0-10 学園編の終わり、第三の迷宮と入場制限 2/2
「ふーん……アレックスってば意外と人望あるのね。別に誉めてなんかいないけどっ」
「女の子がこう……多い気がするのはさすが先輩って感じっスねー」
「ああ、コイツの女癖の悪さを実感する。ドライなようでとんだ女ったらしだな」
ああうっさいうっさいうっさいー。
最初からわかってたけど個性も自己主張もすごい連中ばっかりです。
その点、アクアトゥスさんとロドニーさんは良いね。
黙々と先陣を切って露払いをしてくれています。
そう、錬金術師のアクアトゥスさんの戦いっぷりったらもう……カッコイイ。
どうも自作のマジックアイテムらしくて爆弾投げたり、それが爆発したり燃えたり凍ったり、かと思えば治療薬を取り出してくれたり……。
いやぁいいな、錬金術いいなぁ……。
「子供らが通った痕跡ないね。エレベーターの履歴見る限り、これマジで最下層にいるのかも。むふふっ、自作武器の出番がこんな早く来るなんて思わなかったけどっ」
みんな強いです。
リィンベル嬢もエルフですし、俺の真似して半期だけ冒険科に在籍してみていたそうです。
学園でも中級迷宮を突破した限られた生徒だけが入れる本格迷宮。ってふれこみのはずなんですけど、あれ俺の出番が無い……。
アイスボルト撃とうとする前に、オークとかハイゴブリン、ジャイアントビーがどんどん灰になってくんですけどこれ……。
まあいいっか、彼らが疲れるまで温存させてもらおう。
黙々と俺たちは上級迷宮を下っていきました。
「どうっすか先輩、自分これでも強くなったつもりっス。誉めて欲しいっス、また先輩と冒険出来るなんて夢のようっス!」
「うんさすが本職、普通に頼もしい」
さすがに職業軍人のロドニーさんには及びませんでしたが、それでも立派なものです。
今ここが10層目。上級迷宮は13層構造らしいのでもうすぐお仕事も終わりです。
話ではボスがいるわけでもないので、うん、例のメダリオンとか楽して手に入るなら悪くない気がしてきました。
さあ、みんながんばりましょう。
さすがにそろそろ手を貸さないと仲間が消耗しちゃいそうなので、ポンポコとアイスボルトとウィンドカッターを遠方の敵に撃ち込んじゃいます。
やばい、ちょっと楽しくなってきた。アルフレッドもノリノリだし、子供が心配だけど……やっぱり迷宮って楽しいなぁ。
・
でも残念、そんな都合の良い話なんてないです。
メダリオンこそ楽して手に入りましたが……子供たちなんていなかったんです。
代わりに……14層目の階段がそこに現れていました。
地面が突然陥没でもしたのか、がれきまみれの床に下り階段が伸びていたのです。
「下りるぞ」
アルフレッドが一言そう告げると、誰もが迷うことなくそれに従いました。
俺が不平を言う隙もなかったです。
大丈夫なんでしょうか。
ああ、やっぱり……。
……やっぱり大丈夫じゃなかったです。
「良かった……心配したじゃない! ああ良かった……もうっ何で勝手に入ったのっ!」
「まあまあリィンベルちゃん、今はそれどころじゃないし早く戻ろうじゃん。はー汗かいたー」
14層目にて俺たちは子供らを発見しました。
ダリルが面倒見ることになって、俺たちは怪しいその14層目から上がろうとしました。
でも……子供たちを餌にして待ち伏せでもしてたんでしょうか。
13層目への上り階段の前に、想定外のものが待っていたのでした。
「ええっ、なんスかコイツ……ッ?!」
「これは……リィンベルさん、子供らのガードに回って下さい。軍人の僕が言います。とてもまずい相手です」
ソレはスケルトンでした。
でもただのスケルトンではありません。
三対の腕に剣を握った、身の丈2.5mもある剣神とでも呼べるようなものでした。
こんなんと戦えと? もー見るからにヤバ過ぎる。
「左右から先制するぞ、アシュリー!」
「ほいほいっス、了解っスよアルフレッド」
ロドニーさんが俺たち後衛を守り、左右から命知らずな冒険科組が突撃します。
しょうがないのでそれにあわせて、俺もアンデッドに利きそうなファイアボルトを撃ち込みました。
結果、アカシャの家学生部隊と骨の剣神は長い交戦を繰り広げることになります。
戦いはやがて膠着し、疲れを知らぬアンデッドに少しずつ押し込まれていくのでした。
「強行突破は無理ね……。どうするのよアレックスっ、魔法ばっかり撃ってないで何か考えなさいよっ」
「いやいやリィンベル嬢、無茶を言わないで下さいよ」
そこでちょいちょいと背中を小突かれる。
アクアトゥスさんだ。
「魔法道具……これが最後……です……」
「わー、そりゃ巨大なピンチが広がってるし……。え、なに、なんで俺に渡すしアクアトゥスさん?」
最後の切り札的なものなんでしょうかこれ。
今まで彼女が投げてたものより、明らかにゴテゴテと大きな……ガラス製の氷塊みたいなのを渡されました。
「このままだと……全滅……血みどろ……です……」
「やな言い方しないでよ、そんなつもりないし」
「だから……これは賭け……アレクサントさんが……これを使うの……」
「や、意味わかんないんですけど……」
だって彼女の錬金術を見学させてもらった時に、当の彼女が言ってたんです。
錬金術師のマジックアイテムを使うには、錬金術の資質が必要だって。
つまりこの賭けの一発だって、彼女がその資質を使って発動させなきゃ意味ないです。
「ずっと見てました……アレクサントさんを……。ずっと見て……この結論に……たどり着きました……」
「いやいや俺にそんな奇跡みたいな力ないし。てかマジヤバいし、前衛崩れる前にこれ投げてよアクアトゥスさんっ!?」
「大丈夫……だって……あなたは私の……」
キュッと少女の白く繊細な指先が、切り札握った少年の手を包みます。
するとどうしたことでしょう。
何か暖かいものが流れ込んでくるような……懐かしいような……不思議な感覚が込み上げてきます。
「よくわからんがアレクサントッ、もう俺はもたんぞッ! ぐっこのっ、ぐぁぁぁっ?! もういっそ従えっ、ここで崩れるくらいなら、力の限りそれを投げろぉぉっ!」
「以下同文ッス! 毎度ながらごめん先輩っ、MP切れるっスッよもぅっ!」
もーわけわからん。
ヤバいってことしかわからん。
このままじゃジリ貧で、起死回生の賭けが必要なことくらいならわかる。
でも俺がこれを投げる意味がわかんない! なにが起こるっていうんだ、そんなはずない!
