6-02 ミスリルインゴッドを強化しよう(挿絵あり
さあ錬金パートの始まり始まりです。
店はアインスさんに任せて、ダリルと錬金釜を囲みました。
「で、今なに入れてるの?」
「中和剤。そこのバケツとって、薄めるから」
「ほいほいっ、ダリルちゃんにまかせなさいっ、どばーっ!」
「わーこら、静かに入れないと跳ねるじゃん」
今回は強化合成、ダリルのミスリルインゴットを錬金術で鍛えます。
出来上がったら強化ミスリル銀とでも名付けましょう。
「ごめんごめっ、なんか楽しくなって来ちゃって♪ お、それはなに?」
「うちのポーション。なんか知らないけど強化合成に使うみたい。……結構大量に」
「うっわ……ちょ、そんなに入れるの……っ? うわぁぁぁ……なんかもったいない光景だぁ……」
そう都合の良い話あるわけないです。
強化合成にはポーションどばどば消費するので、これで商売するよかおとなしくこっちだけ売った方が良かったりします。
でも今回のこれは楽しい趣味なので妥協は絶対しません。
尻込みしたら負けだーっ、ドバーーーッ!
「気持ちはわかるけどやるからにはこれくらいしなきゃ。あ、これ増強剤ね、材料は秘密、ダリルは確実に嫌いって答える系」
「そんなのと私のかわいいミスリルちゃん混ぜちゃうんだ……。うわー、アレックスってば悪趣味、鬼畜」
混ぜていくとポーション色に……つまりサファイアカラーに釜の中がキラキラ輝きます。
杖からの魔力が液体を加熱し、フツフツと沸騰が始まりかけていました。
「大事に抱え込んでなくていいからそれ入れていいよ。跳ねるから慎重にね」
「ああ、うん……でも今さらだけどさ? 金属こん中に入れて何がどうなるの? まいっかっ、ちょいっとっっ」
そこにミスリルインゴットが投入されます。
うん、文字通り投入。ダリルのやつ、あれだけ言ったのに投げ入れやがりましたよ……。
「ああこら、跳ねるから止めてって言ったじゃん……。ダリルは可愛いんだからもうちょっと落ち着きを覚えなよ……」
「むっふっふ~っ、ごめんごめん忘れちった♪ ん、今なんか言った? って、おお~~~っっ?!」
早速綺麗に溶けました。
ミスリルは青みがかった白銀の金属なのですが、それが釜の中身と混ざり合って液体の色合いを薄水色に変えました。
「ええええ……あ、跡形もないよ……? 溶けたのこれ?」
「うん、そういうものだし大丈夫。消えたわけじゃないよちゃんと混ざってる」
「……ごめ、私アレックスがなに言ってるかわかんない……鍛冶職人の常識と今の光景が頭の中で戦ってるから……」
正当派職人からすればそれもごもっとも。
でもそんなに深く考える必要ない。
錬金術ってこういうもので、理屈とか考えても切りがない。むしろ直感でいかないと。
「じゃ、これに添加物……合成素材を加えるよ。ちょうど今手元にあるやつで使えそうなのが……アレ」
ダリルの顔の前に手のひら伸ばして、気を引いてから机の上を指さした。
アインスさんに準備しておいてもらったもろもろを。
「コレ?」
「うん、これが悪鬼の玉鋼。オーガロードからドロップしたやつ。こっちが聖銀砂、この前マナ先生に手伝ってもらったやつ。後は……これまでの迷宮探索で拾った小物。これがゴブリンの爪で、こっちがオーガの角……あとは……覚えてないな。……どれ入れようか?」
長い説明の後に、投げっぱなしな問いかけを向けるとダリルがいつものジト目で俺を見た。
「そこ何で私に聞くし……どれがどんな効果なのよ……」
「知らない」
「……あのね、アレックスくん。知らないってことはないでしょ」
「いや知らない、でもどれもモンスターからドロップしたものだからそれなりの効果があるんじゃないかな」
ダリルの頭の中で、また職人の常識とこの光景が二律背反。
でもやっとこさ真面目に考えるだけムダ、という錬金術の常識に気づいたようだ。
「もう意味わかんないんですけど……なにこれ変なの……。あーーじゃあ、やっぱ金属と混ぜるならこれでいいんじゃない……?」
「うん、ダリルは良いカンしてるね。それが一番レアだよ」
彼女が最初に選んだのは悪鬼の玉鋼。
出し惜しみしてもしょうがないので、握り拳大のそれを丸ごと釜に落とし入れた。
「うわ……。はぁ……それで次にレアなのはどれー?」
迷いが無さ過ぎでまた呆れられたみたいだ。
「聖銀砂、ヒーラーたちの装備に使われるものだからまず間違いないと思う」
「おっけー、どんくらい入れちゃう?」
バカらしくなったのか諦めて、ダリルは代わりに銀砂の袋を抱えてくれた。
「うん、ざざっと……ソレだけはマナ先生の協力がないと採れないから、その……控えめにお願いします……」
「そっか、ならこんなもんだね。さらさら~~っと」
釜の中の水色がまた薄くなった気がします。
玉鋼と聖銀砂を飲み込んだ液体は、次第に青色を失い白くキラキラと輝いていきました。
「こんなもんでいいかな。たぶん」
後は煮詰めてポンっとするだけです。
杖に両手をかけて攪拌の速度を上げて、魔力の方も徐々に力強く増やしていきました。
「ふーん……じゃっあとはダリルちゃん特製の……うちの猫の毛玉っ、ぽいっ!」
「え、毛玉っ?! ……わっこらっ、なに勝手に入れてんのチミぃっ?!」
なんかフワっとしたものが釜に消えたかと思ったら毛玉でした。
いやなにそれ、最高の杖作りに猫の毛玉とかなにそれ! 変なの入れんなよっ?!
