10-01 2/2 少女リィンベルの欲望
「…………」
さてところで俺もそうですけど、さっきからお嬢の方も黙り込んでしまっていました。
これは普段のパターンではありません。
どうしてか下ばかりを向いて、それはもう静かにつつましく内気な淑女をされていました。
急にどうしたんだろう、これはやむを得ないので金髪少女エルフウォッチングを続けざるをえません。
彼女はしばらく微動だにしませんでしたが、やがて確認するように自分の胸へと手を当てだしました。
それからそれを……あ、揉んだ。つかなぜこの状況でおっぱい揉むし。
「ねえ、どうしたのお嬢」
声をかけたものの返事はありません。
なら焦ってもしょうがない、なんとなしに店の方に目を向けることにしました。
現在うららかな快晴の昼下がり。
来客もなく、店番のアインスさんがボーッと仲良しのドロポンさんを突っついて遊んでいました。
……平和です。
しばらくその光景を眺め、でも飽きたのでポットからぬるい紅茶を錫製のグラスに注ぎます。
ついでにお嬢の分も用意しましたが、いまだ物思いの世界のようです。
やっぱマジシャンって便利ですね。
手のひらを握り、氷を生成して、それをグラスに落とせばアイスティーの出来上がりです。
やっぱすごい冷蔵庫要らず。ついでに砂糖とかミルク出す魔法とかもないもんでしょうか。
もし覚えたら覚えたで、そんな気持ち悪いもの飲ませるなと怒られそうですが。
「ぁ……お茶……ありがとう……」
「いえいえどうぞどうぞ」
やっと気づいてくれました。
銀色のグラスを両手に抱え、かと思えばなんか意を決して一気飲みしちゃいました。
テーブルにグラスがタンッと叩き付けられます。
何か悩みがあるんでしょうか、こんなお嬢レア過ぎます。
「あのねアレク……っ。不老の研究はいつか絶対たどり着いてくれるって信じてるっ! でも……でも今はっ、アレクを男と信じて頼みたいことがあるのっ!!」
「ナニソレ、なにその熱いノリ、お嬢なにどうしたの?」
こんな必死なお嬢を見たことありません。
エルフ眉はつり上がり、エルフイヤーもまたピクピク興奮に揺れて、前のめりにイスから立ち上がっています。
「そりゃいつもお世話になってるし、こうやって帳簿も付けてくれて嬉しかったし、俺に出来ることなら何でもするけど……」
「ホントッッ?!!」
その瞳が広がり喜びに輝きました。
よく判りませんけどこれはよっぽど大事な頼みなのでしょう。
そうとなればこっちも態度をあらためて、真剣に受け止めるべきです。
大丈夫予算は潤沢なのです。
ここ一月の稼ぎが……えーと、帳簿によると差し引き13万。
あの隠し階層で拾った銀貨金貨が4万。
ギルドからの報酬が2万。
でも軍からの報酬はまだだからそれだけ抜いて……ざっくり端数も合わせて合計すると……。おお、だいたい20万zくらいあるんですね。
すごいです。半額アインスさんが4人分も買えてお釣りだって出ちゃいますよ。
「俺に任せてお嬢。今の資金とここ一月でスキルアップした錬金術の腕で、お嬢の望みを何でも叶えてあげるよ。さあ遠慮なく言ってくれ、なにが欲しいんだい」
こういうことに資金と技術力を使うのも悪いことじゃありません。
友人のためになるならやりがいがあります。
「アレク……ありがとう……。あのね、実は……実はあたし……ア、アレクぅぅ……」
お嬢は半泣きでさらに身を乗り出し、隠しため込んでいたものを喉から精一杯吐き出しました。
「おっぱいが大きくなる薬作ってっっ!!」
お隣に聞こえるんじゃないかってくらい、いや確実に聞こえてるであろう大声で。
俺としたことがさすがに予想外の要求、まばたきすら忘れしばらく固まってしまっていました。
「ちょっとっ、聞こえてなかったのっ?! おっぱいを大きくする薬作ってって言ったのよっ!!」
「ああはいはい、わかってます、二度も言わなくてもいいですスーパー聞こえてます、なるほどそういうことねー……」
目線をリィンベル嬢の胸に落としました。
お嬢はロリエルフなのでまあ……うん、平たいね。
起伏ってなんだっけ……?
