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5-03 追想、アカシャの家で出会ったもう一人の恩師 1/2

――――――――


 冒険科にはもう一名ほど名物教師がおりました。

 マナと呼ばれるその方は、これが大変因業なご趣味をされておりまして、主人の前ではその変わり者っぷりを余すことなく発揮されていたのでございます。


 ギルドと教会双方に籍を置き、その実力も現場叩き上げの超一流だったのですが……。

 はい……説明も心苦しくなるほどの、本当に因業な方なのでございます……。


 それでは皆様、物語は一時だけ懐かしき三年前へと遡ります。

 あの輝かしい日々は今もなお主人の中で色あせず、しかしもはや戻れぬその哀愁が、ときおり彼の素顔に寂しげな陰を落とすのでした。


 どんなに偉大な錬金術師であろうとも、過去へと戻ることだけは出来ません。


 けれども分かたれた一つ一つの道を、絆の名の下に束ね直すことならば可能なのでございます。

 その追想は彼の心変わりを呼ぶに十分なほどの、まさに契機だったのです。


――――――――



 ・



5-03 1/2 追想、アカシャの家で出会ったもう一人の恩師


3年前――

アレクサント14歳――


「ハハハ……うーん……うーーん……ハハハ……」


 放課後、魔法の修練場にやって来ました。

 それでちょっとトイレに行ってきたんですけど、そうしたら……。


 ダリルの杖が消えてました。

 置きっぱなしにした俺も悪いですけど、どうも誰かに隠されちゃったみたいなんですねー。

 そりゃ、困惑するしかないですよ、笑っちゃいます。


「……」


 でも犯人追及するのも大人げないです。

 かといってあれはダリルに貰った大切な物です、無くすわけにはいかないです。

 犯人については概ね予想が付いていたりします。


 でも正面から問い詰めたところで素直に答えないでしょう。


 そうとなれば焦ることはありません。

 こうなったら今日の放課後は、杖が消えたという正当な理由もありますしキャンセルしてゆっくり過ごしちゃいましょう。


 だってあれですよ。

 この手のはすぐさま反応すれば相手を喜ばせるだけです。

 だからちょっと間を置いた方が向こうも頭が冷めるというものです。



 ・



 そんなわけで校内をブラブラ徘徊しました。

 冒険科の生活は忙しく、普段ならクタクタで寮に戻ることになるので、よくよく思い返せば久々のサボりです。


 ん、あれ……ここどこだ?

