9-07 2/2 迷宮より、竜を討ちし錬金術師へ (挿絵あり
砂煙とマジックブラストの爆心地を越えて、この大部屋を奥へ奥へと進んで行きます。
元の場所からはよく見えなかったですけど、その先にはなんと意味深な金属扉が存在していました。
でもそれもさっきの爆風で瓦礫が激突し、もう扉の片方が吹っ飛んでたみたいです。
いえラッキーかと思いきや、鍵なんて最初からかかっていないようでした。
さあ中に入ってみましょう。
「うぉぉぉーっ?!」
元気に男らしくダリルが絶叫すると、他の連中も似たような叫びやら感嘆を上げました。
「銀貨っ、超いっぱいっ! 超いっぱいあるよアトゥ!」
「お見事です……ウルカ……。兄様は本当にお金や宝に対する嗅覚が素晴らしいですね」
お宝部屋はそんなに広くありません。
室内中央の台座に小箱が一つ。
それと壁際にそって鈍色に風化した銀貨の山が転がり、中には金貨もちらほら永遠の輝きを見せています。
こういったものは別世界の貨幣なのでそのままでは使えませんが、売れば山分けだとしても立派な大金となるでしょう。
「なんつー現金な迷宮っスか……」
「文字通り財宝ね。アレクが欲張らなきゃ見過ごして帰るところだったわ。……ほ、誉めてないからねっ?!」
「ありがとうお嬢、強欲は誉め言葉だから大丈夫、ちゃんと自覚もしてるし」
それよりも台座の上の銀ピカ小箱が気になります。
それはスカウトのウルカさんも同じようで、さっきから念入りにそれを確認していました。
「罠とかはかかってないよ、鍵はかかってるみたいだけどね」
彼女の細い手によってピッキングツールが二本鍵穴に吸い込まれます。
カチリ……。かと思えば次の瞬間にはもう開錠させられていました、恐怖の手並みです。
「あっちょっ、前をふさぐなっ見えないじゃぁんっ?!」
期待に皆が群がり、鈍くさい俺だけが出遅れました。
見えない見えない全然見えない、5人分の頭部が肝心の中身を隠してしまっています。
「なにこれ、片眼鏡……?」
ウルカの手が小箱の中身に伸びたようです。
しかしバチッと乾いた音が鳴り響いて、彼女の喉から小さな悲鳴が上がりました。
「あつつつ……あー、なるほどね~……」
ウルカが下がったことで視界が開きます。
小箱の中には濃紺の布がしかれ、その上に銀色の片眼鏡が安置されていました。
どうやらこれに触れたせいでウルカから似合わない声が上がったらしいです。
「一人で納得しないでよ、どういうことよウルカさん」
お嬢だって興味を覚えないわけがないです。
隠し階層の奥に秘められた、銀貨金貨に囲まれた謎の工芸品なのですから。
「自分、聞いたことあるっス。世の中には持ち主を選ぶアイテムがあるとか……あだだっ?! 残念、自分にも資質がないらしいっス……。まあ似合いそうもないし別にいいっスけど……」
アシュリーが片眼鏡に触れようとすると、なるほどバチリと青白い光が放たれていました。
すごく痛そうです。指に息を吹きかけて、痺れをごまかそうとしているのかブルブル振り回しています。
「アーティファクト……ひぃお婆さまが似たようなものを持っておりました……。っっ……!」
「大丈夫っアトゥ……っ、痛かったでしょ?! ボクがいっぱい慰めてあげるよっ!」
「残念……私もダメらしいです……」
一応はミステリアスキャラのアクアトゥスさんならもしかしたら……とか思ってましたがダメでした。
