7-03 クレイゴーレムを作ろう、ついでにお嬢をかけて 2/2 (挿絵あり
「しまったうま過ぎて無心で食ってたじゃん! てかお嬢食べ過ぎ!」
「だってこんなの食べたことなかったんだもんっ、ビックリするくらい甘いし、味確かめてたら消えてただけっ」
「それでは、店番に戻り、ます。新しいお皿、用意、しておきます……」
はい撤収撤収、調合に戻りましょう。
もう一度エルフ娘と一緒に錬金釜を囲みます。
またあの基本素材で釜に浅い水かさを作って、さてどうしよう……。
「ポーション入れてみようか。ゴーレムだけど人造生命の製造なわけだし、ポーションの回復効果で上手くいくかもしれない」
「あ、じゃあ店から取ってくるね、待っててアレクっ」
はて、お嬢ってばまたグミが食べれるんじゃないかと期待してやいないでしょうか。
これまた機嫌の良い笑顔を浮かべて笑いました。
でまあ金髪揺らして胸揺らさず。すぐにポーションを10本ほど持って駆け戻って来てくれたのでした。
「次の土はこれにしよう、名付けて由緒正しき聖堂の土! ま、勝手に盗んできたやつだけど」
「なにやってんのよ……」
「だっていちいち下さいとか言っても超不審者じゃん」
「まあそれはそうだけど……。で、どう?」
ポーション1本、聖堂の土、最後に聖銀砂を釜に流し込んでせっせとかき混ぜます。
……さてさてどうだろう。お、きたよ、何かきたよ。
「……あ」
「わきゃっ?!!」
ダメでした。また白煙立てて爆発しました。
お嬢にアナウンス出す前に、まあでも俺はちゃっかり顔を覆ったので大丈夫です。
……お嬢はまたひっくり返っちゃったみたいですね、再パンチラです、やったー。色気ないなーお嬢ってばー。
「失敗するなら一言くらい言いなさいよっ、びっくりするじゃない!! はぁぁぁ……心臓まだドキドキいってるぅぅ……」
「ごめんお嬢、なにせ量が少ないから気づいた瞬間に爆発するみたいだ」
「はぁ……もう本当にビックリしたんだから……あ、グミまた出来たね。これも美味しそう……」
ポーションを多めに入れたせいか、今度のグミは薄緑色です。
ああ、なんかこの身体に悪そうな色合いが良い、無性に懐かしさを覚えてしまいますよ。
「アーーィンスァァンッ!」
「はい、待っておりました、お皿は、こちらです」
やった、もう皿持ってそこにいました。
また三人一緒に綺麗で美味しいグミをいただきます。
いや飽きない飽きない、甘味甘味、さっきのより甘みが鮮烈です。
「うーん、しかしなにがダメなんだろ……」
「材料間違ってたりはしないの?」
へこたれてもしょうがない、もう一度実験再開です。
アインスさんもまた撤収、どうも仕事の手が空いてしまったのか台所でカチャカチャ洗い物を始めたみたいです。
「合ってる。じゃなければ別の何かしらが出来るはずだし……手応えはあるんだ。でも成功する前に爆発してグミになるみたいだね。アクアトゥスさんが言うには、その土地のここぞという土が必要らしいから……土の問題?」
「なら色々試してみたらいいじゃない、失敗したらまた食べれるし」
いえ、グミの恐ろしさってこれなんです。
あまりに甘美な味わいが反省の心を消し去ってしまうのです。
まさに悪魔の罠、錬金術は食欲との戦いです。……わりとマジで。
「いろいろやってみようか」
「うん、がんばったついでにお菓子食べれるならお得だよ」
お嬢ってばやっぱりお菓子に目がくらんでます。
とはいえ試行錯誤して糸口を見つけるしかありません。
そう決めて爆発覚悟でどんどん調合していくことにしました。
ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!
