8-04 ウルカとアクア 1/2
教練を終えて、でもさらに教練後の自主練にも付き合って、やっとこさ今日の仕事を終えました。
事前に鍵は預かってありますので、さっと戸締まりしてもう早く帰りましょう。
最初は皆さん面白半分でしたが、驚くほどに懐かれてしまった気がします。
生徒に慕われる先生とか、明らかに俺のキャラじゃないのでどうにかしたいですこれ。
ああそんなことより大事なことが一つ。
学食の方に押し掛ければ職員用のまかないが食べれるそうです。
さらに食費が浮くことにニンマリしつつ、早めにアトリエに戻らなきゃなとそのとき思い浮かべていたのでした、が。
「ああっ本当に兄様ですっ! そんなっいらしているならお声をかけて下さいと言ってるではないですかっ! 来ましたよっ、貴方のアトゥがここにっ、来ましたよ兄様っ!」
そこにアクアトゥスさんが押し掛けて来ました。
想定はしていましたけど早いです早すぎです、どこから嗅ぎつけてきたんでしょうか。
「こんばんはアクアトゥスさん、一昨日も会った気がするけどテンション高いね」
「だって! だってこれは一大事ですよ兄様!」
「いやいや、何となく言いたいことわかるけど、この仕事もあとたった二日の話だし」
美しい銀色のツインテールとリボンを揺らして、アクアトゥスさんはピョンピョンと自己主張されました。
他生徒に見られなかったのが幸いとしか言いようのない状況です。あー、外でこれはちょっと……。
「兄様が先生になられただなんてアトゥは混乱してしまいます……。わかりました……人前では先生と呼びますので……二人だけの時はぜひ、愛しい妹アトゥとお呼び下さい!」
「うん、今まで通りアクアトゥスさんって呼ぶね」
「ああ、兄と妹というだけでも背徳なのに……まさか生徒と教師の関係になるだなんて……えへへへぇ……♪」
「……人の話聞いてないしこの子。ほらほらよだれ出てるよ、せめて公共の場では自重しようね~」
……ってあれ、この子は誰?
アクアトゥスさんにちょっと遅れて、なんかもう一人女の子が修練場にやって来ました。
「……ふん」
……ついつい気になってお互い目が合ってしまいました。
今なんか鼻で笑われた気が……。
姿は軽装布装備のシーフ系スカウトさん。
腰から黒塗りの短剣と、赤い曲刀を下ろしていて……なんとも細身でボーイッシュかわいいです。
「探したよアトゥ。なかなか小屋に戻って来ないし、一緒にゆっくりしよって約束したじゃん」
「……。ごめんなさいウルカ……兄が教師になったと聞いて……居ても立ってもいられなかったのです……」
それに対してアクアトゥスさんってば、ホントキャラがころころ変わります。
昔懐かしい寡黙な魔女が妙な新鮮味をくれました。
「ふーん……ソイツがアトゥのいつも話してるお兄さんなんだ。話すときそうやってキャラ変わるからすぐわかったよ」
スカウトさんに値踏みされてしまいました。
アクアトゥスさんの隣に親密そうに近寄って、交互に兄と妹(仮)の顔を見比べます。
「そういう君はもしかして。噂のアクアトゥスさんのお友達でしょ。スカウトさんと一緒に潜ってるって聞いてるよ」
「そ。それボク。アトゥただ一人の親友ウルカだよ、お兄~さん♪」
なんか挑発的です。
小娘に腹を立てるほど若くないですけど、アクアトゥスさんの親友と聞いては興味を惹かれないわけがないです。
妹の友達ですからそれだけでキャラも属性も立ってますので、間違いなく面白いものであるのは確かでしょう。
「アレクサントです。確かにアクアトゥスさんからは兄同然に慕われ……」
前から興味ある子だったので自己紹介をして、でも俺たちの間にアクアトゥスさんが眉をつり上げ割って入ってきました。
「兄様この子はダメですッッ!!」
「へ、ダメって何の話……」
