1-02 鑑定書無しでポーションを売り切ろう! 1/3
翌日、店を休業日にして冒険者ギルドに出向きました。
戸締まりはしっかりしましたし、職人街の商工会にもちょっとダンジョンまで行ってくるとご挨拶しておきましたから。
だから大丈夫です。……たぶん。
いや内心ちょっと不安。
不定期経営じゃお客さんも困るだろうし、せっかくのアトリエなんだから店番が欲しいなぁ……。
そこは売り上げはいまいちだし雇うギャラもないわけだけど。
……てかホントに鍵閉めたっけ、絶対閉めたはずなんだ、うん、たぶん大丈夫……?
ギルドは公都の南側にあります。
職人街から見ても南です。
なんでわざわざ中央から離れた場所にあるかというと……なんでだっけ。
南側世界の開拓に力を入れてるとか、単純に良い迷宮が多くて仕事はかどるとか、なんかそんな理由だった気がします。
ともかくテクテクと公都の石畳を歩んで行きます。
そうしていくと交易商人の荷馬車とすれ違ってどこか懐かしい気持ちになったり、遊びはしゃぐ子供たちが明るく穏やかな気分をくれました。
中心街から外れると住宅街が増えます。
その中にはスラム街と呼べるものも点在しています。
都に住んで商売してる人たちですから全体的に裕福ではあるのですが、貧しい流民もまた一定数居るのです。
さらには奴隷を押し込んだボロ屋街みたいな危険エリアもありまして……。
まあつまりそういうのは避けて通ります。
どこがヤバいかは、近所のご年輩が親切にも教えてくれました。
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冒険者ギルドにはいくつかの支部があるらしいんですが、自分はここ以外を知りません。
本部なので結構大げさで、役所か旅館かと見間違うほどに広いロビーと敷地を持ってます。
「あっ、待ってたっスよ先輩、おはよっス」
ロビーに入るとでっかい寝癖を付けたアシュリーがいました。
わざわざ待っていてくれるだなんて良いヤツです。
爽やかにこちらに駆け寄って、やっぱりなんか猫っぽく少女がはにかみます。
「おはようアシュリー。ここの受付って広いもんだから、さっそく戸惑ってたところだよ。ありがとう」
「支部の方はもっとがら~っとしてるっスよ。それにここも昼過ぎになればわりとガラガラっス」
「ふーん……」
まだ半月も働いてないだろうにそこはさすがアシュリー、元冒険科のホープ様。順応が早い早い。
彼女とのコネをこれからも大切にしようと心に刻む。寝癖すごいけど大人っぽい頼もしい。
「で、良いクエストはあった?」
「そこは先っぱぁぃ~♪ のためっス、バッチリ見つくろっておいたっス」
「ありがとう。でも朝からそういう猫なで声されるとちょっとやる気がそがれるかな」
「むふふっ、相変わらずっスね先輩。でもまた一緒に冒険出来るだなんて……嬉しいっス夢のようっス超幸せっス!」
そのセリフ、なんか2年くらい前にも聞いたような。
まあいっか言われて悪い気とかしないし。
「……俺もだよアシュリー」
「あははー、その言葉はもうちょっと情熱を込めて答えて欲しかったスね~」
ああそれはそれとして、実は先日の段階で冒険者ギルドにおもむき登録手続きをしたのです。
そこはでも冒険科出身ということで、もう書類とかデータベース化とか出来てたのでサイン一つでOK。
……とかいう驚きの謎展開だったんですけど、まあいいよね楽だし。
「それで仕事の方は……?」
「あ、うん。要望通りの多人数クエストに参加手続きしておいたっス。さ、こっちっスよ先輩、待ち合わせの部屋がちゃんとあるっスから」
待合室なんてあるのかそりゃ便利。
彼女の背中を追って広いロビーから関係者専用通路に入る。なんか薄暗い、砂利っぽい。
「編成は?」
「頭数は13名っス。前衛7後衛5スカウト1、でもヒーラーは一名しかいないっス。それが入場制限っスから」
「おーいいね。うん、最高だアシュリー。キミと友達で良かった」
まさかこうも理想的な編成に入り込めるとは思わなかったんです。
だから思わず満面の笑顔ってやつをアシュリーに向けていました。
迷宮の入場制限ってヤツにも心から感謝したいです。
だって、こうでなけりゃうちのポーションを売り込めないじゃないですか。ここ一番大事。
「先輩は女を使うのが上手いっスねー」
「何だそりゃ唐突に。知らん知らん、そんなわけないでしょ」
「……まあ良いっス。学園時代より接点増えた気がするし、ライバルも減ったっス。アシュリーは先ぱぁ~ぃの夢に協力するっスから、また何でも頼って欲しいっスよ」
ちょうど待合室の前までやって来ていました。
そこでアシュリーは立ち止まり隣をピョンッと振り返って、まるでたんぽぽみたいな自然体の笑顔を花咲かせます。
うん、ちょっと感動。
何度も繰り返すけどアシュリーは良いヤツです。友達で良かった。
いつか錬金術で何かお返しが出来るといいな。
・
…………。
……。
この都市には大きな時計塔があるのですが、それも中心街に限った話です。
公都の大半の人々は時計に縛られることのない生活を送っていました。
つまり待ち合わせにしても、当たり前のようにロスタイム的なものが存在しちゃっているのです。
これ日本人側の視点から見ると滅茶苦茶ルーズで、あり得なくて、何もしなくても良いとか落ち着かなくて、もう最初は本当に戸惑いました……。
でも冒険者ギルドの場合は違ったようです。
集合にそう時間はかかりませんでした。
そりゃ命もかかってるし、日が暮れる前に戻りたいんでしょう。
さて。
目当ての迷宮は公都より南西、郊外の農園地帯よりさらに遥か奥地にあります。
そこまでやって来ると迷宮よりあふれたモンスターが地上を徘徊していまして。
俺たちもそれを倒したりやり過ごしたりして、やっとこさ迷宮入り口まで到着したのでした。
最後に在籍していたのは冒険科ですし、ブランクがあるわけじゃないんだけど……。
ここでやっとエンジンがかかってきたかもしれないです。
というより前半サボっちゃう癖があるんでしょうね。
そこはまあスロースターターってことで、これから気合い入れてがんばりましょう。