「いやいやこれが工房でもなかなか好評なんだな~♪」
「……俺が言うのもなんだけど、ダリルんとこの工房って大丈夫? 今のでだいぶ印象変わったなぁぁ……?」
あーともかく混ざっちゃったものはしょうがない。
もういいやさっさと完成させちゃおう!
かき回してかき回して、水かさが半分になったところでポンッと蒸気が上がる。それと同時に……。
「ひゃぁっ?!」
「ふぉっまぶしっっ?!!」
なんか派手なエフェクトがピカーンと室内を青光で満たしました。
しばしばする目で釜の底をのぞいてみれば、ダリルの持ってきたのと同じ形状の金属塊、強化ミスリルインゴットが完成していました。
「ふぁぁぁ……。すっご……なにこれマジックじゃん……。う、うっわぁぁぁ……すご、なにこれ……わぁぁ……っ」
ダリルが釜の底から成果物を拾い上げました。
最初持ってきた時には青みがかかった銀色だったのに、今や混ぜものの影響か透き通るような白銀色に変わっています。
「成功だね。あれだけポーション突っ込んだんだから、成功してくれなかったら困っちゃうけど。で、それどう?」
「…………」
いや、こういうのはいざ加工してみないとわからないのかな。
ダリルは神妙な顔でしげしげとインゴットとにらめっこを続けています。
「錬金術って……」
「ん、なに?」
低い声でボソっとなにかつぶやきました。
「錬金術って……すんッッッッ………………げーーっっ!!」
そんで白銀色のインゴットを頭上に掲げて、デデデーンッ! と、まるでお宝であるかのように大歓喜されました。
「よっし帰る! もう今すぐこれを加工したくて止まらないっ! 親方にも見せてあげたいよっ!」
「うん、ダリルがお気に召したようなら何よりだよ」
これだけ喜んでくれるってことは、きっとすごい結果になったんだろう。
モノはただの金属塊なのでなかなか実感しにくいけれど。
「うん、気に入ったも気に入ったよ! アレックスくんってば天才じゃないっ、やばいっ、マジでキミうちの工房に欲しいんですけどっ! ああああっもう我慢できないっ、打ちたいっ、これ打ちたいっ、打って打って打ちまくりたいよぉっ! 待っててねアレックスっ、すぐにっ、すぐに親方とすごいのっっ、仕上げてくるからっっ!!」
……あ、それでダリルなんですけど。
それだけまくし立てると、強化ミスリルインゴットを頭上に抱えたままダッシュで帰っていきました。
なにその喜びよう、なにその嬉しいお言葉、ダリルって……職人肌過ぎる気もしますけど、なんかかわいい気もしてきました。
はい、俺の中で急激に彼女への好感度が上がっています。
杖作ってもらってるからって現金なもんですね、なにせタダに弱い性分なのでしょうがないです。
・
…………。
……。
それからしばらく待つことになりました。
でも鍛冶仕事として考慮してみると、これが驚くほどの早さでした。
「出来たよっ出来たよっアレックス! このダリルちゃんと親方渾身の一本を見ておくんなせぃーっ! どやーーっっ!!」
日が落ちるとダリルが帰ってったときの要領で、頭上に両手杖抱えて戻って来ました。
そんでそれを俺に押し渡して、しょうがないから俺も……デデデーンッ! と掲げてから杖を確認します。
「うん、いいね」
「でしょ! 我ながらこれは……っ、これは……っ、これはぁぁぁぁーっっ!! 力作だよっ、私と親方ってもしかし天才じゃないっ?! こんな、こんなすごいミスリル作ってくれてありがとうアレックスっっ!!」
どこまでも白く透き通った白銀の杖。
その先端に小粒ではあるが瞳を持った闇色のオーブ。
