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9-01 公国軍、奇策を求めて奇人を頼る

前章のあらすじ


 使い込み過ぎてアトリエの経営が傾く。

 そこで素材調達をかねた迷宮探索を希望するも、MP不足を見破られてアレクサントは仕事にあぶれてしまう。


 途方に暮れているとそこにダンプ先生が現れる。

 彼の代理として臨時教師をすることとなり、アレクサントはアカシャの家へと向かった。

 まずは学園長に挨拶し、ついでに教頭に育毛剤の話題を振り、時間をつぶして午後の教練を受け持つ。


 教練場を訪れるなり一年生に慕われるアレクサント。

 熱心な彼らにアドバイスして、意外な教師の適正を発揮する。


 生徒らが帰るとそこにアクアトゥスが襲来。

 その親友、スカウト職のウルカが遅れて現れるも、兄の女たらしこみオーラを危惧して友を連れ去ってゆく。


 その後、ポーション素材を求めてアクアトゥスの小屋へとお邪魔するとウルカと二人っきりになることに。

 アクアトゥスを真剣に愛するウルカ、彼女は見事なヤンデレっぷりを発揮して彼にダガーを突きつける。


 その修羅場はアクアトゥスの帰宅により調停され、アレクサントはこの先の教師生活を危ぶむのだった。

――――――――――――――――――――

 連鎖劇終幕 公都の危機、魔物の大襲来

――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――


 いよいよ連鎖劇の終幕にございます。

 この章をもって一連の流れにもピリオドが打たれます。


 これは私の中に眠る主人の物語。

 彼の人生の記録にございます。

 ですからこれまでの一つ一つの事件に、物語の伏線などという創作世界の概念は存在しません。


 あるのは必然と偶然、結果から転がりゆく連鎖でございます。

 しかしあえてここで、物語としての脚色を加えるのならば……私はこう答えるでしょう。


 この連鎖劇の必然と偶然の中には、何者かの目論見がまぎれ込んでいたはずだと。

 それでは皆様、少し今回は長いですが……連鎖劇の終幕にございます。


――――――――――――――――――



 ・



9-01 公国軍、奇策を求めて奇人を頼る


 臨時教師の仕事は予定より三日分も長引きました。

 そのお勤めをようやく終えた頃には、アトリエの在庫もなんとか補充されまして、やっとこさこれまで通りの運行に戻れました。


 でもずっとソファーで寝るのはイヤです。

 だからベッドと生活雑貨をもう一組、使う者がお嬢なのでそれなりに上等なものを手配しました。

 するとまあ当たり前ですけど、わずかばかりの儲けもまたポンッと吹っ飛びましたとさ。


 人一人分の生活空間を整えるのって、これが安くも簡単でもないんですねー……。


 あ、ところで。

 今、この国はちょっと困ったことになっています。

 ええ、どうか思い出して下さい。


 ダンプ先生の都合がつかなかったから、わざわざ卒業間もない自分が教師代役を果たしたのです。

 その間、彼やマナ先生ら一線級の冒険者たちが、どこでなにをしていたのかと言えば……。


 知っての通り、お外で魔物と戦っていました。

 ギルドや軍が力を合わせて、ボスクラス含む魔物の襲来に対応していたそうなのです。

 それがまた増える増える、倒しても倒しても大量発生しているそうですよ。


 ……ごめんなさい、実は人事だと思ってました。

 でもそんなはずありませんよね。

 そうなると錬金術師のアトリエにも、仕事が舞い込まないはずがありませんでした。


 依頼が来ました。

 もちろんそれは公国軍からの、ロドニーさん発案による正式な依頼です。



 ・



「性急で申し訳ないが本題に入ろう。アレックスくん、君の奇術でアレ(・・)をどうにかしてくれ」


 今回の要求はわりと大ざっぱでした。

 アレというのはもちろん、彼も軍属ですから大襲来した魔物たちのことでしょう。


「今年は異常だ……さすがに手に余る……。アレをどうにかするには、もっと打開的なアプローチが必要とされているんだ」


 ロドニーさんも強いですから前線で対応しているんでしょう。

 彼の顔には疲労のくまが浮かび、うんざりとした厭戦えんせん感情がはっきり見て取れました。


 何せ真面目な性質ですから、この長い討伐が生む各影響にも気をもんでいることでしょう。

 冒険者が討伐に出払えば、それだけ迷宮資源の産出が滞り、高騰し、それが外交問題に直結して……すごく大変なことになりそうです。


「力を貸してくれアレックスくん、このままでは非常にまずい……」


 実は自分も悩んでいます。

 最近素材が高いです。

 魔法のMPは回復しましたが、ギルドの仕事もこの討伐系ばかりで迷宮探索が優先されていません。