「他の方々ならまだしも……こんな子にまで毒牙をかけるだなんて……。兄様はロリコンですッッ!!」
で、アクアトゥスさんらしくもなく怒りだして、手ひどいレッテルまで貼り付けてくるじゃないですかー。
ロリコンじゃないですよ。だって年齢も一つ違いでしょこの子も。
そりゃ、そりゃあのアトリエの現状見たら……ぁぁぁぁ……あー考えないでいこー……。
「ぇぇ~? お兄さんってロリコンなんですかぁ~?」
「違います……てか何の話ですか、なんでそうなるし……」
この子もたいがいです。
わかっててやってませんかね、こっちの顔をニヤニヤと挑発的にのぞき込んできました。
……あ、これ、小悪魔系? 小悪魔系シーフ! うん、良いキャラ。
「えーと……ウルカさんでしたか、いつもアクアトゥスさんがお世話になっています。これからも仲良くしてやって――」
「ダメです! ダメって言ったじゃないですか兄様!! ウルカもダメ……この人と話したら……大変なことになりますよ……」
もはやギャグです。
必死な形相で俺とウルカさんの会話を中断させたと思ったら、180度振り返り寡黙モードで彼女に警鐘を発しました。
「大丈夫だよアトゥ、お兄さんボクの好みじゃないから」
「や、そのセリフ人の顔見ながら言わないでくれます?」
どちらにしろこんなアクアトゥスさん初めて見ました。
よっぽどウルカさんというお友達が大切なんでしょう。
「兄様、ウルカと話しちゃダメですよ? 兄様は天然の女ったらしなのをご自覚されるべきです! ウルカも……気を付けて……兄はもう二人も囲っています……」
なるほど誤解を超濃縮したような素晴らしきお言葉です。
人前で止めて、人前で暴走だけは止めてアクアトゥスさん……。
「ははは、もうアクアトゥスさんってば。そんなピンク色の脳味噌してるのチミだけですって。……そんな気ぜんぜん無いです、おかしな感情なんて彼女に何一つわき起こりません」
「いいえっ、兄様がその気であるかどうかなんて問題じゃありませんっ! 兄様のそのたらしオーラがっ、どれだけの女性を狂わせてきたと思ってるんですかっ! ウルカだけはダメって言ってるだけですっ!」
「だからないない、そんなのないですって……ありゃ?」
がらにもなく積極的です。
アクアトゥスさんはウルカの手を握りました。
それで修練場の外へと引っ張ってゆくと、ウルカさんも逆らう理由はないとそのまま遠くなってゆくではあーりませんか。
「じゃあねお兄さん、ばいばーい♪」
「ウルカ……目を合わせてはダメです……兄様は危険人物なのです……」
「大げさだなぁ~、好みじゃないって言ってるのに」
この変わりよう、兄(仮)としては自立を喜ぶべきなんでしょうか。
これ誤解と思い込みなんですけど、よっぽどウルカさんのことが大切なんでしょうね。
そう考えるとほっこりします。
アクアトゥスさんの成長が肌で感じられてどこか安心しちゃいます。
「それでは兄様、このたびは失礼いたしました。次は正式に妹らしく媚び媚びしく、兄妹であり生徒と教師の禁断の愛を育みにまいります……! ぽっ……」
「いやぁ、そんな遠くから大声で言われても、誰かに聞かれたらヤベーとか変な冷や汗しか出ないよコレ?」
ぺこりとお辞儀して、アクアトゥスさんはウルカの手を引き立ち去っていきました。
ようやく嵐が過ぎ去り、これがうっかり呆然と立ちつくしちゃいましたよ……。
これほんと誰かに聞かれてないよね……?
「ハハハ……はぁ……。相変わらず人の話聞かないお人なんだからもう……」
いいや、報告だけしてもう帰ろう。
これ以上ここに滞在するとまた妙なことに……あ。
でもアクアトゥスさんの小屋にポーションの材料余ってないかな。
後で返す約束で譲ってもらえたりしたら助かるなぁ……。
次回挿絵あります
ただ自分ボケなので忘れるかもしれません




