4-01 ロドニーさんからの依頼 2/2
「すみません、お待たせしましたロドニーさん」
「フフフ……かまわないよ。なかなか良いものを見せてもらえた。どうにも微笑ましいね、君たちは。これはなかなか、妻への良い土産話になりそうだ」
ロドニーさんの前に戻りました。
なんか変な誤解を受けてる気がします。
それにやれって言ったのロドニーさんじゃないですか……。
「勘弁して下さい……」
「フフ……ではそろそろ本題に入ろう。実は他でもないキミに仕事を依頼したい」
「仕事、ですか」
「ああ。公国軍士官として、アレックスくんに正式な依頼をしたい。優秀なキミの助けが必要なんだ」
ロドニーさんの頼みなら断る理由はない。
そんなに優秀ってわけでもないし、出来る範囲に限られるけど。
「おだてないで下さい。それで依頼とは……?」
「うん、キミの好みに合わせて要点だけ伝えよう。実は……市内で昏睡強盗が頻発しているんだ」
昏睡強盗って……あーあれか。
寝かせたあと金目のもの奪って、さらに相手が女性なら……ってやつかな?
……。うわ……想像しただけで罪深いなこれ……怖っ。
「そりゃ、なんか詳しく聞きたいような、聞きたくないような……うわぁ~……」
「ふふ……おそらくその想像からそう遠くないよ。被害者は金持ちの若い娘ばかりだ」
ロドニーさんもまだ幼い娘がいる。
だからその仏の笑顔が逆に怖い。笑ってるのに全然笑ってなーいってやつ。
「なるほど……別に俺は女の子がどうなろうと知らないですけど、治安を担うロドニーさん側からすると、困った相手ですね」
「うん、そうなんだ。幸いその犯人には目星が付いている」
「ふーん……には、というは?」
義憤みたいなのは趣味じゃない。
むしろ状況を楽しんでしまえと俺は笑い、もっと話を聞きたいと身をテーブルに乗り出した。
「そうなんだ。だからキミに頼みごとをしに来たんだよ。実はその犯人はね」
「うんうん、どんなやつなんです?」
不謹慎だが面白くなってきた。
これくらいわかりやすい悪人の方が手伝いがいがある。
「困ったことにそれなりに力のある商人なんだ。金で買ったとはいえ騎士の称号まで持っていてね……だから言い逃れ出来ないだけの証拠を押さえなければならないんだ」
きっとソイツはよっぽど用心深いやつなんだろう。
証拠を突き付けなければ被害者も泣き寝入り、釘を刺したところでいつか再犯する。
だって痛い目に遭ってないんだから。
「もっと率直に言えば囮捜査をしたい。しかし睡眠薬で寝かされては現行犯でおさえようもないだろう? 逆に飲まなければ犯人も警戒する。慎重なタイプなので狸寝入りくらいでは、ことに及ばないと僕は推測する。……そこでだ」
ロドニーさんが真剣な解説姿勢から一変して、いきなりほがらかに笑う。
それから眼鏡をくぃっと整え直して一口紅茶をすすった。
「錬金術師のアレックスくん。キミは[睡眠作用を無効化する薬]を作ってくれ」
「いえあのロドニーさん、一応訂正ですけど俺って薬屋ってわけじゃないですからね? あ、ちなみに報酬は……?」
ロドニーさんが額を提示した。
ティーカップをソーサーに戻し、もう片方の指をソッと2本立てる。
「ある被害者の父は、公国軍の重役をしている。経費抜きで20000z出そう。やってくれるねアレックスくん、このまま成果を出せずにいれば、るいが下にまで及びかねないんだ」
あ、これ美味い。
「そりゃ大変。やりましょうぜひやりましょう、ロドニーさんにはお世話になってますし、はいっ、ご要望通りのブツを作り上げてみせますよっ、任せて下さい!」
経費抜きで2万って……いいね。
錬金術って自分の作りたい物作ろうとすると、ポンポンお金が蒸発するってアクアトゥスさんも言ってたし。
純粋報酬2万は美味いですよ、2万は。
「アレックスくんならそう言ってくれると思ってたよ。これは組織の沽券とうちの兵舎の立場がかかってる。どうかキミの素晴らしい力を貸して欲しい」
本題を伝え終えると、ロドニーさんは律儀に紅茶のお礼を告げて店を立ち去っていった。
どこでアインスさんの服を買ったのか、なんか熱心に俺から聞き出しつつ。
「フフ……うちの娘も似合うと思うんだ……」
妻だけじゃなくて娘さんも溺愛してるみたいです。
・
睡眠を無効化。
これはアクアトゥスさんに相談するのが一番です。
なのでアカシャの家におもむき、あの懐かしい魔女の小屋を訪れました。
ところがちょっと忙しかったみたいです。
ちゃっかり不法侵入して彼女を待ってみれば、これがなかなか帰って来ません。