ここぞとウルカが飛びついて、指を執拗に撫でたり息を吹きかけたりしておられます。
「うんどれどれ~~、あだだだっ?! はい、ダリルちゃんもダメ~残念~~っ♪」
ダリルもダメでした。
乱暴につかもうとしたのが気に入らないと言わんばかりに、また青白い電撃が暴れ拒みます。
てかなにそれ、回収できないと意味ないです。
お前ら資格無しだから金だけ拾って帰れと言われてるも同然です。
ならはいそうですかとすごすご帰れるわけありませんよ。
こうなったら絶対持って帰ってやります。
「次はアレクがやってみて」
「なんですとー?」
ご指名きましたよやったね。
確かアーティファクトってあれですよ、すごい力持ったスーパーアイテムってことですよね。
ならぜひ欲しい、資質があろうとなかろうともうこれ俺の物。
電撃なんて我慢、これ欲しいから絶対離さない。
「アレクなら大丈夫よ。だってこれはアレクのために用意されたんだと思うの」
「え、なにそれ、お嬢にそんな持ち上げられると……。逆に落ち着かなくなってくるっていうか……えー?」
「だってそうじゃない、この迷宮が提示してきた条件って……全学科を制覇した錬金術師よ。だからこれは最初から、アレクのためのアーティファクトなの」
待って、いやそうやってハードル上げるの止めようよ。
これで拒否られたらギャグじゃないですか。
あっさりこの片眼鏡に受け入れられても、こうなると逆にスッキリしてこなくなるっていうか……。
「あ、普通に取れたし」
手を伸ばしたらあっさりアーティファクトこと片眼鏡を握りしめていました。
「なっ、なんですとぉーっ?!」
「ほらやっぱり!」
ダリルってば良い反応を返してくれます。
皆に振り返って片眼鏡を掲げて見せるとなんだかキラキラと輝いて綺麗です。
「じゃ早速装着、シャキーンッ……っと」
これがどういったものかは知りません。
でも手に入れた以上装備しましょう。
片目に装着してみると視界が半分だけレンズ越しになります。
当然ながら彼女らの視線は俺の顔に集中することになっていきました。
「どう似合う?」
「はい素敵です兄様っ! 小悪党っぽさが5割増しほど強化されましたっ! ああっアトゥは痺れてしまいます……っ!」
こ、小悪党……?
「あーー……似合うけど、似合うけど確かに悪っぽいねこれ、アトゥの言う通り悪党だねー♪ お兄さんらし~ぃ♪」
悪っぽい……え、悪党……?
「先輩……それは普段使いしない方がいいかもっス……」
「うん、アレクのずる賢さが強調されるのよね、すごく感じ悪いわ」
あーなんかメチャ不評……?
つか悪党ってなによそれヒドくね、似合わないなら似合わないの一言でいいし!
「傷つくなぁ……。もう少しチミらは遠慮とかやさしさといったものを学ぶべきだねー……」
……ん、なんだこれ?
思わず座り込んで銀貨を拾い眺めていました。
すると……いきなり視界が青くぼんやり光るじゃないですか。
あ、いや違う。
これはレンズの上に文字が刻まれていっています。
【名称・漂着銀貨|カテゴリー・金属|属性値・地5|合成効果・????|?????】
……へ?
漂着銀貨っていうんですかーこれー……?
金属なのは見りゃわかります。属性値ってなにー?
「あ……」
かと思ったら情報を覚えきる前にプツンッと文字が消えました。
……あれもしかしてこれって、ガス欠? いや電池切れ?