 とりとめのない思考から戻れば道に迷ってました。


 しょうがないです、アカシャの家ってバカみたいに広いんですから。

 するとちょうどそこにヘンテコな建物を見つけることになりました。


「おー……」


 立派ではありませんけどソレはれっきとした教会です。

 そういえばこんなのあったような気もしてきました。


 なんかうさんくさいから今まで立ち寄らなかっただけで……でも今日は暇なので物味遊山で見物しちゃいましょう。


 ぼーっと建物を眺めていたら、ふいに懐かしい気分になりました。

 何でかなってぼんやり考えれば、これ木造建築物です。

 材木の香りと洋館じみたそのたたずまい。見上げれば尖塔があって横幅より縦幅のが大きく見えます。


 ヒーラー系の教練には一歩も足を運んでません。

 合わないのは最初からわかってますから。

 だからこそなんか……面白い、ちょっとわくわくしてきました。


 部外者でもないんだからいっそ入っちゃいましょう。

 教会の大きな正面扉をギシリと開いて、薄暗いその内部に入り込みます。


 入ればすぐそこが聖堂でした。

 奥には女神と鳥の神像が置かれています。


 それが採光ガラスから光を受けて白くぼんやり光り、そこからこちら側へと無数の長イスがズラッと並んでました。

 はい、どっからどう見ても聖堂です。ただ時間が悪いのか参拝者は一人もいませんでした。


 ヒーラー系の学生は修練所で切磋琢磨してる時間ですからそれも当然かもしれないです。

 その静けさといえば鳥も鳴かぬほどで、歩いた床だけがただきしみ……なんかホントうら寂しい場所でした。


「そういえば……じっくり見たことなかったな、こういうの」


 青春してる若いものが来るようなところでもないです。

 女神と鳥の像の前に立ち寄り、ぼんやりと見上げました。


 確か名前はルルド教、この女神と鳥たちをあがめる宗教だったはずです。

 ……てかそれ以外は知らんです。

 あ、でもビジュアル的には結構アリだと思ってます。


 女神様の像ってなかなか良いものですよこれ、半裸の変なおっさんとか眺めるよかよっぽど良いです。


「ぁー……俺、こんなところでなにしてんだろ……」


 ダリルの杖どうしよっかな……。

 上手い具合にこじらせず取り戻したいんだけど……。


 …………。

 ……。


「あら見かけない顔。それに……あらあらあら……」


 ぼけっとしてたら聖堂の裏から声がしました。

 振り返ると若くて綺麗なシスターさんが現れて、トコトコとこちらにやって来ます。


「あら美少年♪」

「へ……? ああ、勝手に入ってすみません。……暇だったんで」


 なんか清楚な容姿に反して、変な言葉が聖堂にこだましたような気がしたけど、気のせいだろう。

 そんなはずはないとこちらも丁重な態度をとりました。


「クスクス……面白い子♪ 私はマナ、よかったら名前聞いてもいいかな?」


 うん……ちょっとマイペースかも。

 綺麗な人だし邪険な態度をとられるよりいいですけど。


「なんだったらお姉ちゃんって呼んでくれてもいいのよ……?」


 いや、え?

 でもなんかアクが強い……強め?


 見た感じ修道服着込んでるしシスター……いや違うか、ここはアカシャの家、ただのシスターがいるわけない。

 となるとこの人はきっと冒険科の関係者だろう。当たってたら面白いな。


「ははは、ご冗談を。アレクサントと申します、今はここで冒険科の二年生をしています。……って、あの、あれ、あれれ、マナ……さん……?」

「ハァハァ……」


 おかしい。


「あの……なぜ呼吸が乱れていますか……?」

「若い……若い少年のにほひ……ハァハァ、スンスン、ハァハァスンスンスン……♪」


 あれ、このシスターさん……え、あれ、なんでジリジリにじり寄ってきてるのこのお姉さん?


「あの、えーっと……シスターさん……?」


 正気を取り戻せの意味合いを込めて、シスターの名前で呼びかけてみた。

 それで我に返ったみたいで、ニコニコぽわぽわと聖母の微笑みがこちらに向けられた。


「残念、ここのシスターじゃないんだよー。これでもお姉ちゃん冒険科の先生なんだから♪ ……先月配属されたばっかりだけどね」


 なるほどそりゃ面識ないわけだ。

 こんな見た目綺麗だけど変な人、忘れようがないし。


「……それでマナ先生。お仕事の方はよろしいんですか」

「うん大丈夫、今日の教練は他の先生が担当だから♪ ふふふ……でもそれを言ったらアレクサントくんは何をしているのかなぁ~?」

「見物です」


 見透かされないように即答で返しました。


「それはおかしいよ~? だってアレクサントといえば職員室でも噂の秀才でしょ、ダンプ先生大のお気に入り。それがこんなところで、何をしているのかなぁ~?」


 うわ、鋭いな。

 なら上手い返しはないものかな……いやダメか、こうやって考え込んじゃった時点でもっと見透かされてそう。


「じゃあ……お姉さんが相談に乗ってあげる♪ だってここは聖堂、そういう場所でしょ」

「相談ですか……まあ言われてみれば悩める子羊が来るようなシチュエーションですけど……」


 妙なことになったな……。

 俺が迷える子羊なら、マナ先生は狼って感じもするけど……でも面白い人だ。

 それにまかりなりにも聖職者、見た目もソレっぽいし何かやさしそう……。


「さあさあ、迷える子羊よ、お姉ちゃんに何でも話してごらん……ハァハァ……♪」


 で、急にマナさんがしゃがみ込みました。

 それでなにをするかと思えば、魔導師のローブに手をかけて……。


「ちょっちょっとっ、止めて下さいよっ?! な、なな、なんでローブをまくり上げようとしてるんですっ?!!」

「ちょっとだけ……ちょっとだけお姉ちゃんに……しょ、少年の生足……見せて欲しい、なぁぁぁぁぁ……♪」


 確定、この人あかん人!

 ローブを上から支えて、内部に頭突っ込もうとする変態さんをもう片手で押し退けます。普通にこれ痴漢行為じゃね?


「いや女神様の御前で良いんですかねコレ?」

「……あ。そういえばそうでした、てへへ……♪」

「ハハハッ、てへへとか今さらカマトトぶられても、残念な第一印象はもう変わりませんよ」


 一応それが歯止めの言葉になるらしく、危ない女教師は一歩下がって貞淑なカードを切り直した。

 ぶっちゃけこれ詐欺だ……。


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