10-03 2/2 魔窟に入らずんば毛と乳を得ず
「アレッきゅんっ! どうしてお姉ちゃんの部屋を訪ねてくれないの~っ!」
そんで顔を合わせるなり一言目がそれです。
考えてみれば恐ろしい取り合わせが魔女の小屋に集まったものです……。
「お姉ちゃんの欲求不満が最高潮になったら……自分でも止められる気がしないの……っ! 気をつけてね……アトリエに雌豹が入った時はソレ、お姉ちゃんだから気をつけないと大変よ~~っ!」
自分から雌豹とか言っちゃう現役教師ってどうなんでしょ。
相変わらず粘つくような瞳で、齢17の男を上から下までガン見されるのでした。
「ああ、アトゥちゃんこれいつものだよ~♪」
「ありがとうございます先生……。マナ先生の文才に……毎度ながらよだれの止まらぬ夜を過ごしております……。一人のファンとして……今後とも……応援させていただきます……」
魔女は何か薄い紙束を受け取りました。
すぐにそそくさとチラ見だけして、大事そうに棚へとしまい込みます。
「こちらこそ、今回も中身のチェックお願いねっ、……はぁはぁ♪」
「お任せ下さい……。はぁはぁ……♪」
俺、ここに居ちゃいけない気がする……。
うん帰ろう、この取り合わせはやっぱり危険だ、どんな化学反応起こすかわかったもんじゃない。
「では用事も済んだし帰ります。お疲れさまでした」
そそくさと玄関目指して歩を進めます。
「あれあれ帰ってもいいの~?」
「はい帰ります」
「でも~、アレッきゅんってばもう聖銀砂を使い切ったって聞いたけど、本当にいいのかなぁウフフ……♪」
……そうです。
それがないとホムンクルスは作れません。
今回の薬作りとは別件ですけど、ワイバーン蘇らせて空飛びたいんでした。
でも……でもなーんかこの二人の間で、知ってはいけない世界が広がってる気がするんですよね……。
俺が羊ならすなわちこの二人は狼、被捕食者と捕食者の関係だと断言いたしましょう。
「欲しいです」
「もうアレッきゅんってば正直なんだからぁ~♪ 先生キミのその現金なところが好きよ~♪」
それはそれとして聖銀砂は絶対欲しいです。
早くワイバーン復活させて楽しくやりたいですから。
そうなると遅かれ早かれマナ先生を頼らなければいけません。
「ところで先生……こちらの挿し絵をご覧下さい……」
そこにアクアトゥスさんが割って入って、あの本の内容を先生に紹介しました。
「ある薬を……作ろうと思っているのですが……先生は……生命の林檎……これをが手に入る場所をご存じ……ですか……?」
「ああこれね、もちろん知ってるよー。封印区画の奥に、植物系のボスがいるの~。だいぶ前にそれをしとめたらぁ~、ドロップしちゃった~♪」
ああそうでした、この先生って規格外にアホお強いんでした。
ならこの程度のレア素材、手にした経験があってもおかしくもなんともありません。
しかもあの封印区画ともなれば、銀砂も手に入って一石二鳥ってやつじゃないですか。
「ふふふ……なら話は早いね、これを使ってみてアレッきゅん……♪」
「え、なに、なんですかこれ……?」
先生から変なものを手渡されました。
まさかこれもとんでもないレアアイテムだったり……?
なにかの布らしいのですが、よくわからないのでそれを両手で広げてみました。
生地は薄くツルツルとしていて小さく……ていうかずいぶんと低面積で……あ。ああああああああ……。
「兄様……もしやそれは……」
「どうしたのアレッきゅん?」
これ……これ……これ……っ!
「これパンツじゃないですかーっっ?!!」
「ううんっパンツじゃないのっ、水着なのっ♪ ただちょ~~っとだけブーメランで~~♪ 中身が無理なく収まりやすいよう起伏のある加工がされている~だぁ~けっっ♪」
パンツかと思ったら水着でした。
イヤな記憶、イヤな約束……いや約束してないけどっ!
