54-6 写し鏡 - なんとか -
翌朝、俺たちはチンピラのシ……なんだっけ?
ショーリュー? ショーリューなんとかに案内させて、尻拭いに出かけました。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬっ、いやぁぁーっ、落ちる落ちる落ちるギャァァァーッッ!!」
レウラの背は定員いっぱいだったので、ショーリューケンさんは大鷹に捕まって巣に運ばれる野ネズミさんのごとく、鉤爪の中での空の旅となったそうです。
だってほら、レウラの方が速いし楽だし?
5分ちょっと空をさまよえば、いともあっさりと悪の根城にたどり着けました。
「ドラゴンだぁぁっ!? え、人……ぐへぇっっ?!!」
派手な登場しておいてすみません、見張りがいました。
仲間を呼ばれると面倒なので、一足先にレウラから飛び降りてやっつけました。
あ、よく考えたら魔法で狙撃した方が楽だったな……。
ほら俺、脳筋魔法使いダンプ先生の生徒だからしょうがないね。
「それじゃ村は任せたぞ、レウラ」
「キェェーッ、クルルルルッ♪」
今の面白かった、またやろう! とでも言ってるのでしょうか。
レウラはアインスさんとカーマスを下ろすと、チンピラを足で握ったまま村へと引き返してゆきました。
万一入れ違いになって村が襲われたら困るし、レウラは防衛要因です。
「あらまぁ……凄いことになっちゃってるわね」
「これが、錬金術の力……」
話によると、そこには天然のダムがあったそうです。
いわゆる山上湖です。そいつが綺麗さっぱりと消えて盆地となり、その盆地の中に石造りの遺跡が現れていました。
「どうも中に入ったくさいね。足跡が残ってるよ」
この湖を空にするために、上流の水の流れを枯渇させたかったのでしょう。
ところが俺たちが水を貯水池に運んできたことで、一帯はぬかるんだ沼地となっています。
「どうするの、旦那様?」
「行くしかないでしょ、錬金術師の遺産が関わってるなら、俺たちの名誉のために回収しないとだし。そうじゃないとしても、まあ……」
「このままでは村の人たちが困ります……」
「そういうことだね。じゃあいこう、アインスさん、カーマス」
「んふふっ、トレンデよ♪ でもカーマスって呼んでくれると、アタシ最近ちょっと嬉しく感じるようになってきたわ♪」
聞いてねーしそんなの。
そういうわけで、俺たちは悪党を追って水浸しの遺跡に入りました。
迷宮探索とはまた趣が異なります。
モンスターはいません。石造りの地下通路を進んでは、水が流れ込んで水没している場所を乾きの水筒で干しました。
たくさんの足跡があります。大きな何かを引きずった後も見つかりました。
「不謹慎、ですが……ドキドキします。私は今、ご主人様と、冒険しているんですね……」
「あらぁ……♪」
あとオカマが邪魔ったい。いちいち反応しなくていいから……。
「なんか不思議な場所だよね。迷宮ではなくて、これは遺跡だね。どこの誰が残したか知らないけど、冒険心が刺激されるね」
「はい、憧れでした……! 帰ったら、ダリル様に話します!」
「本当にかわいいわ……♪ あら、ここに見慣れない文字があるわね……」
カーマスの指を追うと、見慣れた文字がありました。
うん、[関係者以外立ち入り禁止]って日本語で書かれています。
「見たことない文字だね」
「……ご主人様?」
話が面倒になるのでしらばっくれると、アインスさんが疑いの目を向けてきました。
だてに俺を見ていません。でも説明が面倒なので、さらにしらばっくれました。
関係者以外立ち入り禁止。そんなフレーズあっちの世界じゃありふれていました。
多くの人々を水涸れで苦しめてまで、手に入れたい物がこの先にある。そしてそれは、地球側の何かのようでした。
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「よっ、髪型変えた?」
追い付きました。月並みな挨拶で悪党どもに声をかけると、彼らは現れるはずのない侵入者に驚いて固まったようです。
「変な子ね……」
「ご主人様、皆さん、戸惑っているようです」
「だ、誰だっ、お前らっ!?」
時代劇が殺陣に入る前って、こういう効果音はいるよね。
次々と剣が引き抜かれ、それが俺たちに向けられたようです。
剣士カーマスが俺たちの前に立ってくれました。
チンピラ集団の中に、一人だけ若く小綺麗な男が立っています。
それはマナ先生が好きそうな、陰のある美形でした。
「報告にあった錬金術師か……シュリューのやつ、失敗したか」
さらに付け加えるならば、そいつらはバカでかい水瓶を5人がかりで運んでいました。
あれが渇きの水瓶? うわ、使いにくそ……。
「誰それ?」
「自分を襲った男の名前をよく忘れられるわね……」
「魔侯アレクサント、お前の噂は聞いている」
「そういうおたくは?」
「俺もまた錬金術師だ。見ろ、この乾きの釜は、私が20年の歳月と、総額400万zを費やして作った最高傑作だ!」
「へーー……」
ご予算4万の納期半日で作ったと言っても、これは信じてもらえなそうです。
そこは黙っておこう。
「しかしはぐれ錬金術師とは珍しいね。俺が言えたことじゃないけど。あ、それどこで教わったの?」
「見よう見まねだ。やってみたらできてしまった口だ」
「それわかるー」
「……はい」
思っていたより話が通じそうでした。
だから逆に困りました。コイツは黒です。我欲のために錬金術を使う人種でした。
「魔侯よ、俺と手を組もう。この遺跡最深部隠された秘宝は、時空を越える力を持っているらしい。それさえ手に入れば……」
憂いのある錬金術師が何かを思い詰めました。
その姿を見ているとなんか尻がゾワゾワしてきます。
「俺たちは地球に帰れるんだ……。わかってるんだ、実はお前もそうなんだろ……」
「あらヤダ、恥丘ですって、んほほほっ♪」
「いやらしい……」
やべー、下品なオカマのせいでシリアスな空気が台無しじゃん。
地球って言葉を使うあたり、コイツはもう一つの意味でも俺のお仲間だったわけか。
「確かに恥丘に帰りたいって、凄い表現だよな……」
「ごまかすな! お前の正体は転生者だろう! 隠さなくてもわかる、俺もそうだからだ!」
「えー、恥丘仲間にされるのはちょっと……」
「なぜなら! 錬金術の才能は、転生者の血族か、生まれが地球であることが条件なのだからな!」
聞いてもいないのにいきなり持論を語り出すやつに、ろくな人間がいないの法則。なんかダメっぽいな、コイツ。
その持論は、うちのアインスさんと矛盾しています。
「なんとか言え!!」
「なんとか」
「んなっ……お、おお、俺をバカにしているだろう貴様ァッ?!」
「ああごめん、知り合いにちょっと似てるからつい。でもさ、地球に帰るっていうのは、絶対に止めた方がいい」
地球に帰りたい。あっちの世界に戻りたい。
その一心でこの男は道を踏み外してきたようです。それに対して、偉そうに説教できる立場じゃないよな。
「それは……それはどういうことだ……?」
「きっと俺たちの知る場所ではなくなっているからだよ。というか、こちらの記憶を持っている君が、あっちに戻るのも超まずい」
俺は簡単にだけ、向こう側の真実を彼に語りました。
カーマスとアインスさんには一度も目を向けず、一応の元同胞に誠意を尽くしました。
2巻発売記念に、前回同様に書き下ろしSSを公開する予定です。
まだ用意していません。これから作ります。2巻ともども楽しみにしていて下さい。
ついに来週、4月30日に発売します。




