XX-XX 歩むはずだった本当の正史 - 公都陥落 -
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最終章・外典 黒の錬金術師
歩むはずだった本当の正史 アインス・ガフの物語
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わたくしの名前はアインス・ガフ……
黒の錬金術師アレクサントの旅路を記す、この物語の語り部でございます……。
わたくしは主人の全てを知っています。
本当のアインス・ガフと、本当のアレクサントが持つ記憶の全てを。
物語のアレクサントは、絶体絶命の窮地を幾度となく切り抜けてまいりました。
あの時起きた、ヒルデガルド連邦によるポロン公国侵略事件はその集大成でございます。
彼は仲間を一人も失わずに、その先に続く未来を勝ち取ったのでございました。
これは外典。正史とされることのない、偽りの物語。
昔々……世界を騙した愚か者がおりました……。
彼の名はアレクサント。わたくしアインス・ガフだった者の主人でございます……。
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XX-XX 歩むはずだった本当の正史 - 公都陥落 -
アルフレッドの母国、東の強国ヒルデガルド連邦がある日、突如として公国への侵略を開始しました。
これに対処するために俺とお嬢、それにアクアトゥスさんでレウラの背にまたがって、事態の把握と停戦交渉のために東に旅立ちました。
その先で俺たちは包囲を受ける帝都にたどり着き、敵を蹴散らして皇帝陛下を救った。
事件の背後に、人間の社会に巣くう怪物がいることに気づき、古なる者のうち1体を発見、これを破壊した。
そこまでは良かったのです。ですがやつらは止まりませんでした。
帝都を襲った個体と、ポロン公国を襲った個体は、別の群れだったという悪夢のような誤算が発生したためです。
俺たちは急報を受けて、公都を守るために飛び戻ることになりました。
しかし……その頃にはもう全てが遅かったのです。
包囲を受ける公城に、アトゥとお嬢と共にレウラの翼から降りた頃には、とうに俺の黄金時代は終わっていました。
「よくぞ帰って来て下さいました、アレクサンドロス殿……」
「これはこれはバロン公子様、わざわざお出迎えありがとうございます。ん、どうかしましたか?」
空中庭園に降りると、お世継ぎのバロン公子が飛び込んできました。
長身美形の次期大公、俺より4つも年上の彼にはなぜか一目置かれていました。
「アレクサンドロス殿、貴方たちにお伝えしなければならないことがあります……」
重々しく悲しげな彼の様子と落城寸前の城壁、国境要塞からここまで続く戦いの傷跡が、俺たちに不幸を悟らせました。
そして俺の黄金時代が終わりを彼が告げたのです。
「アルブネア殿と、アシュリー殿が戦死なさいました……」
アルフレッドとアシュリーが死んだ。俺は仲間を守り抜くことができなかった。
アシュリーとアルフレッドのいない世界を、俺たちはこれから生きていかなければならない……。
「死んだ……」
「う、嘘よッ、そんなの……あの2人がそんな……ッ、嘘でしょ……」
「あ、兄様っ、お気を確かにっ!」
情けないことにアクアトゥスさんに俺は抱き支えられていました。
全身に力が入らない。男の身体は重いだろうに、アクアトゥスさんは俺を今も支えてくれている。
「残念ながら事実です。両名とも敵の強行突破から我々を守るため、勇猛果敢に……ああ、そうでした、あの恩師ダンプ殿もまた、その少し前に……」
バロン公子の言葉はトドメも同然だった。
アクアトゥスさんも悲しみのあまり、俺と一緒に膝を突いて崩れ落ちていた。
「そんな嘘だろ……あいつらが死ぬわけ、雑魚になんか負けるわけが、ないだろ……」
ダンプ先生は俺を息子と言ってくれました。
あのやさしい奥さんと家族たちに、俺は何て言えばいい……。
お嬢が俺たちの間に入って、その小さい身体で両方を抱き寄せてくれた。
みんなをこっそり不老に変えてしまおうって、お嬢と約束したのに……。
「アレクサンドロス殿、すみません、作戦の報告をお願いできますか……?」
「成功だ……。こちらの読み通り、皇帝に戦意はなかった……。こいつらは、別の古なる者が同時決起でもたらした、ただの反乱軍だ……。皇帝は直々に、敵軍の後ろを突くと約束してくれたよ……」
後はどうにかしのぎながら援軍を待つだけでいい。
「それは良かった……。実は貴方が旅立たれた後、フェルドラムズ殿が警告と援護をして下さいました。市街に被害は出ますが、このまま防戦に徹すれば、もう10日は守り抜けるかと思います」
「なら俺の仕事はおしまいだな……。後で報酬を、きっちりもらうからな……バロン公子」
「アレク、しっかりして……まだあたしたちがいるわ。あたしたちはアレクの前からいなくならないから……!」