日が暮れてしまい一度出直そうかと思い始めていたら、やっとこさ戻って来てくれました。
どうも冒険科の魔法教練にはまってるみたいです。
……なんか兄妹だって実感を、今初めて覚えたかも。ハマるよね。
「お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。兄様がいらっしゃっているなら、アトゥは喜んで課題も道徳も投げ捨てましたのに……っ」
「じゃその道徳ってやつ拾って元のところに戻しとくね」
いつものやつを流しながら事情を説明しました。
睡眠作用を無効化する薬が欲しいです、アクアトゥスさん。
疲れているのか少しだけ反応が鈍いです。
「……ん。それなら眠気を覚ます作用を持つ、とある豆を手配して下さい。それに増強剤を加えて、ポーションを培養液にして合成しましょう」
「うんうん、なるほどわかりやすくていいね」
ベッドわきに腰掛けて、銀髪の魔女さんは大きなその目を子供みたいに擦ります。
ああ、眠いんだ、よっぽど疲れてるのかな。
「ですが……この豆がなかなか手に入りません……。名前はコピアの実。異界からの漂着物として迷宮より産出されることがあるので……ん、あふぅ……。ギルドの方に……問い合わせたらどうでしょうか……」
自分も当時はこのくらい夢中になってたっけ。
うん、アクアトゥスさんの生活が充実してるようでなにより。卒業した身からするとちょっと羨ましい。もう戻れないけど。
「ありがとう、そうしてみるよ」
「はい……」
うつらうつらとアクアトゥスさんが首で船をこぎ始めました。
ハッと無防備な自分に気づいて、自分でそれに驚いて、でもまた眠そうにうとうとを繰り返します。
これはもう帰った方が良さそうです。
「いや我慢しないで寝たら?」
「すみません兄様……せっかくお越し下さいましたのに……ふがいない妹をお許し下さい……。出来ることならば起きて……兄様とめくるめく背徳の兄妹愛を……。………………はっ、寝てましたっ!」
「だから寝ていいってば……」
何だかんだ言ってアクアトゥスさんってばなかなか寝ません。
もう限界なのに必死で起きては、寝ぼけただらしない顔でこちらを見上げてます。
頭がゆらゆら左右に揺れて、今にもベッドにぶっ倒れそうですから、はよ、寝て。
「せっかく兄様が来てくれたのに……眠いだなんて……」
「また来るからさ、ほら、アクアトゥスさんにはもっと錬金術を教わりたいし」
「そうですか……うふふ……兄様は相変わらず女ったらしです……」
「じゃあまたね、もう帰るよ」
ここに俺がいたんじゃ熟睡ダウンするまで続けそうです。
なので玄関目指してアクアトゥスさんに背中を向けました。
「あ……待って兄様……っ。あの……少しだけ、わがままを言ってもいいですか……? ちゃんとベッドに入りますから……アトゥが眠るまで、手を握っていて下さい……。昔みたいに……」
ちょっと恥ずかしいオーダーだけどそこは我慢。
ものの数分、いや数十秒で寝ちゃうに違いないです。
ゴソゴソとおとなしくアクアトゥスさんが毛布をかぶり、差し出したその手を兄(仮)がそっと包みました。
細くてスベスベしててやわらかいです。
「兄様……帰っちゃ……やです……。…………すぅ」
するとそのまぶたがトロンと落ちて、10秒もしないうちに寝息が上がるミラクルマジックです。
これが自分の妹だと言われてもやっぱり戸惑います。
彼女からすれば失踪した兄とやっと出会えたのですから、そりゃ多少は過激にもなるんだろうけど……。
……寝たよね? たぶん寝たよね? もう起きないよね?
念のためその寝顔をつぶさに観察して様子を見ました。
ただただボケーーっと10分くらい。いやあるじゃないですか、止め時を見失っちゃう時って。
「兄様……」
しまった起きたかと思ったら寝言でした。
もうメチャクチャ恥ずかしい系の。
うん、これは寝た。確実に寝た。
よし、じゃあ今日のうちに残りをやっつけよう。
・
その後、ロドニーさんの滞在する兵舎におもむいて進捗を報告しました。
公国軍からの依頼ということにして、冒険者ギルドにコピアの実の手配を頼んだんです。
そこまでして職人街に戻り、アインスさんを誘って酒場飯を腹に入れればもう夜も遅いです。
その日はほどほどにして、アクアトゥスさんにつられるように早めの眠りについたのでした。
アインスさーん、トイレはそっちじゃないよー。そこ廊下。
いくらなんでもそれ寝ぼけ過ぎ。こんな深夜にオチとか付けなくていいから。




