9-02 お国のためにすごいの作ろう
軍を使った連絡は迅速に届いたようです。
結果、もうアトリエにアクアトゥスさんが駆け付けてくれました。
ロドニーさんとリィンベル嬢は、今頃どこかでそれぞれの任務に奮闘していることでしょう。
「来たねアクアトゥスさん、待ってたよ」
「はい、話は聞かせていただきました。兄様の力になれるなら、アトゥはどこにだって参ります。さしずめ、次なる着地点はお布団でよろしいですか……♪ クフフッ♪」
うん、これもちょっとした挨拶みたいなものです。
「悪いけど寝かせないよ、アクアトゥスさんにはこれから、イヤっていうほど錬金を手伝わせる予定だから覚悟して」
なのでこちらも応酬して、爆弾のプロトタイプを彼女の顔の前に吊り下げました。
アクアトゥスさんはまかりなりにも錬金術師です。
俺の成果物を見るなり大切そうにそれを受け取って、ド近眼に凝視しました。
「どうかな?」
我ながらちょっとした手応えがあります。
ただしこれには問題があって、錬金術の道具は錬金術師にしか使えないのです。
……ってあれ?
「ボクも手伝いに来たよ、せーんせ♪ それともお兄さんって呼んだ方がいいですかぁ、クスス……♪」
どう考えてもカタギじゃないあの子、アサシンっぽいウルカさんの姿もそこにあーるじゃないですか。
まあいいか。手伝ってくれるなら助かるし。
「助かるよウルカさん。なにせ今は稼ぎ時……あ、違った。もとい公国の有事です、手伝ってもらえたら本当に助かります」
「ふぅ~ん……」
そのウルカさんが機嫌良くにやけました。
それからつややかな唇を男の耳元に近付けて、こう言うのですよ。
「先生のそういう腹黒さ……わかりやすくて好きですよ、ボク♪」
……などと。
何ですかねこれ、同族意識……?
彼女のどの部分が共感となってこの感想にいたったんでしょう、やっぱりこの子怖いです。
「ウルカ……兄様だけは……」
「わかってるわかってる、アトゥ一筋だよボク。それに何度も言ったじゃん、顔が、好みじゃないって」
だから何でその言葉を、人様の顔のぞき込みながら言いますかね……。
「それでアクアトゥスさん、これを錬金術師以外でも使えるように出来ないかな」
それより仕事です。
この部分をどうにかしないと話にならないです。
方法をダメ元でアクアトゥスさんに聞きました。
「それは難しいです兄様」
「あやっぱり、そうだよねー」
はいやっぱりダメでした。
真面目で誠実にアクアトゥスさんは経験者の意見を述べてくれます。
「錬金術の力がなければ本来の威力を発揮など出来ません。仮に使えたところで、果たしてそれが爆弾と呼べるのかといえば……恐らく鳥獣を脅かす程度のものになるはずです兄様」
何となくわかります。
これは錬金術の魔力を使って起爆増幅するもので、その力がない者にはただのガラクタです。
「うん、じゃあ大量生産したこれを、アクアトゥスさんと俺が、馬車馬のように各地を走ってボスモンスターに投げつけなきゃならなくなるね」
「はい、それが最も確実です。兄様が望むならどの戦地にもアトゥは参りましょう。兄様のいるところがアトゥの楽園ですから……再会してよりアトゥは幸せの連続でした……」
なぜここで脱線させますか妹(仮)よ。
てかその手のお言葉は、ウルカさんの目が殺意を持ち始めるので手加減お願いします。
「それはダメだよ、だって面倒なんてレベルじゃない。骨の髄までMP枯れ果てても、軍やギルドは俺たちを戦場にかり出そうとするだろうね。いや、ハッキリと無理だ、俺たち二人が大活躍したところでそれは局地的な勝利を呼ぶだけ、解決じゃない」
それにそれは栄誉とかなんとか、めんどくさいものも一緒に付いてくるに決まっている。
俺は別に英雄になりたいわけじゃない。
賞賛はいらないからさらなる実験の予算が欲しい。
「……さすが兄様です。兄様はアトゥより遙か先を見通しているのですね」
「ただの超っっ、めんどくさがりって気もするけどね~。ま、でも二人が活躍するだけだと、ちょっとつまんないかなぁ~」
ウルカさん正解、めんどくさいって動機が9割越えてます。
そんな肉体労働やりたくなぁい。
「……ボムの灰を精製して威力を底上げする方法があります。ほら……以前兄様があの迷宮で投げた……切り札がその方法で作ったものです。あれなら一応、一般人の魔力でも爆弾の作用が発動すると思われます兄様」
