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9-06 いきなり好機到来、三つ巴からの大魔法

 ついに標的を発見した。


 それは報告通りのワイバーンで間違いなかったが、通常の種とは歴然と異なる大物だ。

 漆黒の鱗を持ちし空の竜はワイバーンとはとても呼べないほどに大型だった。

 しかしその翼膜はこれまでの戦いで破れ、道しるべとして赤い鮮血を滴らせていたのだった。


 間違いない。

 ソイツは今現在もエリアの魔物たちと動機不明の狂った死闘を繰り広げているのだ。

 幸いは両勢力とも交戦に夢中でこちらには気づいていない。


 つまり今がチャンスだった。


「好機です兄様……」

「だね、それでどうするのさ、せんせ」


 悪いが答えずに思慮する。


「うわぁ……思った以上だよコレ……。なにアレでか過ぎなんだけど……私無理かも」

「同意っス……あんなのが迷宮に無理矢理入り込んでるとか……現在進行形で目を疑ってるっス……」


 誰だってわかる。

 あの中に飛び込むのは得策じゃない。

 三つどもえの状況なのだ、下手に参戦すれば漆黒の飛竜をわざわざ支援するようなものだ。

 ……なら他にない、遠距離攻撃だ。


「どうするのよアレクっ、急ぎなさいよ……っ」

「心配は要らない、ちょうど今決まった。魔力を溜めるだけ溜めて、ここから一斉に攻撃魔法をアイツにぶち込もう」


 まあ早いか遅いかであって結局誰もが至る結論だ。

 彼女らもシンプルな提案にうなずき、そうやって必要以上にあちら方を刺激せぬよう努めてくれた。


「さあ始めるよ。前衛組はやや前進、そこに留まって敵を足止め、後衛組は合図するまでひたすら魔力増幅」

「了解っス、ダリルは真ん中で守りに徹してくれるだけでいいっスよ、カバーは自分とウルカがするっスから」

「うんっわかったっ、ここは任せろーっ」


 アシュリーが布陣をサポートした。

 絶対に突破されてはいけないのだ、ならば左翼と右翼を本職が担当するのが正解だ。

 続いて俺が魔力の増幅を始めると、お嬢とアクアトゥスさんが呼応する。


「やつらに気づかれても後衛はなりふり構うな、アシュリーとウルカの本気が突破を絶対に防いでくれる。ダリルは少し下がって撃ち漏らしをカバー、死なないように注意しつつ死ぬ気でがんばれ」