もぐもぐ……。
もぐもぐもぐもぐ……ああ美味しいけど失敗、悔しい、難しい。
配合バランスを変えてもダメ。
なら別の土で試してみるしかない。
肥沃な農園のもの……ダメ。
肥料用の腐葉土……ダメ。
塗料や肥料用の石灰岩、ダメ。
粒の粗い川砂……ソレっぽいの全部混ぜっ、ダメッダメッ!
ダメだけどここである事実が判明しました。
とある一定のバランスで素材を組み合わせると……グミの総量と味が上等になる素敵レシピが判明!!
いや、だからなんだっていう……。
「う……もう食べれない……」
「ハハハ、保存庫に入りきらんくらい出来たしー……てか、あれ……?」
しまった、次で聖銀砂がなくなるじゃないですか。
ポーションもかなり使い込んじゃいましたし、中和剤やらのベース素材もタダじゃないです、メチャ目減りしてます。
これがグミの魔力か……恐ろしい……。
「お嬢、次がラスト。銀砂が切れる」
「そうなんだ……。あ、じゃあ妹さんをここに呼ぶとか……?」
「いいや使い切る。アカシャの家にいけばついでに銀砂も手に入るから、悔しいしやり切るよ」
まずあらためて周囲を見回して今ある素材を確認しました。
とっちらかってます。これは後片付けがめんどくさいです。
それだけあって失敗はなお許されません。
失意のままこれを片付けるだなんて吐き気を覚えるくらい気分が悪いです。
なにせただでさえダリルとの杖作りで散財しているのです。
アトリエの経営を考えるとこれ以上の無理は理想的ではありません。
「アレクなのに真剣な顔……。そんなに……あたしが欲しいのかな……」
……なぜ失敗するんでしょう。
問題は……そう、やはりレシピそのものは間違っていません。
添加物のポーションも入れて正解。
売らずに一本だけヘソクリしておいたエーテルを少し投入したところ、こちらも錬金の安定性を上げてくれています。
つまりポーションとエーテルには爆発失敗を抑制する効果があるのです。
……やはり土です。
しかしここにあるどの土でもダメだったのです。
つまり今あるここの素材じゃどうやっても成功しない。もっと別の種類の土なんだと思います。
「ご主人、様、こちらを」
そこにアインスさんが現れました。
何かと思えば両手をこちらに差し出すじゃないですか。
よく見ればこれも土です。
どこから拾ってきたのかはわからないですが、全く新しい土であることは確かです。
ダメ元で彼女のこの直感に頼るのも手かもしれない。これってどこのでしょうか。
「裏庭の、土です」
「って、裏庭かよっ!」
「アレク、アインスにはやさしくしないとダメ。がんばって持って来てくれたのよ、むしろ感謝しなさいよっ」
アインスさんって結構人に好かれるんです。
悪意のない子ですから、お嬢も変に肩を持ち始めています。
でもそんなどこの馬の骨かもわからない野郎と、うちの貴重な聖銀砂を一緒にするだなんて……。
「いやそんな。そんなそのへんの土とか使っても……マジでこれ、何の変哲もない気がするよ」
まあ不誠実にするのも悪いですし、アインスさんの手のひら汚すその土くれを一応じっくり観察してみます。
シットリしてて粘度があって……どっちかというと泥団子遊び向けっていうか……まあいいか。
「ま。他にものがないんだしいいか、ダメ元だよね。さっきのグミ美味しかったし、ならいっそあのたくさん出来るバランスで作ってみようか」
「はい、とても、良い考えです、素晴らしい、です」
これで最後、持てる力の限り釜ごと吹っ飛ぶくらい魔力込めてみよう。
結果はどうあれ、失敗してもそれなら多少スッキリするし。
「じゃ、二人とも離れて。次は尻餅くらいじゃ済まないかも」
「嫌」
