8-04 ウルカとアクア 2/2(挿絵あり
…………。
……。
てなわけで、こじれること覚悟で小屋の扉をコツコツたたきました。
「はい。あ、お兄さん」
さっきのウルカさんでした。
当然のように扉を開いたまま、彼女は俺を奥へと招きます。
中にアクアトゥスさんもいるってことかな……。
「あれ、アクアトゥスさんは……?」
「ああ、寮の方で食事とお風呂いってる。今はボク一人、ときどきわがまま言って泊まり込んでるんだー」
「へーー」
口振りからすると彼女はもう風呂食事が済んでるんでしょう。
そう言われてみれば、ウルカさんから清潔な湯上がりスメルが発散されています。
いないなら待てばいいか、いつものテーブルに腰掛けました。
すると……ウルカさんも向かいに座ってくるじゃないですか。
「一度お会いしたかったです、お兄さん」
「いやいや急に丁寧語使われると不気味ですって」
まあいいよね、俺も友達のスカウトさんがどんな子か気になっていたし。
軽く親交を結んでおけば、スカウトの知り合いもいないし今後便利かもしれない。
「クスクス……だってアトゥったら、お兄さんのことをすごく自慢げに語ってたから……。とっても大胆な人だそうですね、お兄さんって」
「いやそれあの子の妄想だから」
「そうなんですか? でも普段はクールで寡黙なあの子を……あそこまで狂わせるお兄さんって……。一体何者なんだろうって、本当に気になってましたよ」
ウルカは挑戦的にのぞき見上げてきました。
年の割に大人びています。値踏みに容赦がありません。
「そりゃ、彼女は俺を兄だと思い込んでるからね……。こっちは覚えちゃいないのに」
「ふーん……アトゥにその気はないんですか?」
その容赦のない態度が、なんかとんでもない質問してくるじゃないですか。
「いやあの、なにを言ってるのか飲み込めないんですけど……」
「アトゥを女として見ていますか?」
つい、思考が止まりました。
彼女の意図がわからないです。単なる好奇心、には見えません。
「あーー……かわいいよね。でも俺たち兄妹らしいですよ?」
「クスクス……否定しておいてかわいって思ってる自覚はあるんですね。ああ良かった……じゃあ、アトゥはボクが貰ってもいいですよね……」
この子ちょっとナルシストかもしれないです。
自分で頬を抱えて赤くなって、アクアトゥスさんの姿でも妄想したのか陶酔しました。
「……はい?」
「アトゥってかわいいですよね。綺麗で、やさしくて、強くて何でも出来て、魔女みたいな魔性の魅力があって……。知ってますお兄さん……。アトゥってムダ毛なんてないんですよ……赤ちゃんみたいに綺麗な肌してて……それがお風呂のお湯で水玉を作るんです……はぁ……」
……あ、はい、理解。
これ、うん……女の子が真剣に好きなタイプの女の子だっ?!
「なるほどそれは知らなんだ。さて」
素材は欲しいけどやっぱ帰ろう。
帰ろうっていうか積極的に帰りたい、明日も来るんだし出直せばいいよね、さあ帰ろ帰ろ~!
「どこへ行くんですかお兄さん? いいえ、先生♪ 話の途中で帰っちゃイヤですよ……無視しないで下さい……」
「あ。え、うわぁー……」
腰を上げたら詰め寄られて、目を下ろしたらそこに……。
ダガーが突き付けられてましたー! ちょーウルカさんっ?!
「アトゥはボクが貰っても良いですよね……? お兄さん公認ですよね、クスクス……♪」
「あーはい、えーと……ちょっと待ってねー」
「はい、必死で考えて下さい。選択肢は無いと思いますけど……クフフフッ♪」
これって……。
はいと答えても、いいえと答えても大惨事確定じゃないですか? だって何言っても信じるとは思えないし。
なら説得? 一応、ダメ元で?
「うん、ウルカさん落ち着こう。そんなに深刻に考えてもしょうがないと思わないかな。ほら、世界はもっとシンプルに考えて力を尽くせば、それなりに動くものなんだよ~、ハハハ!」
イエスでもノーでもない新しい選択肢、口先三寸でごまかせばきっと活路が……。
「わかりました先生、ならボクもシンプルに考えますね……。つまり、刺されるか刺されないかのどっちかってことですよね」
ありませんでしたー!