 後ろから布陣を調整する。

 ダリルの真ん中を少しくぼませて両翼の負荷を上げる。


「お兄さんってば鬼畜ぅ~、ボクとアシュリー先輩の二人で支えろとか……こぉぉ奮しちゃうじゃん……っ♪」


 ご好評で何より。

 さて前は彼女らに任せたから、後ろの俺たちだって全力でいかねばならない。


 スタッフオブガイスト。

 厨二なその名称にふさわしくピーキー過ぎる出力の暴れん坊さんだ。

 また妖魔の瞳のもう一つの作用として[悪い気を吸う]とも付属の説明書に記述されていた。


 何のことやらと思っていたがここで納得だ。

 つまりエリアの影響を受けやすいのだ。


 状況で得意属性がコロコロと変わるらしく、おかげでここまで物理主体で戦うことになった。

 魔物と魔物が激突し、我々が第三勢力として現れたこの状況。ともなれば杖の方も激戦の戦場に呼応して、さらに扱いづらく魔力暴走のリスクと出力を跳ね上げてゆく。


 この状況で選ぶべき攻撃魔法は……。

 ならば連携プレイと行こうか。


「お嬢はウィンドカッターで翼を、アクアトゥスさんはサンダーで頭を撃って」

「了解です兄様っ」

「うん、わかったっ」


 いちいち疑問をはさんでも時が惜しい。

 二人は何も考えずに素早く要求を受け止めた。


「……けど、アレクはどうするのよ?」


 いや、お嬢は少し違った。

 連携なのだから当然こちらの詠唱魔法も把握したいだろう。


「あーうん、それなんだよねー」


 試しに手のひらの中で魔法を発動させる。

 炎、氷、風、土……どれも不安定。

 通常階層ならともかくここではとても扱い切れそうもない。


「さっさと決めなさいよっ」

「うん、じゃ時間が惜しいし秘密の方向で。俺の狙いは胴体、頭と翼は二人に任せた」

「はい、兄様の御意に」

「ああそう、ならヘマしたら許さないんだから覚えておきなさいよっ!」


 お嬢は商人なだけあってシビアだ。

 なんにせよ作戦が決まったからには三人一斉で増幅の出力を上げた。

 三箇所の魔力が高密度でぶつかり合い、風圧による空気の壁が生まれ乱気流まで発生する。


 属性魔法は詠唱困難、ならここは初心に返ろう。

 そこから創意工夫して、工夫っていうか力ずくともいうけど……純粋魔力によるエネルギー弾、マジックアローでいこうか。


 ほらRPGとかだと一番下級だったりするやつ。

 それだけあって扱いやすいし早いのが売りだ。威力効率はそこまで良くないけど。


 何度も言うことになるがスタッフオブガイストはピーキーだ。

 その圧倒的な増幅力は使い手すらも恐怖に震わせる。

 その魔杖を地に突き両手をかけて、文字通り大地をも震わせて超魔力に増幅させる。


 温存していたとはいえ元からMP残量があまりないのだ。これを撃ち漏らしたら次はないに等しい。

 錬金術師用の爆弾こそ持参しているが、それは撃ち漏らして撤退戦になってしまった場合の保険だ。


「あ、兄様……その力は一体……」

「アレクあんたっ! なによっなによそれっっ、ば、バカじゃないのっ!!」

「あまり喋る余裕もないけど先に言っておく……暴走したら……ごめん」

「ちょっ、ちょっとっ、なんか後ろが大変なことになってるようなー……っ、ひゃぁっ前からも来たぁぁーっ?!」


 魔法の適性のないダリルでさえ常軌を逸したこの杖に驚いていた。

 だがそれは当然ながら魔物たちも同じ。

 こちらの存在と魔力に慌てふためき、予想通り一部がこちらに迫ってくるじゃないか。


 たちまち目前で前衛班との交戦が始まり、激しい戦闘が繰り広げられる。

 よっぽどこの先に誰も行かせたくないのか、たった一層進んだだけなのに魔物のレベルが跳ね上がっていた。


「キャハハハッ、これってギリギリじゃんっ! ギリギリ……アハハハハッ!」

「先輩のせいでいきなりとんでもないことに……っ、くっ、手強いっスよこいつらーっ!」


 わかってる、全部わかってる。

 とはいえ今は彼女ら前衛に任せるしかない。

 今は溜め続けるのが俺たちの仕事、どんなに前が悲鳴とか悪態とか歓喜の奇声を上げようとも無視無視。


 というか、最下級魔法といえどちょっとでもしくじれば暴走して爆発する。

 だから少しでも集中力を上げようと目を閉じることにした。

 暴走と増幅の境界紙一重で、あえてまだ溜めて溜めて、まだ溜めてやる。


 いや……いやもうこれ以上は無理かも……。

 ヤバい変な汗出てきたしっ、怖いっ、暴発怖いっ、なにこの杖……っ、つっかいにきぃぃしっヤバ過ぎるぅぅーっっ!!


「うひゃぁぁっアイツっ、アイツこっち気づいたよっ!」


 そうか。

 ダリルの声に活目かつもくした。

 言葉通り、漆黒の飛竜と俺たちの視線がぶつかり合う。


「ならば今だ、リィンベル発動着弾後にアクアトゥスも連続発動! 立て続けに撃ち込むぞ!」


 我ながら俺のキャラじゃないけど、もー知らん。

 竜よ、まずはお嬢のウインドカッターだ。


 溜めまくっただけあって、それはうねる暴風となり黒竜の翼に即時に命中した。

 まだわずかながらの飛翔能力を持っていたが、それをお嬢が完全破壊して機動力を奪い去ってくれる。


 すぐにアクアトゥスのサンダーも発動していた。

 天より降り注ぎし三本の落雷が、怒る竜の頭部に激突して地へと走り落ちる。

 これだけでもオーバーキルのダメージを与えたはずなのに、しかしそれでも黒き狂竜は灰とはなってくれない。


 まだ足りないのだ。

 倒れずに踏みとどまって、標的を完全に俺たち後衛部隊へと切り替えたらしく横目の竜瞳が輝き睨む。


 これがCクラス……?

 あのヒッポグリフより弱い?


 嘘を言え、こんなCクラスいてたまるか。

 正面からぶつかり合えば完全に手に余る化け物じゃないか。


「兄様っ!」


 でももう遅い、もう俺たちの勝ちだ。

 ヤツは衝撃とダメージで硬直している。もはや俺と魔杖のための都合の良い的でしかない。


「アレクっっ、早くっっ!」


 さあ食らうといい、俺とダリルの職人魂と、マナ先生のセクハラ根性が生み出した最高最狂の杖――スタッフオブガイストの馬鹿力をッッ!


「征けっ、そして穿け妖魔の連槍よっ! マジックブラスト!!」


 杖を突き出すとただちに大げさで意味不明な魔法陣が発生した。

 肝心の本人が吹っ飛びそうなほどの反動と共に、連装式のマジックアローたちが光の矢となって漆黒の竜を穿うがつ。

 空を切って飛来したソレが爆音と閃光を生み、それがもちろん発動分の7度続いたのだった。


 当たり前のことだ。

 そんなものぶっ放したら爆心地にいる黒飛竜も、それに群がる魔物たちだって、さらには遠く離れた俺たちですら無事なわけがない。


 極端過ぎる超破壊力に誰もが吹き飛ばされ、粉塵化した青き石畳が砂嵐を生みだし、まともに前すら見えぬ状況がその後一分弱も続いたのだった。



過去回【7-03 クレイゴーレムを作ろう、ついでにお嬢をかけて 2/2】に挿絵を追加しました。


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