5-02 ゴーレムを作ろう!
アカシャの家を卒業してかれこれ三ヶ月が経っていました。
その日ものほほ~んと釜をかき回していたのですが、教会より特使ってやつがうちのアトリエにやって来ました。
「エーテルといったかな、それを全て我々が買い占めよう。有用な資源は有用に活用されねばならない、わかるな? 教会との専属契約を結べば女神の祝福が貴店に下されるであろう」
その特使というのがコレ、白と黒のトーガを身にまとい、大げさなミトラを頭に被った白髭もっさりの爺さんでした。
風貌からして厳めしく、これは相当に雷を落としなれてるタイプの……めんどくさい系のお客です。
しかもちょうどその日はアインスさんも仕事休みで、ダリルに連れられて出かけてしまっていました。
怖い顔したジジィと一対一で視線をぶつけ合います。うわおっかない。
「またまた買いかぶりですよお客様、ぜひお考え直しを」
「ふむ……謙遜されることはない。これは教会公式の要求である、断ることは許されん」
「いえいえいえ、まだまだ私は修行中の身。粗悪品を提供して貴方方の顔を潰したくはありません」
「これは決定事項だ。そこは店主の努力を期待しよう」
しつこいですこの爺さん。
遠回しに売りたくないって言ってるじゃないですか。
提供するのが当たり前みたいに言ってくれちゃって、エーテルがどれだけレアな素材使うのか理解してないでしょ。
「そうか悪かった」
「あ、わかってくれました?」
「商売人には商売人の言葉があったな。今の提供価格の5割増し出そう。どうだ、悪くなかろう店主よ」
「ははは……そう来ましたかー……」
ちょっと惹かれるけど……やっぱり気乗りしない。
だってその五割り増しで俺が提供したエーテルを、教会はさらに値段つり上げて、選ばれた人たちにだけ提供するってことでしょ?
やだなぁ……そういうのはちょっと俺のやりたい経営じゃない。
「どうだ店主アレクサントよ、教会は貴殿に特別な洗礼名を与えることも考慮している。よく考えるがよい」
いやそんな厨二っぽいのいらないし。
変な名前で呼ばれたら恥ずかしい、なおさら断りたくなってきたー。
でも宗教を敵に回すとめんどくさい。
それはよくわかってる。時空を越えた一つの真理ってやつです。
「わかりました、では……」
じゃあしょうがないし。
「お断りします」
「……なんだと!! ふん……店主よ、よく聞こえていなかったようだな。ならばもう一度言い直そう、エーテルを教会に提供しろ」
断ったら怖いお爺ちゃんがさらにおっかなくなって恫喝してきました。
ならなんとかなだめてやり過ごしたいです。
「すみません、何度おっしゃられても売れないものは売れません。あれは客寄せの一つになっていまして、提供を楽しみにされてる方々らがたくさんいるのです」
「ならば二倍だ、今の二倍の価格で買おう。がめつい男め、これで文句はなかろう」
一歩踏み出して至近距離からまた恫喝交渉されました。
やっぱりこの爺さんわかってないです。
「そうなるとエーテルの提供価格がとんでもないことになりますよ。さぞや皆さんがっかりしてしまわれるでしょう」
「必要な者に必要な物が行き届くということは、そういうことだ店主。だが意外に良心的な発想に驚いたぞ、ならば結論は一つ、今の価格で教会に納品すれば良い」
……ああ、こうなることはわかってた。
誰かがエーテルに目を付けてこういうことを言い出すんだろなって。
この爺さんもこれで善意で言ってるんだろう。だからなおさらたち悪い、めんどくさー。
「特使さん、私はこの店で商品を提供していきたいんです。わがままになりますけど、業者の下請けみたいなことはしたくないんです。このアトリエからエーテルを提供しなきゃ、私本人が楽しくないんですよ。ほら、人生を楽しむのって大事でしょ」
価値観が根っこから違うんだろう。
特使の爺さんは眉と口をへの字にして俺の本心をうかがった。
どうも本気らしいと悟ると、もさもさの髭を撫でて思慮を始める。
やがてうなづいてこちらをギロリと怖い顔で見た。
「わかった、アレクサント殿の要望は上に伝えておこう。残念だがそう言われては仕方がない、また折り返し交渉に来る。女神のご加護があらんことを」
理知的ではあるが高圧的な性質は変わらないらしい。
いちいちイントネーション豊富にこちらを牽制して、やっとこさ爺さんはアトリエを出ていってくれました。
「うっへぇ……また来るのかよアレ……うわぁぁ……」
権力を敵に回すと面倒です。
次は別の断り文句を探しておかないと、ジワジワ外堀埋められて投降するはめになるんじゃないでしょうか。
そりゃ、エーテルが冒険者の間で転売されてるらしいってのは確かですけど……それこそ市場原理ってものです。
