10-07 乳をかけた死闘、暗黒樹エルダートレント
インフレもインフレの6層目です。
もれなく道中の雑魚も超強敵だったはずなのですが、おかしいです。
邪なる士気の異常向上が、怒濤の勢いで俺たちをボス部屋一歩手前まで運んでいました。
この大扉を押し開けば、大部屋が広がりくだんのエルダートレントとの決戦が待ちかまえているはずです。
余談ですが魔物素材の方も通常迷宮では手に入らない上物がちらほら。
数はそんなに多くないですがいやなかなかの大漁で、心の底じゃ笑いが止まりません。
でもそれはあくまでおまけ。生命の林檎を手に入れなくては話が締まらないつまらないというものです。
「覚悟はいいね、行くよ」
「はい兄様、全ては野望のために……」
「むしろ早く開けなさいよっ、どんな相手だろうとあたしたちがやっつけてやるんだからっ!」
「ああこの無鉄砲さ……も~若いわぁ~♪」
満場一致となりました。
大扉に手をかけて、さあ決戦の地へとおもむくことにしましょう!
「――っ?!!」
前衛の俺が一歩を踏み込むなり、目の前の地面からトレントの根が槍となって飛んできました。
こんな奇襲をされてはかわせるものじゃないですけど、それでも俺は攻撃をのけぞり避けようとします。
あと一歩でわき腹がえぐれられようとするその瞬間、マナ先生がかけてくれていたプロテクションⅡが発動してくれていました。
「兄様っ!!」
「アレクッ!!」
防御壁が軌道をそらしてくれて、俺は地を転げ回りながらも立ち上がりボス部屋の中を駆けました。
「大丈夫、全員散開、固まればまとめて串刺しにされるぞ!」
「う、うんっわかった!」
まさかいきなり出鼻をくじいてくれるとは、やってくれたものです。
死にかけたのもあってもう頭に来ました。
ならこっちだって本気でやり返してやろうじゃないか。
「これがエルダートレント……予想以上に大きいです……」
「うふふっ、そうそうこれこれ、さすがの先生もちょ~っと苦労したわ~♪」
巨木は動きを止めてこちらを観察していた。
そいつは高さ6mを越える大きな老木で、人面の洞から闇の光を放つ怖ろしい怪物だ。
その木々の支脈からは琥珀の木の実がぶら下がり、ほのかな燐光をまとい薄暗い大部屋を照らしている。
樹木の腕からは蒼炎を放つカンテラを吊るし、もう片腕には獣骨で削られた大槍を握っているようだった。
これがとにかくでかい。
となれば地中に張られた根もそれ相応に無数ということになる。
どっちかというとヤバい、いやちょっと待て、これ頭皮とおっぱいのために戦う相手じゃないな。
「ちなみにこれ~、B-クラスだから気をつけてね~みんな~」
「胸のためなら乗り越えられる壁よっ! 行くよアレクっ!」
「兄様、以下同文ですのでどうぞよしなに……」
軽く言うよなコイツら。
B-クラスってもう強いとか強くないとかじゃなくて、有無を言わせぬ脅威だよ。
封印区画のボスなんだから当たり前と言えば当たり前のヤバさだけど。
「殲滅の光、ホーリーライトッ。……ほら効きにくいでしょ~」
あれだけ猛威を奮った殲滅光も、説明通りエルダートレントにはかんばしくない効き目だった。
ジュッと樹木の表面が焼かれ敵がおののくが、それはあくまでひるんだだけでまともなダメージにはなっていない。
わかりやすく言うと、光に弱い植物ってなんじゃらほいってことだ。
「木には炎っ、いくわよアクアトゥスさんっ!」
「セオリー通りで恐縮ですが……全ては悲願の為です……」
そこにお嬢とアクアトゥスさんのファイアボルトが連続照射された。
なにせ生木なので簡単には燃え上がらない。
しかし確実に効いている。焦げた部分に炎が宿り、徐々に植物の怪物はくすぶり燃えだしていた。
