1-01 2/2 錬金術師の流行らない店
夕方になると赤い西日が店内に射し込んできました。
よく考えたら今日一日中、錬金釜をかき回してたような……うん、こんな日もあります。
昨日も一昨日もそんな感じでしたけど。
……でも今日はちょっと違いました。
変な客が来たんです。
変というかなんというか、まあこういうこともあるんだろうなってタイプのお客さんでした。
「じぶんがアレクサントか?」
「あ、はいそうです、いらっしゃいませ」
「アカシャの家卒業おめでとな。や、知り合いの冒険者から話聞いて来たんやけど……ははっ閑古鳥が鳴いとるなぁ……」
なぜ関西弁風。
思わずそっちにツッコミ入れたくなったけど我慢しました。
どうせめんどくさい話になります。
「ありがとうございます。お客さんは……うん、冒険者には見えないですね。何かご入用でしょうか」
「ちゃうちゃう、にーちゃんがウチにものを頼むんや。うちはこういうもんや」
「あ、ども」
名刺文化なんてあったんだ、めんどくさい。
お辞儀しかけるのを堪えてその紙切れを受け取ります。
紙もそこまで安くもないし、注目されてるってことでしょうか。
「鑑定士のモショポーさん?」
「そやっ。うちは鑑定士や、そしてにーちゃんは薬屋さんな」
「錬金術師です」
「知らん知らん、ポーション売ってりゃ薬屋さんや。そんなことよりにーちゃんな、ええ話持って来たで」
モショポーさんは20代半ばくらいに見えました。
鑑定士の仕事ってハッタリが大事なんでしょうか、貴族にすら見えるそのドレスとか、身なりがとても高価に整った方でした。
「ポーションの鑑定せぇへんか? 何なら他のもサービスするでぇー」
「え……。鑑定士……鑑定……おお……」
何かゲームっぽいな……。
そんなゲームっぽい存在が目の前にいるんだから、こりゃちょっと嬉しい、楽しい。
鑑定ってあれか、入学するときに学長が俺にしたヤツだ?
「なんや、まさかと思うけど鑑定士を知らんとか言わんで欲しいな」
「あーまあそれは何となくわかるんでいいっス」
「ああそうかい、ほな話を進めるで。うちは正規の鑑定団の所属やないけど、それでもこのへんじゃ名前も売れとる。つまりにーちゃんのポーションにお墨付きを出せるってわけや、どやっお買い得にしとくで?」
……話がなかなか読めないから意訳しよう。
彼女はフリーの鑑定士、そこそこ有名。
学園長が鑑定呪文使ってたくらいだし、それを使ったビジネスがあっても不思議じゃない。
「おいくらですか」
「そうやなぁ……50000zでどやっ!」
高っ! なにそれバカ高いんですけど!
いや、え?
ゲームとかだと普通もっともっと安いじゃん?! それこそバカみたいにさ!?
「正規鑑定団に任せたら倍やきかへんで。だからどや、ここは思い切ってうちに任せとき?」
「あー……」
なるほど、なるほどね。
世の中にはそういうからくりがありましたか、なるほど鑑定かぁ……。
それあるとやっぱし売り上げ違うんだろな。
……やっぱりやっぱり高いけど。
「どやっうちに任せとき! 悪いようにせんで!」
「いやすみません、そんなお金ないです」
そもそも50000zも金がない。
じゃあ最初からこの商談は話にならない。
「月々4500zの一年分割払いでもええで? ちゅーかにーちゃんなぁ、よっぽど安定流通してる雑貨でもない限りな、鑑定無しでものが売れるとか思わん方がええで。見たところ良いポーションやん、大したもんや、ならここは投資しとこな、なっ?」
「いやだから……。そもそもその分割払いって4000zも損するじゃないですか」
モショポーさんと言葉を交わしながら、一方で内心俺も納得する。
そりゃポーションって高いはずだと。
実はうちのアルケミポーション、自分で迷宮から採集した素材だから原価はほぼタダ。
だから本当はもっと安く出来るんだけどあえてしない。
それをしちゃうと不当廉売ってヤツで、公都中の薬屋からつるし上げを食らうから。
だからみんな仲良くいこうじゃないですかそこは。
「アカシャの家の学園長に頼んでも無駄やで。彼の鑑定魔法は人間専用や、物品専用の鑑定士に頼まんと意味ないで」
「……さすが業界人、お詳しいですね」
あの爺さんなら使えたっておかしくないけど。
まあでもそりゃ公私混同だし、そう都合良くもいかないだろう。
「どや、金がないならしょうがない、2年ローンでもええで。鑑定書も2年が期限やし」
「うーん……」
分割ならいけそう。
それで売り上げが発生するなら悪くない。
利害が一致してるように思えるけど……ただ、モショポーさんがメチャうさんくさい……。
「やっぱりいいや、結構です」
止めた。
仮に頼むにしても別の鑑定士を見繕おう。
こんな店にまで営業に来るんだから、他にも同業他社がいるんだろうし。
この手の営業は先延ばしの姿勢を見せるとつけ込まれるし、しつこいし、断っちゃえ。
「なんやて……? はは……聞こえんかったなぁ……じぶん、今なんやて……なぁ、もう一度言うてみぃ? ぬぁ・ん・やぁ・てぇ?」
モショポーさんの態度が豹変した。
低い恫喝声とガラの悪い睨みが、いたいけな店主アレクサントくんをおっかなく脅すんです。
「結構っス。いりません、必要ないです」
ああ、少なくともコイツ貴族じゃないな。
身なりだけ整えてるけど、そのせいで逆に薄っぺらく見えてしまう。
「おうじぶん、せっかくうちが来たったのに、なんや! ふざけとんのかっ! 鑑~定~士っ様をバカにしとるんと違うんかっ、んぁぁっ?!!」
「いや、他のお客さんの迷惑になるんで止めてもらえますかね」
ちょうどその頃、冒険者のお客さんがやって来ていた。
一直線にポーションの棚に向かってその手に薬瓶を取っている。
あ……! よく見れば初日に来てくれた人じゃないか。ちょっと感動。
「何や客おったんかいな、ははっ! おうそこのくたびれたおっちゃんっ、そのポーションうちが鑑定してやるわぁ!」
「ちょっとモショポーさんっ!」
せっかくのリピーター様だ。
なのに彼女がその腕からアルケミポーションをふんだくって、手のひらをかざし鑑定魔法を発動させる。
一瞬だけその目が驚きに広がるが、すぐにそれすら忌々しいとまた苛立った。
「おうわかったで! これは粗悪品や買わん方がええで!」
「え、でも……前に買ったときはすごく良かったんだけどな……」
うん、使ってくれたらわかる。
2割り増しにはそれだけの価値がある。
仮に50回復のポーションなら60も回復するわけだから。
それが同じ値段で手に入るのだから大きい。てか嬉しい、わかってくれる人がついに!