お客も途絶えていたのでまた釜の前に戻りました。
さっと仕上げると新作の石鹸が完成です。
新しい香料を混ぜたもので、これがなかなか……うーんこういうのわからん。
アインスさん帰ってきたら感想を聞いてみよう。
実は石鹸って、うちの雑貨カテゴリーの中では主力も主力商品です。
普通に作ろうとするとだいぶめんどくさいらしく、ジワジワ売り上げが伸びてます。
小さい子には石鹸のお兄ちゃんとか呼ばれる始末です。
なんだろ、あんまりカッコ良くないし、むしろ怪しい響き……。
「さてさてさてと……うん」
さて邪魔が入ったけど本日のお楽しみといこう。
錬金術の腕もかなり上がってきたし、そろそろゴーレム製造という第一ステップに入ろうと思う。
一応その製造法を自分なりに考えました。
まずはクレイゴーレムから作ろう。
となると主材料は土、泥。
動く泥が出来上がれば、それすなわちクレイゴーレムです。
ただまあ、さすがに全部自分で考え出すのは無謀だし材料もったいないので、アクアトゥスさんに遠回しに質問しました。
・
「ああ兄様、またお越し下さるなんて光栄です……! ああでもっ、この兄様は本物でしょうか! まさかまた寂しいアトゥが生み出した幻覚では……!」
こないだアクアトゥスさんの小屋を訪れました。
また勝手に入り込んで夜の帰宅を待っていたら、少女は一人でテンション上げていぶかしんだ後に、ヒシッと抱きついてきました。
「なんか最近エスカレートしてないチミ? ほらほら本物だし離れて離れて」
「はいっ、私ったら興奮し過ぎて……申し訳ございません兄様……っ!」
とか言いながらさすがアクアトゥスさん、両足によるカニ挟みも仕掛けてきましたぁー。
実況のアレクサントさ~ん、これは絶対に逃がさない離さないって構えのようですねぇ、はぃ~~。
「ハハハッこやつめ、言ってることとやってることが逆なんだけど、まあ用件に入るね」
重いけど。
見た目より肉付きちゃんとあってやわらかい。
「これは例えだけど、アクアトゥスさんってゴーレム作ったことある?」
「ありません。でも製法は知っております兄様!」
あ、やっぱり作れるんだやったー。
となれば予定通り要点部分だけ聞き出して、後は自分の努力でがんばりたいです。
「そういう特殊なのってやっぱり普通の素材じゃ無理だよね。生きてる石鹸とかポーション出来ても困るし」
「はい、特別な素材が必要ですっ! 兄様兄様……ゆさゆさ……」
「こらこら、そうやって俺をベッドの方に揺すり倒そうとあがくのは止めようね、危ないし」
てか隙を見て妹(仮)をひっぺ返しました。
暑いし重いし普通に腰にきます。
「しゅん……昔みたいにアトゥを抱っこして欲しいです……裸で!」
「はいはいアクアトゥスさんってば話を吹っ飛ばすのがほんと得意だねー。それで話戻すけど、その特別な素材ってなにが要るの?」
きわどい発言をスルーして無理矢理話を元のレールに戻しました。
彼女と会話する上では必要不可欠なスキルと言えます。
「はい、その土地のここぞという土に、[聖銀砂]と呼ばれる素材を重ね合わせるのです。ちなみにこの聖銀砂がない限り、ゴーレム製造は不可能ですよ兄様!」
「なるほど土選びが大事……あと聖、銀、砂と……」
それだけわかれば後は何とかなりそうな気がします。
ネタバレされるとつまらないのでアクアトゥスさんに背中を向けました。
「あっいずこへ兄様っ?!」
「話も聞けたし帰ろうかと」
「ダメですっ! 妹の下を兄が訪れたというのに何もせずに帰るだなんて許されません! 親の居ない一つ屋根の下で兄と妹がついさっきまであられもない密着状態にあったのですよ! さあこちらへさあこちらへ、大丈夫です二人ならお布団も二倍の速度で温まりますよ兄様っ!」
ほら、これくらい冷たくした方がアクアトゥスさんの場合バランスが取れるんですよ。
あっちょっとっ、そんなキャバクラのお姉ちゃんみたいに俺をベッドに連れ込もうとしないで。
いやキャバクラのねーちゃんだってそんなことしないしー。
「じゃあ……じゃあ……間を取ってアトゥが眠るまでまた手を握っていて下さい……。実は私……もうだいぶ眠いんです……修練、とても楽しくて……」
かと思ったらその綺麗な瞳が眠たそうにまどろみました。
相変わらず若くてハードな生活を続けてるみたいです。やっぱりなんか羨ましいです、学園生活ってやつが。
その青春の息吹みたいなのに負けて、俺は彼女の要望を果たしてからアカシャの家を去ったのでした。
・
ってなことがあったんです。
そんなわけでキーアイテムは聖銀砂です。
もういてもたってもいられないので、いっそ店閉めて買いに行っちゃいましょう。
市場じゃ見かけたことがない素材だし、まずは冒険者ギルドに問い合わせてみるのが無難です。さあ行こう!