2年前のあの迷宮で、隠し階層のボスを消し飛ばしたアレのことだろう。
あれはまったくもって凄まじい破壊力でした。
「あれか、懐かしいな。それはそれで気になる技術だけど……今回向きじゃないね。それをすると一つあたりのコストがとんでもないことになる、投げれば投げるほど軍は大赤字。結果、俺たちも儲からない。これは一番ダメ」
「はい、その通りです。ですから私は無理だと思います兄様」
いやいや違うよアクアトゥスさん。
ここで諦めたらダメなんだ。
そこで考えるのを止めたら何も見えてこない。
もちろん大儲けもできない。やだ。
「でもその無理を承知でどうにかするのが今回のミッションであって儲けばな……社会正義なのさ」
「ぷっ……ソレお兄さんには一番似合わない言葉だよね、クスクス……♪」
ひどいなぁウルカさん。
でも気のせいじゃなかったら、ウルカさんってダークな方の俺のことならそんなに嫌いじゃないのかな。なんかよく笑うような。
「兄様は黒いです。漆黒の堕天使は今日も研究費という生け贄を求めて暗躍するのですね……素敵です……」
「あの、それは上げてるの下げてるのどっち? ちょっとわかんないなぁ……?」
もっと言えば、ウルカとアクアトゥスは基本なに言ってるのかわかんないです。
どっちもぶっ飛んでるので話が折れる折れる……えーとなんだっけ?
「アトゥは兄様の望むままに、どこまでも堕ちてゆく覚悟……ということです。足元でひざまずいて三度ほど復唱しましょうか兄様?」
「いやそれより兄が堕落するのを力一杯止めるべきかな~、とか思ったけどこうやって助けてもらってるしまあいいか。じゃあちょっと、裏技を試してみようかアクアトゥスさん」
なにも考え無しでこの依頼を受けたわけじゃないです。
金に目がくらんだのは事実ですけど、それなりに打算くらいあります。
「うらわざ……ですか?」
「ずっとポーションばかり作ってるからね、たまにミスをするんだ。なんていうか体が間違えてマジシャンとしてのMPを使って作っちゃうみたいでね」
解説しながら材料を釜に投入していきます。
中和剤にボムの灰、あと小麦粉を少々入れると威力が底上げされます。
「そうして出来上がったものは粗悪品だから自家消費してたんだけど……これが通常のアルケミポーションと比べて速効性に特化してて、思ったより悪くないんだ。これはそのポーションが一般魔法由来の作用で効能を発揮しているせい、と仮説しよう」
あとはただ、マジシャンモードで釜をかき回します。
よくわかんないですけどコツを覚えてしまっていて、なんの苦でもない普通の作業です。
ポンッと軽い音だけが鳴り、白煙飛んだ釜の底に爆弾が完成しました。
「作ってみたよ、どうだろう。悪いけどウルカさん試してみて」
それをウルカさんに手渡すと、その手の危険物がよっぽど好きなのかこれが大変素直嬉しげに受け取ってくれました。
「魔力を込めて投げて。混ぜもの入れてないからただ単に炸裂するだけだから」
「いいよっやってみる」
皆でアトリエの裏庭に出て、指示通り彼女がそれを空に向けてぶん投げてくれました。
ボンッ! と花火みたいな爆音が頭上で響きます。
「すごい、これならボクでも使える。確かに一般的な魔力《MP》を使って発動強化されてるよ。なんか楽しいよ、これもっと投げたい」
「兄様ったら……アトゥの知らぬ間にこんな方法を……」
でも爆弾として考えるとちょっと弱いです。
本来の威力が失われてしまっています。
これをどうにかするには……うーん、2種類の魔力を同時にかければいいのかな……。
でもさすがに俺だってそんな小器用なこと……あ。
そうか、そういうことか、なら簡単じゃないですか。
「じゃあアクアトゥスさん、また今のやり方で作るから今度は手伝ってくれるかな。アクアトゥスさんはただ、いつも通りにでかき回してくれるだけでいいから」
「はいっ♪ アトゥもわかりましたよ兄様っ、つまり二つの力で兄妹合体合成ですねっ! やってみましょう、なんだかわくわくしてきました私……っ!」
肩を揃えてアトリエの奥に戻り、材料入れなおして二人でかき混ぜます。
まぜまぜまぜまぜ……。
ぐーるこんっ、ぐーるこんっ。ぽわーん。
さあ完成!
