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1-01 1/2 錬金術師の流行らない店

前章のあらすじ

 アレクサント8歳。

 父を失い天涯孤独となる。

 やむなくある農場とブラック規約を結び、5年を農夫として過ごす。


 アレクサント13歳。

 農場との契約が切れると公都に転居。

 名門学校アカシャの家の入試試験を突破し無事入学する。

 けれども彼の学園生活は各科をたらい回しにされるという、有益だがせわしないものだった。


 職人科の鍛冶娘ダリル。

 商業科のエルフ、リィンベル嬢。

 冒険科の戦士アシュリー。

 貴族科の侯爵家三男アルフレッド、出向軍人のロドニー。

 そして錬金術師のアクアトゥス。


 アカシャの家は数多の人々との邂逅を生み、しかしそれも卒業を契機に散り散りとなった。


 アレクサント17歳。

 4年間の全課程を終えて卒業。


 長く道を迷っていた彼はせっかくの友人らの誘いを全て断り、公都職人街の恰好地を買い取りアトリエを開業する。

 店の名は、錬金術師のアトリエ。


――――――――――――――――――――

 アトリエ開業 錬金術師の流行らない店

――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――


 我が主人アレクサントはついにアトリエを公都に開きました。

 けれどもその滑り出しと申しますと、けして順風とも平坦とも呼べませんでした。


 しかしそこはアレクサントという男でございます。

 あのダリル様が気持ち悪いくらい世渡り上手と評した男でございます。

 むしろ彼は常人とは逆さまに受け止めました。


 これから何をするのも自由です。

 寝床は確保したので、後は食べ物を買うお金さえ工面できれば大丈夫。

 経営の方は不安定だが気楽にがんばろう。……と。

 何とも主人らしい話であきれます。


 しかし……。

 しかし人には生まれの星というものがございます。

 我が主人の持つ星も、けして平穏な生活に適したものではございませんでした。


 なぜなら彼は幼少期の時点で人さらいに遭い、やがて偽りの父を失い、奴隷待遇の農場生活を経て、転科と苦学の日々を過ごしたのですから。

 だからそのアレクサントが事件と無縁でいられるはずがなかったのです。

 

 さて……それでは皆様……。

 これより本編でございます。


 のんきで抜け目ない我が主人が、公国公都にて一介の錬金術師として暮らし成長してゆくそのさまを、どうぞ生温かい目でお見守り下さいませ。


 彼の名はアレクサント。

 公都にアトリエを持つしがない錬金術師でございます。

 世界を救う英雄でもなければ、立身出世を求む野心の徒でもございません。


 彼はただ、今はそのアトリエの経営を軌道に乗せることと……。

 はい。愛するこのホムンクルス(わたくし)を製造することに夢中も夢中でございました。


――――――――――――――――――



 ・



1-01 1/2 錬金術師の流行らない店


 錬金術の仕事を始めるにあたって、かねてより売り物を錬金しておいたんです。

 そりゃ商品もないのに店を買ってもしょうがないですから。


 場所はアクアトゥスさんの小屋を借りました。

 ちょうど彼女も冒険科の修練生活で忙しかったので、邪魔することもされることもなくテキパキ量産出来ちゃったのです。


 当店の主力商品はポーションです。

 薬学による調合ではなく、錬金術で生み出したのでアルケミポーションと名付けました。

 他にも石鹸とか花を使った香料とか、ハンドクリームに、すすの出にくい灯油とかの日用品系も売ってます。


 うん、アクアトゥスさんに教わったもんだから女性向けの商品がちょっと多いな……正直、今の客層に合ってないのかも。


 いや、なにせ元は薬屋の跡地です。

 閉店を知らず訪れる冒険者や仕入れ商人も一定数おりまして、そんな彼らにアルケミポーションを売りつけました。


 中には買ってくれる人もちらほらいたんですが……うーん、うーん?

 残念。予定していた売り上げには遠く及びませんでした。


 彼らは信頼出来る回復アイテムを求めてます。

 ならこっちだって高品質のアイテムを提供しています。

 効果そのものは既存製品の2割増しで、お値段すえ置きなんですうちのポーション。


 なら、おおスゴいじゃんお買い得じゃんWinWinじゃん。

 ってなるはずなんですけど、なにせ信用ってヤツがないんであんまり売れないんですよねこれが。


 いやぁ……それでももう少しくらい売れてくれてもいいんだけどなぁ……。


 いくら錬金術がすごくたってそう簡単に上手くいくはずもない。それはそうです。

 それでももう少し……もう少しくらい売れてくれても良いのに……。

 とか思いますけど……まー残念残念。


 まさかポーション販売数二桁を目標にすることになろうとは思いませんでした。自信あったのに……。


 そりゃ自分が冒険者の立場なら品質保証のあるポーションを買いますけど。

 だっていざという時にカス当たりみたいな回復量だったら死にますしー。



 ・



 そうやってぼんやりと店のことを考えながら、黙々と錬金調合を続けました。

 材料もまだ余っていたのでアクアトゥスさんのくれたレシピを参考に、別の日用品も調合してみています。


 これは確か、のどの薬だそうです。

 完成するまで何でもかんでもドロドロの液体状になるんで、どんなものになるやら想像もつきません。


「暇……客いないし……」


 魔力を込めてただ錬金壷をかき回します。


 ぐーるぐーるぐーるぐーる……。

 ぐーるこん、ぐーるこん、ぐーるこんこん……。


 ぼんやりと仕事場から売場に目を向けます。


 ぐーるぐーる……。


 煉瓦作りの外装から一変して、内部は灰色の粘土や木材で丁寧に補強されています。

 窓ガラスみたいなのはやや高価なので最小限、無数にある窓という窓は全解放のフリーパスです。

 幸いここは絶好地、周囲の遮蔽物も少なく他店と比べればまだまあ明るいです。


 それでも現代人視点から見れば薄暗いですが……。

 けれどただ闇雲に電灯で影を遠ざけるよりも、どこか健康的というか、いい匂いの風も入って清々しいです。


 ああ、なんかがんばらなきゃって気にさせてくれます。


 うん。やっぱり良い店です。

 どうもこの場所が心より気に入ってます。

 錬金が落ち着いたら棚の整理をしようかな……。


 えーと、あとあれです。

 本当はもっと錬金術の勉強がしたかったんですけど、アカシャの家じゃ学業山盛りだし、アクアトゥスさんの都合もあったし、あんまり修行出来ませんでした。


 ぐーるぐーるぐーーる……。

 ぐーるぐーるぐーるぐーる……。


 ぐるぐる回すの楽しいけど眠いです。

 寝ぼけまなこでまた売場の方に目を向けるとお客さんがいました。

 作業を止めて接客すると、2割引価格でポーションを一本だけ買ってくれました。


 ああ、伸びない客足。

 開業5日目だっていうのに、今日もいつもと変わらぬ超低空飛行の売り上げになりそうです。


 モノは良いもの作ってますし、リピーターを期待してるんですけど……それにしたってこれじゃ少ない、このまま伸び悩みしちゃうんじゃないかなと……むぅ。


 まあでも焦っても意味ないし、今はせっせと杖でかき回すしかありません。

 まさかダリルの杖をこんな用途にも使うことになろうとは思いませんでした。

 ありがとうダリル。そういえばあの香水使ってくれてるかなー。


 ぐーるこん、ぐーるこん、ぐーるぐーるこん……。

 ねむ……。


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