信じられない、こんなことになるなんて……。
お嬢にいくら励まされても、俺とアクアトゥスさんの悲しみは癒えなかった。
お嬢だって辛いはずなのに小さい身体で、俺たちのことを守ろうとしてくれていた……。
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それから数日間、俺は錬金釜をかき混ぜて過ごした。
昼は城壁の上から攻撃魔法を放ち、夜は前線を支援するために薬を作り続けた。
大公様とバロン公子が、抜け殻となりかけた俺に破格の報酬を提示したからだ……。
けれども……3日目の夜になると、終わりの時が訪れた。
これ以上、誰も失わないと決めたのに新しいバッドエンドを突きつけられたんだ……。
「ご主人様……ご主人様……」
いつ寝て、働いていたのか、それすらもうわからない。
だけどそんなの俺だけじゃない、みんなが長引く籠城と敵の攻撃に疲弊していました。
「ご主人様、起きてください……」
「ん……なんだ、また寝てたか……。そうだな、仕事をして、大公様たちにもっと貸しを作らないとな……」
深夜遅く、俺はアインスさんにゆすり起こされました。
疲労と喪失感がありとあらゆる感性を麻痺させて、俺にやらなければならないことをしいました。
「もう……無理をする、必要、ありません……」
「そうはいかない、稼ぎ時だ……」
だけどどんなにがんばっても、俺を先輩と呼んで慕ってくれる猫毛の女の子も、俺に説教ばかりする赤毛の子爵も、息子と呼んでくれた人も帰ってこない。
悪夢の中に迷い込んだ気持ちになって、けれどもそれは覚めず、現実を知るたびに俺は絶望していた……。
「アインスさん……?」
「はい……」
だが苦しみ苦しみ抜く俺の姿は、それ以上に彼女を傷つけていたのだろう。
アインスさんは俺が起きるのを確認すると、歩いて、錬金釜を背に立ちました。
ここは公城の空中庭園の一角、そこにある石造りの休憩所の中でした。
「え……アインス、さん……?」
蒸気の上がる錬金釜、彼女はそれを背にただ立っている。
悲しそうに、心より何かを悔やんで、決心の眼差しを俺に向けている。
ようやく頭の想像力が働くと、俺の背筋にゾクリと絶望の怖気が走りました。
「今日までたくさん、ありがとう、ございます……、でも、ごめんなさい、やっぱり私……ッ、生きてちゃ、いけなかった……」
「何言ってんの、ソレ、冗談きついって……アインスさん……?」
その言葉は俺たちが彼女に絶対言わせたくない言葉でした。
生きてていけない人間がいるわけない。アインスさんがそれを言ったら、俺たちの負けなのです……。
「待って、アインスさんは、何をするつもり……。まさか……」
俺はこれを知っている。俺はこれを前に一度やっている。俺はあの幼い頃のアトゥ前で、俺は……。
その時、絶望と罪悪感に染まっていたアインスさんが、急に嬉しそうに笑いました。
「私幸せでした。でも、私なんかのために、これ以上、あなたの大切な人を、死なせたくない……。だからこうします。かつてのご主人様が、したことと、全く同じ事を。世界に、アインス・ガフは、必要ありません……」
そんなのバッドエンドの上塗りです。
これ以上状況を悪くしてどうする、俺は身じろぎもできずにアインスさんを見つめました。
下手に刺激したら、彼女はあの頃の俺と全く同じ、最低の解決方法を選ぶ……。
「何言ってるんだ、アインスさんだけ溶けても意味がないんだ! 俺も狙われているっ、いやほとんど全部っ俺のせいなんだ!」
「もう堪えられません……貴方のやさしさに甘えるのも、皆さんを犠牲にするのも、もう何もかも……。だから終わらせます。アインス・ガフという、戦いの引き金をここで終わりに」
「待ってアインスさんッ、そんなのやっぱりダメだッ!! 何にも解決してないッ、何も良くならない、頼むッ、バッドエンドの上塗りは止めてくれ!!」
「次に生まれる私を、私をホムンクルスに変えて下さい、そうしたら、寂しがりのあなたと、永遠に、一緒にいられる……これが、最適解です……」
アインスさんは最初からそのつもりだった。
錬金釜の隣に積み上げた本を足場にして、俺を見つめたまま後ずさり、足場を登って、釜の中に身を投げようとした。
「ダメだ! そんな結末は許されないッ、ダメだアインスさんッッ!!」
「ありがとう、これからは、ずっと一緒、新しい私を、大切にして……」
飛び込むように俺はアインスさんに駆け寄った。
だけど、届かなかった……錬金釜に溶けたいと望んだ錬金術師は、釜の中の虚無へと消えた。
「ッッ……うっ、うああああああッッ?!」
その時俺は、取り返せないくらいならば共に溶けたいと願ったのだろうか……。
アインス・ガフと、錬金術師アレクサントの右腕は、錬金釜へと溶けて1つへと混じり合っていた。
週明けに短編を投稿しました。
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