「う~んやっぱり♪ この子は炎が極端に効くみたい。二人ともそのまま撃ちまくっちゃえっ」
そうとなれば先生も熟練の冒険者、切り替えが早い。
敵は彼女が一番危険だと読んだのか根の槍をいくつも突き込んでくる。
おおエルダー・トレントよ、しかしそれは無駄だ。その人を狙うのは間違っている。
こんな非常識な攻撃力をしているが、彼女は列記としたヒーラー、パーティを守護する支援職様だ。
いくら根を撃ち込んでも聖女は踊るようにそれをかわし、同時に易々と詠唱まで果たしていた。
物理防御力超強化《プロテクションⅡ》、魔法耐性向上、敏捷性向上が俺たちに飛躍的な能力の恩恵を与えてくれる。
「おっとっ」
いける、そう思った矢先にトレントの標的が俺に変わった。
まあそりゃそうなんだ。
俺はスタッフオブガイストの魔力増幅を終え、支援魔法を受けると同時にヤツめがけて一騎駆けしていたのだから。
「そこで突撃を選びますか……全く兄様ったら……どれだけアトゥのこの身体を高ぶらせるおつもりですか……ファイアボルト……」
カンテラより激痛を呼ぶ闇魔法ペインが弾幕となって飛来した。
さらには時間差で骨槍が俺という獲物を串刺しにしようと、轟速で突き込まれる。
「嘘っ、あのアレクがかわしたのっ?!」
クイックって素晴らしい術だ。
術者がマナ先生なのもあるんだろうけど、そのおかげで俺は槍と闇魔法ペインをあしらい切っていた。
仮に命中したところでレジストもプロテクションもかかっている、しばらくは耐えられるはず。
「これはいける……っ!」
俺は会心の笑みってヤツをもう浮かべていた。
さあこの瞬発力を使って超接近戦に持ち込もう。
この戦い、俺とマナ先生が囮にならなければならないのだから。
でなければ詠唱中のお嬢とアクアトゥスさんにリスクがかかり過ぎる。
「またかわした……ああ、兄様とはとても思えない……」
いやいやそんな元がのろまみたいに言わなくてもいいじゃないか。
再び痛撃魔法ペインの連弾をくぐり抜け、ついにエルダートレントと肉薄した。
やることはシンプルにして俺の嫌いな肉体労働、魔杖のチャージアタックでエルダートレントの顔面らしきその洞を狙う!
「ォ……ォォ……ォァァァ……!」
そのうろから苦悶の叫びにも似たものが吹き荒れた。
寸前でヤツはカンテラを持った方の腕で俺の打撃をガードしていたのだ。
闇の魔法障壁がそこに発生し、こちらの魔法打撃力とガリガリバキバキぶつかり合う。
ははは……まさかこんな木の化け物とつば迫り合いすることになるとは、ほんの一年前は予想だってしなかったな。
手に汗握る死闘だ。
柄じゃないけどたまらない、心の底から熱く何かが燃え上がってくる!
「そのまま押さえておいてアレクっ!」
「兄様、でかいのをドカンと差し上げますのでお気を付け下さい」
「大丈夫、レジストかけておいたから直撃してもちょっと熱いだけよ~アレッきゅん♪」
後方より断続的にファイアボルトが飛んできていたがそれが絶えた。
同時に魔力が後ろより膨れ上がり、目前のエルダートレントは今も発火による継続ダメージを受けている。
「なら先生のお力を信じよう。二人とも一発なら誤射だ、やってしまえ」
「言われなくてもっ、行くわよアレクっ!」
「兄様っ、アトゥの心もバーニングですっ! いざありったけの愛のっ、ファイアーボール!」
「――消し炭になりなさいよっ!!」
トレントはランプの魔法盾を俺に塞がれている。
二つの大型火球が見事な精度で、槍を持った方の腕と、上部支脈部分に激突、激しく炎上を始めた。
レジストも素晴らしい。
なるほど確かに熱いだけだ、あちちっ、ちょっ、メッチャ燃えてるじゃないかコイツ?!!
まあいい、よしいい感じだ、追い打ちと行こう!