「はやく……」
「ぁぁぁぁぁ……もう知らん! おら投げるぞっおらぁーっ、もーヤケクソだーっ! 食らえ怪物っ、これぞ確定ッ不発ッ弾ッッ!!」
「――! みんな下がってっ、巻き込まれる……っっ!!」
へ……?
俺が唐突にそいつをぶん投げると、アクアトゥスさん必死の警告が飛び出した。
鬼気迫るその言葉に、頼もしい鋼の前衛らが慌ててこちらにバックステップします。
「ひゃっ、うひゃぁぁぁぁーーっっ?!!」
それはダリルかそれともリィンベルか、どっちもなのか。
爆音と真っ白な閃光。
それにやや遅れて彼女らの叫び声が上がった。
骨の剣神はそれに巻き込まれて、とんでもない白熱光が収まるころには跡形もなくただの灰となっていた。
「うそーん……うわ、爆弾すげー……。えっあっちょっ、アクアトゥスさん何をっ、うひゃーっ?!」
あっけにとられる俺たち。
でもアクアトゥスさんは想定してたみたいで、しかもなぜか俺の貴族科制服のボタンを外してシャツごとたくし上げました。
いやちょっとっ、なにっ、恥ずかしいんですけどっ! 積極的ぃーっ!
「ッッ……!」
なーんか衝撃を受けてるみたいでした。
いやぁ、あの爆弾の威力の方に驚くべきだと思うんですが……。
「この痣……生まれつき……ですか……?」
「ああうん、たぶんそうだと思うけど……」
「ぁ……ぁぁ……ぁぁぁぁ……っっ。そう……やっぱり……やっぱりそう、だったんだ……」
アクアトゥスさんの瞳に涙が浮かびました。
普段無口なはずの彼女が積極的です。
何か興奮するような要素があるのか、顔が赤くやたらと思い詰めています。
「ハッハッハッ、なにこの展開。もしかして生き別れの兄でしたーーとか。んなわけあるわけないか」
そんなご都合主義あるわけないじゃん。
「ぁぁ……会いたかった……会いたかったよぉ、兄様っっ兄様ぁ……っっ!!」
……ありました。
・
えーーーー。
事実は小説よりも奇なり?
あのーー申し訳ないんですけど、俺の方がその事実って話の本文に付いていけないです。
あー、無事生還しました。
子供たちはメチャメチャ親御さんとか先生方に怒られて、鼻水たれ流して泣いてましたが。
流れからするとそれもやむ無しです。
それはまあおいといて……。
当惑して止まないのですが、俺ばかり戸惑っててもしょうがないのでご説明いたします。
錬金術師のマジックアイテムは錬金術師にしか使えません。
一般人用にマイナーチェンジしたものもありますが、それを錬金術師であるアクアトゥスさんが持つ理由もありません。
さらにもう一つ。
錬金術師は才能に極端に依存します。
使える人がほぼ存在しません。
つまり。
あの色白で銀髪の魔女、アクアトゥスさんから見ればそういうことなのです。
彼女から見れば俺は、失踪した彼女の兄も同然らしいのです。
仮にこれを信じるとしましょう。
そうなると……父には申し訳ないのですがある仮説が浮かびます。
よくよく考えれば、彼はもしかして人さらいだったのでないでしょうか。
母親がいないというのもおかしいです。
7歳以前の記憶が綺麗さっぱり消えてるのもおかしいです。
そのことを彼女に説明すると、奴隷売買組織の中には魔法で記憶を上書きする手口もあると言い出しました。
そう言われてみればそんな気もしてきちゃうような……。
うーん……何が真実なのかまるでわかりません。
ですけど無理に結論付けるならこう言って締めましょう。
もう手遅れです。
俺は何一つ覚えてません。
父はもう死んだのだから、全ては闇の中です。
それが最低限語り得る数少ない、救いようもない真実です。
俺が俺であるのはもう変えようもない現実なのですから。