・
「申し訳ない、その素材は扱っていないんですよ」
「えーー……」
いくらでもお金出しちゃうつもりで来たのに、なんか無いそうです。
おかしいなぁ……迷宮素材を牛耳る天下の冒険者ギルドですよ?
なのに扱ってないって……もしかしてものすごいレア素材?
「聖銀砂ってよっぽど希少なアイテムなんですか?」
「いや、迷宮より産出はしているよ。でもダメなんだよ、ごめんね」
受付さんは若い男性で、それがまさにホワイトカラーって感じの人でした。
あれー、やさしげに謝られちゃいましたよ?
「どういうことですか? あ、もしかしてメチャ高い……とか?」
「高くはないんだ。しかし聖銀砂は聖水からアンクまで、様々なヒーラー御用達アイテムの製造に必要でね。だから法律により教会が独占管理しているんだよ」
教会ってそれ……ついさっき取引拒んだところじゃん。
わーくそ、なにこれ幸先悪い、ずるい、なにそれ独占ってなにそれ……。
「そういうことですか……」
「ヒーラーたちあっての冒険者だからね、それだけうちのギルドも教会にだけは頭が上がらないわけだよ。何に使うのかわからないけど、まあ気を落とさないでね」
子供っぽい容姿をした俺に、受付のお兄ちゃんはやさしく肩を叩いてくれました。
ああやだなぁ……これ絶対、引き替えにエーテル納品の契約結ばされるルートじゃないの。
「ありがとうございます。で、じゃ、建前の話はここまでにしてどうにか手には入りません?」
それはイヤだ。
だから何とか裏口から手に入れる方法を考えようじゃないか。
「キミね……」
「どうしても欲しいんですよ。だからほら、教会には内緒に取引出来ちゃったりしませんかね?」
こういう時は袖の下ってヤツだ。
ただし最低限の品格はたもって、相手に罪悪感を抱かせないよう軽いノリで誘う。
……指先でお金のジェスチャーをしつつ。
「重罪ではないが罰則があるんだよ。それに繰り返すけどヒーラーは貴重だよ、一個人の冒険者としたところで嫌われたくはないだろう? だからどの経路であろうと買い付けは困難だと思うよ」
「ぁー……残念ダメですか。ご親切にありがとうございました受付さん」
「いえいえ、お力になれなくて申し訳ない。大きな声では言えないけど……どうにか手に入るといいね」
それで彼にもう一度頭を下げてギルドを離れました。
困った。こりゃダメっぽい。
ああどうしよう、どうしよう……なんか余計に欲しくなってきたし。
欲しいオモチャが売り切れてた時なんかの、やり場のな~いガッカリ感ですよこれ……。
残る入手ルートは……そりゃあの教会の特使さんに頼めば、聖銀砂くらい手配してくれるだろうけど。
でも代わりにエーテル売る楽しみが奪われる。それだけは絶対イヤです。
教会。教会。教会。教会かぁ……。
ギルドがダメならそれしかないよね。
でも俺、教会に知り合いなんか……。
あ、いた。