あれ、せっかく警告したのにお嬢ったら頑固です。
「いや嫌とかじゃなくて危ないから……」
「それはアレクも一緒でしょ。ならあたしを吹っ飛ばさないように、全身全霊でがんばりなさいよっ!」
「ははは、そう来たか……さすがお嬢。よしその覚悟に乗った、さあいくよ」
お嬢ってば面白いこと言います。
理屈からすると根性論だけど、おかげで覚悟とか緊張感は無限大です。
こうしてアインスさんの手より裏庭の土が釜へと投入され、俺は気力の限り調合に没頭することにしました。
今回はやり方も変えます。
釜の帯びる魔力をあえて圧縮して、爆発覚悟で蒸発や外気の影響を抑制していきます。
杖が釜底をガリガリと擦り、圧力を持った釜は重くそれにからみ付きます。
その様子をアトリエの誰もが固唾を飲んで見守ってくれていました。
手応えがあります。安定しています。順調に釜が煮詰まっていきます。
失敗か成功か、その瀬戸際まで調合が進んでいきました。
「さてさて……それじゃいくよ」
「う、うん……。えっと……アレクがんばって……!」
がんばるといってもここまで出来たら仕上げるだけです。
ダリルの杖で釜の底をコンと叩きました。
すると琥珀色の淡い光が釜よりあふれて、俺とお嬢の瞳をキラキラと輝かせます。
少しずつそれは光量を上げていき、ついに俺たちはまぶたを閉じて顔を覆わずにはいられなくなったのでした。
・
「なによこれ……」
ふぅ……光が収まるとそこに変なものが出来上がってました。
成功か失敗かで言えば、成功です。たぶん。
「うん、なんか思ってたのと違うけど……成功?」
「う、動いてるよ……?」
「おめでとう、ございます、ご主人様」
クレイゴーレムの完成です! おめでとう!
……ただし素材切れにつき手のひらサイズとなりましたが。まあそこはいいんです、そこは。
「なんか不思議……」
「うん、謎生物っすな、でもこれはこれで悪くないね」
見た感じ大人しいです。
釜の底でモゾモゾと土くれの塊がうごめいてます。
ゴーレムっていうよりアースマン。
アースマンと呼ぶよりクレイ・スライムと呼んだ合ってる気がします。
足が無くて、手はあるけど短くて、ざっくり言うとうん、動く盛り土。
ちょっと泥っぽくて、ズモモモモ……と不定形に動いていらっしゃいます。
「なんかちっちゃくてかわいいかも」
お嬢が釜に指を伸ばすと、クレイゴーレムは嬉しそうに擦り寄って来ました。
「あっこの子、結構なつっこいよ。ほらアレクっ、手に乗っちゃった、あははっ♪」
「自分で作っておいてなんだけど、メチャクチャ生きてるねこれ……ってお嬢、なにしてますか?」
ロリエルフさんが釜からミニゴーレムさんを取り出しました。
それから農園の土が入った木バケツにその子を移してみたようです。
これが面白いもので、理科の実験で作るスライムみたいに、釜にもお嬢の手のひらにも土汚れがくっつきません。
つまりこの土丸ごと一つがクレイゴーレム。いや、泥スライムという生物のようです。
「うん、思った通り嬉しそうだよアレクっ、かわいいっ!」
「いやぁ最後の部分は微妙に同意しかねるけど、でもまあかわいいと言えばかわいいかなぁ……」
泥スライムさんはズモモモと嬉しそうにうごめいて……おおぅ。
土をその短い両手で持ち上げてモソモソ食べ始めたじゃないですか……。
「なんじゃこの生き物……ゴーレムっていうよりこれ……。あ、ペットだこれ」
「じゃああたしが名前付けるねっ、この子の名前は…………うん、ドロポン!」
「や、ナニソレ」
こうして莫大な予算をかけたクレイゴーレムは、かわいいペットドロポンとして我がアトリエのバケツの中で飼育されることになったのでした。




