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10-01 1/2 少女リィンベルの欲望

前章のあらすじ


 公国軍のロドニーより依頼が入る。

 魔物の大発生が止まらない、どうにかしてくれ。


 そこでアレクサントはアクアトゥスと共に、誰にでも使える魔法の爆弾を生み出す。

 その爆弾は連日の戦いに終止符を打ち、公国に再び平穏が訪れるのだった。


 ところが事件はそこで終わらない。

 ギルドからの要請でアレクサントは飛竜ワイバーンを追撃することになる。

 場所はアカシャの家・上級修練迷宮。外部より竜が入り込み、迷宮のルールが錬金術師を指名したのだという。


 仲間と共に迷宮を下り飛竜の姿を探す。

 やがて彼は隠し階層の奥深くにて、漆黒の大型ワイバーンと遭遇する。


 迷宮モンスターと黒飛竜、彼ら追撃隊による三つどもえの戦場。

 それを連携と魔杖で丸ごと吹き飛ばし、彼らは粉塵まみれの勝利を得るのだった。


 獲得品は秘宝スペクタクルズと、大量の銀貨金貨、魔物素材。

 そして破損した黒飛竜の玉。

 アレクサントは一つの野望を抱く。


 あの黒き飛竜をホムンクルスとして復活させてしまおうと。


―――――――――――――――――――――――――


 錬金術をもちいて人は何を追い求めるのか。

 それはたびたび考えさせられる命題でございます。

 答え無きその問いかけが無数の結論を導き出し、一つ一つの差異がご大層な理由付けの無意味さを証立てます。


 主人は何を求めて術をもちいるのか。

 彼の知人等もまた、主人と錬金術に何を求めるのか。

 叶わぬ願いか、飽く無き欲求か、誇りある正義か、分不相応な富と名誉か。


 それらは全て欲望。

 その欲望が喜びと共に時として悲劇を生み出すことも、一つの避けられぬ定めなのでございます。


 それでは皆様、いささか長い幕間劇のはじまり、はじまりにございます。


―――――――――――――――――――――――――



 ・



10-01 1/2 少女リィンベルの欲望


 それから一月の間は、これといった事件も無く平和そのものでした。

 公都経済を揺るがす魔物の大襲来、それから続く黒飛竜の踏破済み迷宮侵入というイレギュラーな空き巣騒動。

 そんな大事件が起きれば、それ以降の物事などそよ風よりも爽やかなものです。


 だから俺こと一介の錬金術師もMPの限り調合を続け、MPの限り冒険ついでに採集をして、たまのたまに臨時教師を請け負う平穏な日々ってやつを過ごしていました。

 お嬢の手腕で営業利益はまた倍増、ポーションや傷薬以外の雑貨類、嗜好品などなども好調に売れてくれています。


 金払いの良い貴婦人方とのコネも出来たとか、それはもう自慢げに鼻息鳴らしていました。


 いやぁ……お嬢ってば根っからの商人様です。

 うちのアトリエなんかにはもったいない手腕ですが、まあ長命な種族ですし効率と将来ばかりを追い求めるものでもないのでしょう。


 叔父のアストラコンさんに至っては好事家で、うちのドロポン中心にもろもろを気に入って下さり、姪の様子をのぞき個人的な買い物をして下さいます。


 うん、それで……えーと。

 その他に近況報告があるとすればなんだろう……。

 本当に平和だったもので、なかなか思い浮かばな――あ、そうでした。


 この前ギルドに行ったら、冒険者ランクがEからDランクに上がったと祝福されました。

 ちなみにアシュリーのやつはちゃっかりD+ってやつになっていたようです。

 ギルドに登録して約半年、異例の大出世らしいですけどよくわからんです。


 少しだけマナ先生ら恩師たちに追いついたってことでしょうか。

 ま、ランクなんて飾りですよ。そう言えるようになりたいものです。



 ・



 それでふと気づいたら今日の調合作業がひと段落していました。

 引き続きぼんやりと考えことしながら、立ち疲れたしテーブルに腰掛けます。