もう一度動けと片眼鏡や銀貨を意識してみても、なんかもう、うんともすんともいいやがりません。
「なにしてるんスか先輩?」
「いやなんでもない。……この銀貨と金貨、全部回収して帰ろうか」
動かないならしょうがないです。
眼鏡を外して内ポケットにしまいました。
「全部って……ほんっと、あきれた強欲さね……。あたしも商人だしこれの価値はわかるけど……」
「うん、ちょっとしたものだよ。大丈夫、こんなこともあろうかと布袋は余分にこさえて来たから。薄手だから破けたら大変だけど……。そこは努力と工夫でがんばろうねっ!」
一人一人に袋を押しつけて、俺たちは持てる限りの銀貨金貨をかき集めました。
やりました取り残しは軽微なり、これなら妥協して帰れます。
「お、重……っ! 重装備のダリルちゃんにまでこんなことさせるとかっ、アレックスのアホーアホー鬼畜ぅっ!」
「ボク……せんせーのこと誤解してたかも……っ。完全にコイツっ、金の亡者だよっ!」
「そんな兄様にアトゥはゾッコンですっ、この稼ぎもいずれ全て研究に使い果たしてしまうのですねっ!」
何のことはありません。
敵は全て倒してありますので問題はなにもありません。
あえて敵が存在するとすれば、それは重力と布袋の耐久性です。
「先輩……一人で3袋とか……一体どこからそんな力が出てくるんスか……。ぎっくり腰になっても知らんスよ……?」
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……頭、クラクラしてきたわ……。はわ、アレクってばまっすぐ歩きなさいよ……っ」
いえ、揺れながら歩いてるのはお嬢の方です。
こんな小さな身体でこんな重労働してくれるとは、児童相談所に見つかったら怒鳴り散らされそうな光景ですね。
はっはっはっ、金のためならエルフも泣かすっ!
「もうちょっとで通常階層だよ、そこまでたどり着ければこの重さも全て喜びに変わるっ、あと一息さっ! キラーンッ」
青春の汗を流しながら俺たちはついに帰還しました。
通常階層に戻るなりエレベーターへと財宝を積載し、ちゃんと隠しておいた魔物素材も上乗せします。
あれおかしいなぁ、よっぽどお宝に出会えて興奮したのかなみんな!
そんなにハァハァ呼吸を乱しちゃって、全く強欲なんだからー。
ともかくこれにて帰還、ミッションコンプリートです。
お疲れさまでした。
・
ちなみにこれはその後の話です。
日の光の下に輝く銀貨金貨は収入として莫大なものでした。
だから俺たちも銭湯ごときではなく富豪向けの高級浴場におもむき、その澄んだ湯で汗とへばりついた砂を洗い流したのでした。
なにせ富豪向けですから当然のようにマッサージサービスが付いてきまして、それがまた素晴らしいです。
連日の疲れが今確実に癒やされていっています。
指圧、按摩、バイプレーション、疲労が揉みほぐされ、湯に火照った身体と一緒に眠気を誘います。
…………。
……。
ところで……。
まどろみの中である物思いが浮かび上がりました。
結局のところあの漆黒の飛竜は何がしたかったんでしょうか。
まさかあの片眼鏡……スペクタクルズが欲しかったわけじゃないと思います。
あそこまでして目指さなければならなかった場所。
それがアカシャの家、上級修練迷宮の隠しフロア、帰還の翼を拒む面倒なエリアです。
踏破しても機能を失わないタイプの……あれ?
というよりあの隠し階層をクリアした人っているんでしょうか。
感覚的で申し訳ないですがあそこは迷宮の舞台裏といった感じで、本来の常識が通用しなそうです。
はい、興味は尽きませんが判断材料がまるで足りません。
ならば後日の調査にたくしましょう。
なにせ今は報酬と財宝とレア素材でウハウハ一攫千金気分なのですから。
迷宮が俺を指名して不思議なスペクタクルズを渡してきた意図なんて、なおさら考えるだけムダというものです。
そうそう、関係ないけど面白い素材を拾いました。
もしかしたらこれ、あの黒ワイバーンのドロップ品……いえ、ドロップ品の残骸なんじゃないでしょうか。
砕けて割れた黒い玉なのですが……秘めたる魔力の総量からしてそんな推測が立つのです。
……飛竜っていいですよね。
アレを見た以上はもう乗りたくてしょうがないです。
ああ、ああそうだ。クレイゴーレムのドロポンが作れるくらいですからどうにかこの玉を使って……。
俺のためだけの飛竜を生み出せませんかね?
うん、何度妄想してもそれ良いです。
ホムンクルス製造の第二ステップ、これにしちゃったらどうでしょうか。
「にゃー」
はい、謎の猫さんボイスも賛同してくれたようです。
そうしましょーう。