師弟そろって凝り性なのかなかなかに杖の意匠も細かく、彼女の成長と汗臭い情熱がこれでもかと伝わってくる。
「おめでとう、ございます、ダリル様……」
「ありがとっアインスちゃんっ! 私っ、やったよっやったよーっ!」
アインスの両手を握ってブンブン振り回す。もちろんダリルが。
「テンションたっけーよ……」
でも確かにそれだけすごいものだと思う。
うん、これすごい。
ああうん、すっごいピーキーとも言えちゃう。
「いいね、ちょっと油断したら前衛ごと焼き払いそうだ。早く使いたいな、今から一緒にギルド行って、明日あたり迷宮でドカーンってやってみる? ダリルももちろん来るよね」
「行く! 私らの合作っ、どんなもんだかちゃ~んと見届けないと仕事なんて手につかないよっ!! はぁぁぁ待ち遠しいなぁっ、早くいこっ、今夜すぐの仕事とかあるかもよっ!」
気づけば俺まで杖に夢中になっていました。
確かに扱いにくい杖だという実感はありましたが、強化合成の影響か杖本体の制御力が大幅向上しているようです。
それに悪鬼の玉鋼の影響なのでしょうか。
もしかしたら軽くどつくだけでも敵倒せそう……ああはよ使いたい……街中でぶっ放したら迷惑だしなぁ……。
ならさあ行こう。ギルドに行こう。そうしよう。
俺たちは肩を組んで店を出ようとしました。
「いらっしゃい、ませ」
「…………」
でもその日のイベントは、決してそれだけで終わりになりませんでした。
事件が起こりました。
カランとアトリエの扉が鳴って、俺とダリルの前に……彼女が現れたのです。
「…………」
いいえ。帰ってきたのです。
「……。なによ……なんなのよコレ……っ。ッッ……!!」
怒ってました。
店に入る前からその人は怒っていました。
両手をギュッと握り締めて服のすそを握り、それから悔しそうに涙を浮かべて俺を睨みました。
「なんでアタシに内緒でアトリエなんて作ったのっ!! こんなの……こんなの許せないっ、なによこれっ!! アレクのくせにっ、アレクのくせにっ、アタシの先を行くだなんて……絶対絶対許さないっ、許さないんだからぁッッ!!」
ははは……ああ、懐かしいなぁ……。
そんなに怒らなくてもいいじゃないか、余計に胸が熱くなるよ。
「……お帰り」
なんかそういう気分なのでやさしく声をかけていたようです。
「ぁ……」
そうすると彼女も言葉にならない声を上げて、怒りの形相をやわらげてゆくようでした。
「お帰りお嬢、ずっと会いたかったよ」
「あ、あたしも……あたしだって……」
リィンベル嬢、故郷より再びポロン公国に来訪する。
「でも許せ!! 今は俺たちこの杖に夢中なんだよっ!! ちょっと冒険者ギルドいってくるからっ、アインスさんお嬢の応対任せたっっ!!」
「かしこまりました」
「ごめんねっ、ダリルちゃんも以下同文っ、すぐ戻るからっ!!」
「ぇ……?」
俺たちはお嬢のすぐ横を素通りして、自慢の杖を掲げたまま冒険者ギルドへと走り去っていた。
しょうがないんだ、一度ついてしまったこの炎をどうにかしなければ欲求不満でおかしくなりそうなんだよお嬢!
「ちょ……ちょっ、ちょっとっっ!! なにそれっ待ちなさいよっっバカっ、待っ……あたしを置いてくなぁぁーっ!! ぅぅぅ~~っっ……アレクのバカァァァァーッッ!!!」
そうしてお嬢の叫びはさながら上級魔法サンダーストームとなって、職人街の夕空を雄々しく轟かせたそうです。
どうやらリィンベル嬢は俺がアトリエを始めたことがよっぽど気に入らないようで、ギルドから戻ればまた甲高いお叱りの言葉が待ち構えていたのでした。