 するとお嬢が二階自室より軽い足音と共に下りて来て、厚めの書類帳を俺の目前にしき開くのでした。


「これが今月の収支。ていうか店舗経営するなら帳簿くらいつけなさいよ、アレクって商人科にいたときはこういうの得意中の得意だったでしょ」


 なるほど帳簿だったんだコレ。

 ぱらぱらとページをめくって数字を流し読みします。


「いいね、助かるよお嬢。いや自分のために帳簿作るって発想が今までなくて……そうか、何か足りないなぁとか思ってたけどコレのことだったんだね」


 冷たいお茶をすすりつつ、お嬢に感謝の笑顔を向けました。

 マジシャン選んで本当に良かったです。

 おかげでホットもアイスも飲み放題の超お手軽です。


「あんたね……さすがにそれくらい気づきなさいよ……。もう、アレクってほんの一月でも目を離したら、いきなり破産してそうで怖い」

「またまたお嬢ってば大げさなんだから。…………あれ、今のわりと本気の発言だった?」


 金髪ロリエルフがうんざり気味の目を向けてきます。

 かわいくてお美しいリィンベル嬢にされると、やっぱりこういうの威力があります。エルフ最高。


「最近は実験とか我慢してるみたいだけど……。またどうせ無駄使いするんでしょ」

「うん、錬金術の探求は生き甲斐だよ。止めるわけがない」


「ふーん……でもなら、なんで最近自粛ムードだったのよ」


 しかも結構よく見られてます。

 何だかこう女房ポジションに居座られた感が……でもエルフは最高です、問題ありません。


「それはね……うーん特にこれといった理由付けがあるわけじゃないけど、しいて言うならまだまだ自分が未熟だって思い知ったんだよ。あのドロポン一体にとんでもない額が消えたからね」

「あ……うん……。それはあたしのせいだし、そこまでしてくれたアレクには……感謝、してなくもないよ……。だってあのがめついアレクがあそこまでするだなんて……」


 お嬢は言葉を先細りにしてなんかモジモジを始めました。

 要領を得ないですけど、クレイゴーレム作りは既定路線だったのであれも口車ってやつの一端です。


 とか言ったら不機嫌になるでしょうし黙っておきました。


「だからね、ドロポンっていう成果は出たけど、研究効率から見れば大失敗なんだ。散財そのものを否定しないけど、また非効率な消費を繰り返せば、きっとお嬢が怒るよね」

「ふんっ、よくわかってるじゃない」


 しかしそのモジモジも一過性のものでした。

 すぐに金髪エルフ様は調子を取り戻して、いつもの気位の高さを見せてくれました。


「別にアレクを尻にしくつもりはないけど、みすみす無駄使いするところなんて見たくないわ。だってアレクには……早く不老の薬を作ってもらわなきゃあたしが困るもの。お爺ちゃんになったアレクと死に別れるなんて嫌……。がんばりなさいよね絶対っ」


 うん、そうだった。それも作りたいです。

 アレもコレもソレも、困ったことに作りたい物がいっぱいです。


「もちろん、さすがにまだまだかかると思うけどね」


 ならそろそろいいかもしれない。

 ここ一月我慢して腕磨きに苦心してきました。


 ついでにあの魔杖の使いこなし方とか、マジシャンとしての実力も追い求めてみたりとか。

 だから今の自分なら一月前のアレクサントよりずっとずっと良い物が作れるに決まっています。


2019/12/18

※特に書籍版を読んで下さった読者へ。

 書籍のお買い上げありがとうございます。2巻該当部分はここからになります。

 実はこの2巻該当部分は、アレクのキャラブレが顕著で、少し読みにくい部分がチラホラ出てきます。

 このキャラブレは書籍2巻で全面的に修正します。WEB版、少しアレクに違和感があるかもしれませんが、改善しますので、どうか2巻も楽しみにされて下さい。

 お目汚し失礼いたしました。あらためて、お買い上げありがとうございます!


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