「じゃあれですね、爆弾・・です。ほら2年前の――アレ(・・)、覚えています?」

「2年前のアレというと……。はて……」


 ロドニーさんは当時を懐かしそうに思い返し、アインスさんの紅茶に口を付けました。


「ヒントは二年前、あの迷宮の中で起きたことです」


 ロドニーさんと迷宮となると一つしか該当するものがありません。

 ゆっくりと紅茶をソーサーに戻し、貴公子士官は静かに曇った眼鏡をカチャリと上げ直しました。


「アレか! アクアトゥスくんが作っていたあの爆弾のことか! キミも作れるのかいアレックスくんっ?!」


 ずいぶん興奮しています。

 気持ちは分かります、ありゃ実際すごかったですから。


「ボムの灰と呼ばれる迷宮素材と、それに混ぜる混合物が必要です。……手配できませんか? もちろん経費で大量に」

「うーん……大量となると簡単じゃないね。上を説得するだけの材料が必要だよ」


 そりゃそうか。

 わけの分からない物に大金を出してもしょうがないし。


「わかった、それならいくらかの予算を出そう。それでキミは爆弾のクオリティを上げてくれ。僕は出来上がったそのプロトタイプで上を説得してみせよう」


 さすがロドニーさんわかってる。

 そうやって役割分担してもらえると、心の弟分のこっちだってやる気がでてきます。

 うん、彼の出世は俺の利益。大変好都合な話です。


「ありがとうございますロドニーさん。ならついでに軍の方からアカシャの家に協力要請を。アクアトゥスさんの助力が必要です」

「そうしよう。フフ……僕も元学生だからね、単位と成績に直結するなら彼女も動きやすいだろう」


 話が早いです、至れり尽くせりです。

 爆弾作りとなるとアクアトゥスさんですし、いざ大量生産となれば俺の手だけじゃ足りないです。


「……じゃあその灰の調達はあたしがしてあげる。だってアレクに任せると余計なの買って来そうだもん」

「あ、お嬢。お帰り」


 話は聞かせてもらったぜ、ってやつです。

 大事な話の邪魔をしてはいけないとか、そんな意外なお嬢の配慮があったんでしょう、かわいい人です。

 店の入り口がチリンと鳴って、ドヤ顔のお嬢が現れました。


「やあリィンベルくん、キミにそう言ってもらえると助かるよ。これは当面の予算だ、ぜひ頼んだよ」

「任せてっ。出来るだけ安く、い~っぱいっ良いもの仕入れてきてあげるっ!」


 ロドニーさんからお金を受け取って、自信家たっぷりにそう宣言してくれました。

 実は買い物めんどくさかったので助かります。


「では頼んだよアレックスくん。前線は今も戦っている、すまないが一刻も早くこれを完成させてくれ。公国経済も機能不全を起こしかけている、なにせ流通路までやつらが……」

「任せて下さいロドニーさん。ちなみに、もちろん、報酬の方は……」


 なら自分はこっち方面の交渉をしておきましょう。

 ギャラって外して考えちゃいけません、ギャラと書いて友情です。


 ……すみません言い過ぎました。


「ああ、まだハッキリ言えないがかなりの色を約束しよう。成功報酬だと思ってくれ、成果の分だけ軍は――いや、公国がキミに謝礼と栄誉を支払おう」

「それを聞いて一安心です。では爆弾が仕上がり次第兵舎の方にお持ちしますね。今日中にすぐ完成させますので少しばかしお待ちを」


 話が決まるとロドニーさんから疲れが飛びました。

 重圧から解放された独特の笑顔を浮かべて、もう解決した気でいるんじゃないかってくらいの気の抜けようです。


 こっちからすると逆にプレッシャーですけど誇らしいです。ロドニーさんは俺の兄貴分ですから。


「あ、それと栄誉はいらないので、その分だけお金下さいとお伝え下さい」

「フフ……わかったそれもキミの願い通りにしよう」


 栄誉って面倒事とか責任とセットで存在してると思います。そんなの要らないです。

 ロドニーさんは苦笑して、俺らしいと納得してくれました。


「アレク……あんたね、バカなこと言ってないでちゃんとやんなさいよっ! 皆困ってるんだからねっ、人の足下見るまねしたら、この店の誇りにかけてあたしが許さないからっ!」


 お嬢の方には不評でした。

 良いところの商家ですし誇りがあるんでしょう。


「ハハハッ、またまたお嬢、これはギブアンドテイクですよ。我らの力で状況を打破し、最悪のケースから差し引いた余剰のいくらかを……がっぽりっ、いただくだけですからー」

「ならアレク、特別に教えてあげる。そういうのを世間では、足元を見るとかガメついって言うのよ」


 でももう決まっちゃったことです。

 お嬢の指摘もまあ多少留意しつつ? これから荒稼ぎ……もとい爆弾作りをがんばっていっちゃいましょう!


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