あかん、この子あかん、アクアトゥスさん並みに人の話聞かねぇぇぇーっ!!
なるほどだから波長が合ったのね、納得! こりゃ無理だ!
「先生……ボク本気ですよ……?」
「そうじゃないそうじゃない、詳しい事情は知らないけどほら、誰だってさ、愛す……」
「ボルト」
説得を諦めたのでアイスボルト撃ち込みました。
氷のつぶてが彼女の細身を吹き飛ばし、うめき声とともに壁に激突します。
「……を油断すると食らっちゃうから気をつけようね。遅かったけど」
ちょっとやり過ぎました。
なのにシーフ・ウルカさんってば立ち上がって、殺る気まんまんな殺意の波動を放ち出すじゃないですか。
「やるじゃないですか先生、さすがアトゥのお兄さんです……先生は正面からじゃ殺せなそうだ……」
「とか言いながらなんで両手に武器持っちゃいますか?」
ぶっそうな曲刀が引き抜かれ、黒いダガーが逆手持ちされます。
なんかもうヤンデレってレベルじゃないところまで、うちのアクアトゥスさんを信奉しているようでした。
つまりー。
ヤバいよヤバいよ、この子超ヤバいよっ?!
「ぁぁ……でも、でもね……でもボクぅ……もう火が付いて止まらないんだ……。先生がいなくなれば……アトゥはボクのことがもっともっと大好きになるんだ……そう考えたら先生を、ボク、殺したくて殺したくて我慢出来ないよぉ……」
出会うべくして、友達になるべくして、この子とお友達になったんですね妹(仮)よ。
全て理解しました。先生全て理解しましたよ。
さすがに殺られることはないと思いますけど、それでもこの家がメチャクチャになることくらいわかります。
じゃあどうするか。
場所の変更を求めれば決闘路線が確定となるでしょう。
何より場所を移すと……。
「ぁ……」
「……おかえりアクアトゥスさん」
場所を移すと彼女という調停者が現れなくなってしまう。
ああ良かった、帰ってきてくれた。
「実はポーションの素材を切らしちゃっててね、良ければ借りたいんだけどいいかな」
シーフ・ウルカさんのことを訂正しようと思います。
慌てはしたものの、その武器のしまい込みは鮮やかなものでした。
つまり、絶対この人カタギじゃないです。
どっちかというとアサシン・ウルカさんなんじゃないでしょうか。
「ああっ兄様っ、先ほどは邪険にして申し訳ございませ……あ、ウルカ……」
「お帰りアトゥ~♪ もう遅いよぉ~、遅いもんだからお兄さんに口説かれちゃってたんだから~!」
その明らかにヤバヤバな女の子は、うちの妹さんの首根っこに抱きついて猫みたいに頬ずりを始めました。
なるほどこれぞ猫かぶり。
チラリと殺意の瞳が俺を見つめて、すぐに戻ります。
「待たせてすみませんウルカ……兄様、薬草は好きなだけお持ち下さい。私の全ては兄様のものです、どうぞ今後の研究にお役立て下さい。……どうせ修練迷宮で拾えますので」
はい、ここでまたチラッと殺し屋の瞳がこちらを威圧していました。
その目が、帰らないと殺すって言っています。
「ああそう、ありがとうアクアトゥスさん。このお礼は経営が落ち着いてからきっちり返すよ。それじゃ今日は出直すからまたね」
「そうですか……。ではまた明日、兄様と過ごせるのを心待ちにしております。兄様、重ね重ね申しますが……ウルカだけはダメですからね……?」
いやぁ……そんなこと言われましても……。
ウルカさんの方から現に襲いかかって来てますし……あーー……。
大事そうにその銀髪の少女はアサシン娘の頭を撫で撫でされて、それからやさしく胸に埋めました。
魔女とアサシン。ああ、ほんとお似合いです。
「わかったよ。アクアトゥスさんの頼みなら断れない約束する。じゃまた明日っ」
「バイバイお兄さん……。ボク、あの一撃は二度と忘れないからね……」
そう言わず忘れてよ。
てか俺こんなところであと二日も仕事すんのね、わあハゲそう。