錬金術の魔力無しでは発光とかしないらしいです。
つまり今度のは淡い光が釜を包み、次第にそれが強くなって蒸発と共に目当ての爆弾が誕生しました。
「これは……。兄様……」
「うん、ウルカさんまた頼んでいい?」
「いいよ、だってアトゥのお手製だから。あ、おにーさんはおまけね、一応手垢だけカウントしてあげる」
それでいいから早く結果を見たいです。これが実験の醍醐味ですから。
また裏庭に出て、今度はより高めに空へと投げてもらいました。
すると……なんということでしょう……。
たちまち職人街が騒然とするほどの、とんでもない爆音が天を突き雷鳴となって轟くではないですか。
「すごっ、これいけるよアトゥ!!」
「はいウルカ……これは……錬金術の常識を越えています……。兄様っ兄様っ、すごいです兄様っ! ウルカの前ではしゃいでしまうくらいっ!」
「あーうん……そんなに盛り上がられると逆にこっちは落ち着くっていうねー」
こんなにあっさりいくとは思いませんでした。
あっさり過ぎて拍子抜けです。
いえ、素材がムダにならなかった分だけ儲けたってことでしょう。
「じゃあ次はこれに爆弾らしい混合物を混ぜてロドニーさんのところに届けよう。それで予算が下りたら大量生産だ」
「はい兄様、これは奇跡的なことです。兄様は本当に……アトゥの知るカッコイイ兄様でした……アトゥは感動しています……」
またまた大げさなんだから。
二人一緒に合成しなきゃ出来ないって点が、これの大きなネックです。
アクアトゥスさんも暇じゃないですから。
「アトゥのお兄さんって……もしかして、天才肌……? ふつうの魔法も怖いくらい器用に使うよね……」
あれ、なんかウルカさん、ほんとに驚いてます。
こんな強烈な爆弾作れるってだけで、まあそりゃビックリ危険人物ですけど。
「自慢の兄ですから……でもウルカ……くれぐれも気を許してはいけません……兄様は……たらしです……」
「わかったよアトゥ。でもやるじゃんお兄さん。認めないけどね、アトゥはずっとボクと一緒なんだから……お兄さんになんか渡さないよ」
いきなり言いたい放題な二人を置いてアトリエに戻りました。
中和剤を水で薄めてボムの灰と小麦粉を入れて、そこに炎属性の因子になる火星の砂を突っ込むと、遅れてアクアトゥスさんが杖を下ろします。
急ぎの仕事です。盛り上がりのピークも今さっき過ぎました。
俺たちは淡々と釜をかき回し、錬金術の奇跡を一つ一つこの世に実体化させてゆくのでした。
・
それからロドニーさんに完成品を届けて、先行して今ある素材で爆弾を生産することになりました。
やがて夕方前には正式に予算が下りることになり、16箱分のボムの灰と、こちらの要望通りの各種属性混合物がアトリエの床という床を木箱で埋めていきます。
あとはただひたすら大量生産です。
二人の錬金術師は仲間たちのサポートの下、夕方前から夜、深夜、眠気をこらえて夜なべで調合を続けていきました。
……そういえば名前を決めていません。
なら火属性のをフレアボム、氷のアイスボムとでも名付けましょう。
錬金術師からすると特別製ですが、それ以外からするとただのすごい爆弾ですから、このシンプルネーミングでまあいいんじゃないでしょうか。
これが終着点でもありませんし、凄そうな名前は後にとっておくということで、はい。
こうして前線に各種ボムが供給されると各地で炸裂音が次々と轟きました。
その破壊力にボスクラスの大量発生もようやく終息の方向でバランスが保たれ、騒乱は終わりへと向かってゆくように思われたのでした。