うーん、これを大きく、かぁ……うーんうーん、これはなかなか……やりがいのある大事業です……。
「な、なんでそんな渋い顔するのよっ! ぅ……そんな真剣に見るなぁっ、せめて欲情くらいしなさいよっ、うわぁぁーんっっ!」
エルフは成長が遅いもんですから、それだけ果てしない絶望ってものがあるんでしょう。
例えばゲームの発売日だって一月先か一年先かでその焦燥と枯渇は段違いです。
「わかった俺に任せてくれお嬢……。必ずやこの……不毛の荒野に丘陵を築いてみせよう……」
「嫌……言い方がすごく嫌……っ、今だってちゃんとあることはあるもん……っ」
「うん、そうだね」
いや実際どうでしょうねお嬢、贅肉くらい男女問わず胸に付きますし。
ならそれはおっぱいではなく肉……とか言ったらしばらく口聞いてもらえなくなりそうです。エルフ最高なのでそれはダメです。
「アレク……ありがとう、ありがとうアレク……っ。アレクならきっと作れるよっ、アレクはすごいんだからっ!」
あのお嬢が俺にこんな感謝するだなんて、一体どれだけ悩んでいたんでしょう。
あ、自分で言っておいて恥ずかしくなったんでしょうか。
またモジモジとお尻を揺らして、上目づかいでこちらをのぞき見て来ます。
「それに……それに、あ、あたしの胸が大きくなったら……アレクも嬉しい、でしょ……?」
「ん? うーん……?」
お嬢は引き続きテーブルに手を付き前のめりです。
その胸元を真剣にクワッとまた凝視しました。
……小さいのも小さいのでアリなんじゃないでしょうか。
「ひぁ……っ、ちょっ、だっ、だからそんなギラギラした目で見ないでってば……っ、ぅぅ~っ、見るのはダメなのっ!!」
「じゃあどうしろと……」
「見ないでうんって答えればそれでいいじゃないっ!! あ、あたしっ、あたし顔熱い……っ、営業っ、営業行ってくるから……もうアレクのバカっっ!!」
愛用のカバンをひっつかんで、お嬢はドタバタと裏口から外へと消えて行きました。
まあなんというか、いつものパターンと言えばいつものパターンなのでホッとします。
「ってあれ、アインスさんいたの? え、どうしたの?」
「はい、ご主人様」
何かと思えば隣にアインスさんが立ってました。
普段極端に大人しい彼女ですが、いきなり俺の手を取りヒシッと握り包んできます。
「え、なに、え……?」
「期待、しています、期待、しています、期待ッ」
……とだけつぶやき、何事もなかったようにまた店へと戻ってゆくではありませんか。
「がんばるねっ?」
激励ありがとうアインスさん。
てか、みんなおっぱい気にしてるんだなぁ……そういうものなのかー。
よしっなら今度の研究はずばり女の夢っ、豊胸剤!
あんまり俺自身は気乗りしないというか、限りなく不毛な研究なんじゃないかって気がするんだけど……。
お嬢とアインスさんの頼みじゃしょうがない。
いや、いやこれ、よくよく考えてみれば悪くないかもしれないです。
採算さえ合えばこれって莫大な利益を呼び込むかもしれません。
単純です。金で乳が膨らむ。
なら金のある女性方は喜んで出すもの出すに違いありません。
そうとなれば……うん、ちょうどこれから臨時教師のお仕事が入っています。
仕事が終わり次第、我らが魔女アクアトゥスさんの小屋を訪ねることにいたしましょーう。




