街の明かりがずいぶん遠くに見つかるくらいで暗く静かなものです。
あるのは青い月光に夜鳥の鳴き声、近隣の酔客すらもう眠っているようです。
……問題ありません、予定通り今夜決行としましょう。
忍び足で階段を下り、台所に寄り道して瓶から水をくみました。
それをちょっとだけ氷魔法で冷却してから、ぐぐぐ~~っといっちゃいます。
「ぷは……ふぅぅぅ……。うん、やる気出てきた」
睡眠に乾いた身体に染み渡ります。
これから楽しい楽しい秘密の錬金術が始まるのだと、遅れてワクワクがこみ上がります。
そうすると俺の覚醒度はギンギンのランランに高ぶっていったのでした。もう朝まで眠れそうもありません。
用事も済んだので台所を離れて、錬金釜の前に移動しました。
その次に近くの棚より小袋を取り出して、そこから大事な俺のお宝、黒飛竜の玉を手に取りました。
割れているので杖などの通常用途では使えません。
さらにコレそのものが通常規格から外れたものらしく、流通市場も存在していません。
売ることも装備に使うことも出来ないなんて、まさに俺のために現れて、割れてくれたようなものじゃないですか。
窓の向こうを見れば今夜は満月でした。
その青ざめた月光が調合部屋を照らしてくれています。おかげで照明を灯さずとも何とかなりそうです。
神秘主義者の言葉を借りれば、月すらもこれから始まる儀式を歓迎してくれている。といったところでしょう。
さあ始めましょう……。
誰にも邪魔されずゆっくりと……。
ワイバーン復活という大ひんしゅく確実の暴挙にいそしむことにしましょう。
「ククク……もはや俺を止められるものは誰もいない……。竜の創造……復活……おお、実に厨二で胸躍るイベントじゃないか……っ」
材料をまず選別します。
ええと……まずベースが……。
・黒飛竜の玉(割れ)
・出来映えの良い中和剤
・井戸水
で、あとあるのは……。
・生命の秘薬
これは豊胸剤にも育毛剤にもなるスーパーな増強薬です。
こいつを混ぜるだけで成果物にさらなるクオリティが約束されるでしょう。たぶん。
・聖銀砂
ホムンクルス製造に不可欠です。
恥を堪えてがんばったので在庫はたっぷりあります。
……しばらくは薄手の布なんて触れたくも見たくもありません。
・爬虫類の生肉
クレイゴーレムで言うところの泥です。
肉体を組成するのに必要です。
ギルドから直接仕入れたし鮮度そのものは高いはず。
・魔物素材(もろもろ
・エルダートレントの色琥珀
あとは迷宮で拾った魔物素材です。
レアなものからノーマルなものまでいろいろです。
あまり価値のなさそうなものは、増強剤や中和剤の材料に使ってしまっています。
今手元にある中では、このトレントの色琥珀が最もレアでしょう。これは投入確定です。
それと魔物素材の中にはリザードマン系のものもちらほらあります。
この辺りは今回の用途に合っていそうです、手元にまとめておきましょう。
……うん。
ざっくりですがインスピレーションが固まりました。
さあ始めましょう。
釜に中和剤を入れて、それを井戸水で薄めて、さあさあ楽しい秘密の調合の始まりです。
「ふっふっふっ~♪」
そこに杖を入れてさっと混ぜます。
真夜中に響くこの水音、ちゃぷちゃぷと夜の静寂を破り、なんか洗濯機のすすぎ音を連想させます。
……あ、情緒あんまりなかったですねこれ、忘れて下さい。
ってあれ、今なんか物音がしたような……。
「…………」
まさかとは思い後ろを振り向きました。
「――うわビックリしたぁっ!!」
そしたらそこにパジャマ姿のアインスさんがいるじゃないですか。
アインスさんって独特の立ち振舞してるので、夜なんかに遭遇すると心臓に悪いです。
なんか人形っぽいぎこちなさというか、気配の無さと無表情の合わせ技というか、気づいたらそこに立ってたりするんです……もち無言で。
「って、ドロポン……?」
しかもなんか抱えてると思ったらドロポンも一緒でした。
小さな小さなクレイゴーレムが鉢の上でもぞもぞうごめいてます。
ああけど、けどホントビックリした……。
心臓まだバクバク暴れてます……はぁぁ……ビックリした……ビックリしたぁぁ……。




