5-03 追想、アカシャの家で出会ったもう一人の恩師 2/2(挿絵付き
「それではアレクサントさん、今日はどんな悩みを抱えこの教会を訪れましたか。女神の御前です、どうか包み隠さず懺悔なさい」
「やー、今さら取り繕って女神の御前とか言われても……」
「フフフ……あれは冗談です、からかっただけです、かわいい生徒の悩みに乗らせて下さい、アレクサントさん♪」
どうもここからは真面目なシスターモードでいきたいらしいです。
やっぱり悩みを抱えて訪れたと勘違いされてるみたいで、ちょっと戸惑ってしまいます。
そりゃ悩みはあります。
ただ話す相手を選ぶ権利だって俺にもあるはずです。
この人、マナ先生って見た目は清楚な聖職者だけど……変人だ、ショタコンだ、やっぱなんか怖い!
「お姉ちゃんに話してごらん、ほらここ座って」
「うわ……。ぁぁー……強引ですね……」
こっちが迷っていたら手を引かれて、それから長イスに座るように誘導されてました。
さらにそれが当然なのだとマナ先生がピッタリ肩を寄せて腰を下ろします。
「はぁぁぁぁぁ……少年の手……ぁぁ、すべすべ……すべ、すべ……すべべべ……♪」
セクハラだしこれー……。
どっちにしろ、もう悩みを打ち明けないと逃がしてもらえなさそうな雰囲気です。
こうなったらしょうがない……一応善意でしてくれてるみたいですし、語りましょう……。
「……はい。実は大切な杖を同級生に隠されてしまいまして。まあでもそれは自分で何とかするんでどうでもいいんです。……それよりもですね」
俺が話し始めると誠意をもってマナ先生も背筋を伸ばしてくれた。
まあ……一方的に繋いできた手を絶対に離してはくれなかったんだけど。
「で、その杖を隠された理由というのが……たぶん自分たちのペアが学年トップの成績をかっさらったのが原因らしくて……。でもそれなのに俺はですね……」
次々と言葉が出てきて驚きました。
あれおかしいな、こっちの相談は誰にも聞かせるつもりなかったのに……。
さすがは聖職者ってことなのかな……引き出し方がこなれています。
「やりたいことがわからないんです……。冒険者も楽しそうだけど……それもそこまで本気ってわけじゃなくて……単純に魔法が面白いから必死になってるだけで……つまり俺って遊び半分なんです。だから杖を隠した同級生からすると、それが気に入らなかったんでしょうね、だからこんなことになったんだと思います」
俺みたいな最初は魔法も使えない新参が、彼らの名誉を汚したわけだ。
それはきっと悔しくてたまらないことだろう。
「そう……そんなことがあったんだね。でもだからって人の物を隠すのは大人げないと思うよ」
先生がギュッと手を握ってくれた。
やさしい励ましの気持ちを込めて。
「……。マナ先生、俺は親族すらいない天涯孤独の身です。今はアカシャの家があるからいい。でも……卒業したら人生を賭けるだけの何かを始めなきゃいけない……」
後ろ盾も何もない。
だから一度決めれば取り返しが付かない。
答えがなければ後悔が待っているのに、その答えがない。詰んでいる。
「……ってあの、先生?」
さっきからなんで黙り込んでるんだろう。
恐る恐るマナ先生の方を振り返った。
「う、うわぁぁっっ?!」
でも振り返る前にいきなり抱き付かれました。
またあの変なスイッチがっ?!
とか思ったけど、その包容はあたたかでやわらかく、本心から俺を慰めようとしてくれてるみたいでした。
「それはさぞかし辛かったでしょうね……でも大丈夫。先生がアレクサントくんを見守ってあげますよ……」
「ハハハ……そういう真面目でやさしいノリはちょっと……苦しいですってば先生……」
止めて、これならさっきのセクハラのがまだいい。
親もないお子様がこんなことされたら……うわ、まさか、そんな……ああもう、泣けてきたし……。
「必ず見つかりますよ……きっかけはいつだって些細なものなのです……。思うがままに学園生活を駆け抜けて下さい。そうすればいずれ貴方の前に結論が訪れます」
止めて、やさしい言葉とかマジ止めて。
うわ……うわ……こういうのはちょっと……うわ、目熱い……っ。
「だってそうでしょ。最初から夢中になれるものが存在していたら、世の中おかしくなってしまいますよ。だから迷いえり好みを続けるより、ただがむしゃらに今の生活をがんばってみたらどうですか……?」
あ、もうあかん……。
こんなの俺のキャラじゃないのに……今まで溜め込んできたが……一気に……ッッ。
先生、先生、先生……俺……俺……っっ!
「先生……俺……俺は……って、ぬはぁ?! うわっうわわっ、今ヌルっとしたものが降って……わーちょっ、ってこれヨダレじゃーんっ?!」
うっかり半泣きで青春しかけていたら、ヨダレの雨が降ってきましたーー。
びっくりってレベルじゃないですー、先生離してっ、降ってる降ってる、まだ降ってるよこれ~っ?!
「ウフフフフ……お姉ちゃんも今を全力で生きちゃう……ハァハァ、フゥフゥ、ダラァァァン……♪」
「やっちょっ、離してっ、離して先生っ、なにこのヨダレっエイリアン並っ?! 多いよっすっごく多いよっ、ひぇーっマナ先生ぇ~~っ?!」
じたばたもがいたところでマナ先生は逃がしてはくれません。
「おお女神よ、私の願いをどうかお聞き届け下さい……この愛くるしいショタに……ショタを……ずっとこのままの姿にお保ち下さい……! アレクサント……いいえっ、アレッきゅんっ♪ お姉ちゃんと女神様のためにも、そのままず~~~~っと成長しないでいてね♪」
「先生っ、先生が何言ってるのか俺パーフェクトにわからないですっ! とりあえずこれっ、離してっ、ぎゃっ、目がっ、目にヨダレがぁぁぁーっ?!」
何か一人で盛り上がって、大変とんでもないご要望を女神様へと捧げました。
きっと神の国のカスタマーサポートセンターも当惑していることでしょう。
てか彼女のヨダレが目にたれ落ちて前が見えません。
目がーっ、目がーっ、目が見えねぇ! ……女神の御前だけに!
ってなんだよこのべたべたのオチ!
・
まあそんな感じです……。
そんな感じでマナ先生と懇意になりました……。
しかもその後、俺に代わってダリルの杖まで取り戻してくれて……ショタコンだけどそのやさしい頼もしさにときめきました。
ま、具体的な取り返し方についてはあえて説明を割愛します。
教会の権威、必須職ヒーラー様の発言力ってすごいの一言でした。
それとあのありがたい言葉が忘れられません。
俺らしくもなく慰められてしまって、先生の好意を裏切らないようとにかくこれからもがんばって行こうって、超前向きな覚悟をくれました。
だから恩師です。
その恩師を再び頼ることにしましょう。
彼女ならきっと、上手い具合に聖銀砂を提供してくれるに違いないです。
マナ先生、夢がやっと出来ました。
錬金術でやりたい放題趣味に生きるっていう、我ながらわりとしょーもない系の夢が。
「ずっとお姉ちゃんが見守ってあげるから、また困ったときは相談してね、アレッきゅんっ♪」
あ、なんか変なセリフが脳裏にフラッシュバックして、急に臆病風に吹かれてきましたー。
あの先生と接点を作り直して頼みごとをするってことは……つまり……つまり……。
あ、ああ……なんかお腹痛くなってきたぁ……。