エルダートレントがひるんだ隙に魔杖をさらに深く押し込む。
すると相手もここは正念場と負けられないところだ、槍の方もつば迫り合いに参加させて、逆にこちらを押し返してきた。
「アレク後ろっ!」
何が何でも俺を振りほどきたいみたいだ。
俺の背中を狙って、根の槍が奇襲となって二方向から襲来した。
つまり挟み撃ち、これはちょっと避けれない。まずい。
「ここでお姉ちゃんの登場~、カキ~ン♪」
「うわ、緊張感のない乱入来たしコレ……」
そこにすっかり手の空いていたマナ先生が踊り込んで来た。
セプターより鉄壁の魔法盾を展開させて、いとも易々と頼もしく俺の背中を守って下さいます。
「はい、ついでに筋力増強術、これでアレッきゅんってば筋肉モリモリ~わぉ~ぐへへぇ♪」
「よ、よかったアレク……ってアレ?」
「兄様……?」
そりゃ先生の筋力強化魔法ですから、パンイチの兄様のお身体がえらいことになってもしょうがない。
だがその効果たるはてきめん、圧倒的! 力と魔力の限り劣勢のつば迫り合いを押し返す。
「ォ、ゥォ、ォ……ッ」
するとヤツの闇魔法盾にひびが入った。
立て続けに再びファイアボールがトレント上部に着弾、もはや消しようのないほどにエルダートレントが燃え上がる!
連鎖的に魔法盾がついに崩壊消失、ヤツの両手を弾き返して絶好の好機が到来した。
「悪いが消えてもらう。あまり興味は無いが、ひとえにハゲと無乳を救う為に」
「無乳は、言い過ぎよアレッきゅん♪」
俺は勢いのままカンテラの腕をスィングで一撃粉砕した。
トレントの洞より呪いの苦悶がすさぶ。
それから渾身の魔力をチャージして、ついでに炎も杖にエンチャントしてやった。
後は簡単だ、ヤツは己の本体を守ろうと槍を戻してガードした。
それを、ただ力と闘志のままに槍ごと幹を叩き潰す!!
「あっ、やった!」
「兄様ってば……いつだって美味しいところを持っていかれますね……」
老木は砕け、潰れ、深々と炎の杖がめり込み、驚異の迷宮ボス・エルダートレントは最後の轟炎を燃え上がらせた。
ところがその結末はあっけない。
炎が崩れてゆくにも等しく、ヤツは迷宮で滅びた者の姿、灰燼へと変わり果ててゆくのだった。
・
念願の[生命の林檎]を手に入れた。
それは薄緑に輝く青い林檎だ。
嬉しいことにドロップはそれだけではない。
マナ先生によると超貴重とされるレア素材[トレントの色琥珀]も灰にうずもれていた。
「やった~やったっ、やったよアレクっ! ついにあたしたちの夢が叶うよアレクッ、やったぁぁーっ!」
「兄様……それから先生……今はお二人への感謝の気持ちでいっぱいです……ありがとう、ありがとう……っ」
豊胸剤の材料手に入れて、もう完成したつもりのお二人さん。夢いっぱいにホクホク顔です。
俺だって思わぬ追加ドロップに大満足です。
……それだけマナ先生にまた大きな貸しが出来たことにもなるのですが、そこは考えないでおきます。
あえて、精神衛生のために。
「みんなお疲れさま。先生ちょっと感動で涙ぐんじゃった……うちの生徒がこんなに成長してくれただなんて……先生……先生……思わずアレッきゅんの淫靡な肢体を女神様に緊急転送しちゃった……っ!! おお女神よっ、たまりませんなぁーっ、クヒヒヒッ♪♪」
あ、はい、本当になによりです。
欲望も信仰心も満たされたようではい、もう服着たいしまた恥ずかしくなってきたし帰ろ帰ろっすぐ帰ろっ。
ともあれこれで材料が整いました。
もうここに用はないです。
すぐにでもアトリエに戻って楽しい錬金術を始めましょう。