「あかんあかん! そりゃそんときが良かったんやろ、今あるコイツはダメやわ、ゴミゴミ、使えんでぇー。最初だけ質上げてごまかしてただけやぁきっとぉ~! せっっこいなぁー!」
「……止めて下さいモショポーさん、迷惑です」
なのに何だこの人っ?!
そこまで言いますかひどい!
こちとら良心的価格で暴利むさぼってやる計画なのに、それを邪魔するとか許せんし!
「む、むぅ……そうか。うん、まあ……また来るよ店主」
「すみません……ありがとうございました」
結局、鑑定士にそう言われては購入のきっかけも失われてしまう。
店内の険悪な空気に押し出されて、愛すべき最初のリピーターさんが出ていってしまった。
「……モショポーさん。これで俺、わりと穏やかな方なのですが……これはないです。もう二度と来ないで下さい」
このエセ貴族、この手の反応に慣れきってるのかも。
怒りを抑えて彼女に退店を要求すると、そりゃもー最悪にその口元がガラ悪く笑った。
やだこの女やだ、最低。
「なら出すもの出せや」
「帰ってくれるだけでいいです」
「ははっわからんなぁじぶん? こんなわけわからん商売始めて世の中舐めとるんかぁ? 錬金術ってなんやそれ、子供の妄想やん、頭沸いてるとちゃうか?」
よくもまあこれだけ言いたい放題出来るもんだなぁ。
いいや、とにかく帰らせよう。いちいちキレるのもメンドクサいし、はよ帰れ帰れ。
こっちの苦笑いにそんな、ヤクザみたいに顔近付けちゃってもう……あれそっか、これって、ヤクザだ?
……鑑定士ってこんな人種ばっかなのかな。
「こんな最高の立地で、こんなわけわからんもの売る店やなんて……ムカつくわ、潰れるわ、100%潰れる、うちにはわかるで! こんなん潰れるわ~!!」
モショポーさんってばそれだけでは飽きたらず、俺の目の前でアルケミポーション勝手に開封してがぶ飲みし始めました。
「んぐっんぐっんぐっ、ぷぁぁっ! あーーまずいまずいっ、くっそまずいでーこの薬ーっ!」
「やーーそりゃもう笑うしかないっスねー。じゃお帰りはあちらです、ささっ」
ストレスたまるなーもう。とんだ鑑定士様もいたものだ。
でもそこは我慢かな。
まともに相手にしたら余計にしつこいタイプだし、怒ったりして見せても向こうは慣れっこだ。
そもそもだ。
そもそも鑑定結果そのものだって、魔法を使った人にしかわからないじゃないか。
そんなものに頼り切った経済システムだなんて、不健全だし意味がわからない。
「なんや、もうちょい怒ってみぃ、張り合いがないやないか、あ? チ○ポコついとんのかワレぇ?」
……気に入らないなこれ。
ああでも、そうなると逆にワクワクしてきたかな。
こういうのも悪くない。
こういうのに一泡吹かせてやりたいじゃないか。
「モショポーさん」
「なんやオカマ野郎、ほれ嫌みの一つでも言ってみぃ?」
「……お帰りはあちらです」
ただまあこの人は相手しても切りがない。
貴族科で習った大仰で典雅なお辞儀をしてやると、エセ貴族様は本物を見せつけられた気にでもなったのか、動揺とか戸惑いの姿を見せた。
「……はっ! この店が潰れたら買うて公衆便所にしたるわ、せいぜいシコシコ無駄にもがくんやなぁ、ヒヒッ、キャハハハハッッ!」
はぁ……変な人。
でもそれでやっと帰ってくれた。
やっと俺の大事なアトリエに平穏が帰ってきてくれた。
まだ日も浅いけど、思った以上にこの店が大好きになっていることに気づく。
大丈夫。心乱す必要はどこにもない。
ゲーム式に解釈すると小目標が増えただけだ。
仮に表記するなら……まあこんな感じ。
[小目標追加!]
[鑑定書無しでアルケミポーションの在庫を売り切ろう!]
うとうと壷をかき回し続けるのにも飽きてきたし、なら今日中に計画を立てて活動開始と行こう。
目指せ売り上げアップ! 経営安定させて暴利を貪り錬金趣味に生きるんだ俺は!