前に聖銀砂の調達手伝ったもらったときの……一方的で理不尽な約束を思い出しました……。
「最高です先生……教師にあるまじき……エキセントリックながら優美な感性です……。これを兄様が……兄様が……っ、ああ……ああああ……っ、最高です先生……っ♪」
「や、やめてよぉ……。てか着ないですよこんなのっ!」
空気がおかしいです。
魔女と聖女は妙な結託を始め、大層なご関心で交互に水着とアレクサントくんを舐めるように凝視されました。
「兄様……先生と約束されたそうではないですか……。この水着をはいて……迷宮探索をすると……」
「こんなパンツ一丁でデンジャーな封印区画に行けと、そう申しますか妹よ……?」
「はい……それが仁義というものです……兄様……」
そんな仁義やだぁぃ……。
こちとら錬金術者じゃぃぃー、そんなストリッパーみてぇなこたぁーっ、おひかえなすってぇぇぇ……。
「話は早い方がいいです……マナ先生さえよろしければ……明日にでも探索といきましょう……。私は……今日一晩だけ眠れば……十分なMPが確保されますので……」
「そうねー、ならそうしましょっ」
俺の預かり知らぬところで、話がトントン拍子で進んでいきます。
もうストレスで病死しそうです。トントンと。トントンびょうし……病、死……いえなんでもないです。
「いやあのね? 手伝ってくれるのは嬉しいんですけどね? ……こんっっなのは履きませんよーっ?!」
「大丈夫、先生が強化魔法のプロテクションⅡかけてあげるから♪」
「あーそれ、魔導師のローブの上からじゃダメですかねー」
「だーめっ♪」
はっはっはっそうですかー、そうですよねー、やっぱダメかぁ……。
つか、ぁぁ……絶対断れない系のイベントなのなこれ……。
「あ、でも頭数はもう一人いた方がいいかな~。今回はもう少し深いところまで潜るから……誰か探しておいてねっ。実はねー、封印区画って4人まで入れるの。入り口はペア用の初級迷宮だから、入る時と出る時だけ少しめんどくさいんだけどね♪」
そんな裏技があったなんて知りませんでした。
つくづくよくわからない迷宮世界です。
しかしこうとも言えるでしょう。
このマナ先生を頼らないと生存不可能な世界に、銀砂も林檎も存在している。この事実は絶対に揺るぎません。
なら俺はこう返すべきでしょう。
「俺だけ水着は不公平だと思いませんか。なら先生たちみんなも水着で行くべきですよね、それなら考えてもいいですけど」
交換条件です。
これを提示すれば彼女らだってハードルを下げてくれるはずです。
「ああっアレッきゅんっそんなっ! そんな女神よ……なんということでしょう……。この元生徒は教師である私と……っ、水着で触れ合いたいと要求しています……っ!」
「してないっス、自分だけ恥かくのがやなだけっス」
天をあおぎ膝を突き、マナ先生はロザリオを握って祈りました。
なにやらブツブツと交信? チャネリング? 妄想? されています。
「ああ……なるほどそうですか女神よ……。少年の若い欲求……それは一つの試練……少年の暴走が矛先を間違える前に……甘んじて受け入れよということですねっ、女神よっ!」
先生、女神様は絶対そんなん言ってないと思いますー。
「わかりましたっ、女神の代わりに目を皿にしてこの脳髄に激写をしますっ! そして祈りをもって、我らが女神へと鮮烈なイメージを捧げることといたしましょう……っ!!」
わーー……なんて迷惑な狂信者もいたもんでしょうか。
即破門と同時に天罰の落雷とか落ちても全くおかしくありません。
「つまり契約成立……です、兄様……。アトゥも楽しみにしていますね……フ、フフ……クフフフッ……♪」
「もー知らんからね……もー……よりにもよってあの封印区画に全員水着装備で行くだなんて……」
恥とか置いといて冒険者の目から見ても正気じゃねぇです……。
もういいや……なるようになるでしょ……もう投げっぱなしで行きましょう。
どうせこの人たち、人の話なんて絶対聞きませんから……。




